第十七話 拳銃
――12月20日 コンクリートに囲まれた部屋
「鈴谷…未来…?」
美青年はそのままニヤリと微笑む。
まるで刑事ドラマの犯人役のような美しさを持っているが、そんなにいいものじゃない。
この美青年は本物の殺人犯で……実際に人を殺す瞬間を目撃してしまったから未来はここに居るのだ。
「ふーん、じゃぁ俺の名前もわかるよね、宮下蒼真」
すると急に興味がなくなったように生徒手帳を未来へ投げ返す。
「つまり俺のことを相当憎んでいる…」
興味がなさそうかと思えば、今度はクスクスと笑い始める。
それはそれは楽しそうに…
「私のお父さんを殺したの……あなたでしょ?」
「それは違う」
即答だった。
同時に覚めた表情に変わる。
しかし未来には意味がわからなかった。
どんな経緯があったのかは知らないが公園でひとりの男性をナイフでさして殺した。
そして十年前の事件の時も逮捕をする有力な証拠はなくとも、疑われても仕方がないような状況だったのを、事件について必死に調べた未来は知っていた。
決定的な証拠はないだけで、彼はほぼ犯人だと考える人は未来だけでなくたくさんいたはず。
「嘘だっ!」
賢いことだとは思えなかったけれど、考えるより早く体が先に行動した。
しかしそれは数秒後には後悔へ変わる。
カチャリ…
「これ、なんだかわかるー?」
未来に向けられた蛍光灯の光を受け黒光りする物体。
これが何なのか、理解したくない。
「よくドラマとかでみるじゃん、拳銃だよ」
そう言って未来の頭に押し当てる。
引き金を引けば命中率100%
未来は怖くて口を聞くことはおろか、目をつぶることしかできなかった。
「俺だって好きで殺してるわけじゃない…死にたくないならもっと考えて行動しないと」
未来に近づき耳元で囁く。
まるで凍りつくかのような冷たい目、冷たい声色、冷たい武器の感触…
しかしそれとは対照的に
「本当に何も覚えていないのか…」
急に寂しそうな声色になるのを感じ、未来は目を開けた。
銃口は頭から離れたものの、まだ未来に向けられている。
その寂しそうな表情になにか引っかかるものを感じる…
未来の寂しそうな、怯えた表情に気づいて、
「あ、ごめん怖かったね」
苦笑いをして銃をしまう。
先程とはまるで別人のよう。
「そうそう、監禁したり人質をとる犯人ってさ、何考えてると思う?」
にっこり微笑む。
彼の話していることは理解できるのだが、ころころと変わる性格に追いつけず半分呆然としていた。
「どうしてこの話…?」
「んーと、クイズ」
誰もが心を奪われそうな爽やかな微笑みなのに、犯人というだけで恐ろしい微笑みに変わる。
「ひとつはね、身代金目的、お金持ちの子が被害にあう。 二つは、ストーカー目的、その人をそばに置いておきたいと思う狂った感情から…未来ちゃんが拐われた理由はどれだと思う?」
「……口封じ?」
未来が答えると蒼真は笑い出した。
「未来ちゃん面白っ、口封じだけだったらとっくに殺してるよ」
「じゃぁ、なんだって言うんですか?」
さっきのように銃を向けられ殺されかけたら、さっき従ったのが元も子もなくなるので、調子は平然としているものの、内心少し怒りを感じていた。
「んー、ひみつかな、そのうちわかるよ」
蒼真は近くのテーブルに置いてあったデジタル時計をベッドのそばに置くと、未来を縛っていたロープを解き始めた。
「未来ちゃんは何も悪くない、協力はしてもらうけど僕が依頼してるんだから縛っておくなんてよくないよね」
そして未来の右足に鎖付きの足枷を付け、腕は後ろから手錠をかけた。
これで手の自由はきかないがある程度の距離は歩くことができるようになる。
「今は夜の11時、こんな状況じゃ寝るに寝れないだろうけど体を休めるといいよ、カメラとかつけてないし…監禁する形にはなっちゃってるけど監視する趣味はないから」
そう言って彼は部屋を出て行った。
どうやらここにはもう一つ部屋があるらしい。
未来はただどうしたらいいか分からず、部屋の中を歩き回ってみた。
小さなテーブルと椅子がひと組と先程寝かされていたベッドしかない、殺風景な部屋。
しかも鎖は思った以上に短く、部屋の端までは行くことができなかった。
しかし、ギリギリ中に入れそうな部屋を発見した。
ドアを開けるとトイレと簡単な洗面台、歯ブラシ等が置いてあった。
ということは、簡単に殺す気はない代わりにここで暮らせということなのだろうか?
一周したらすることがなくなりベッドに寝て目をつぶった。
すると、自分がこれからどうなるのか、不安と恐怖で涙が溢れた。
10分ほど泣いていると蒼真が入っていった部屋から声が聞こえた。
「未来ちゃん、泣いてるの?」
「…!?」
驚き、声をもっとちゃんと聞こうとドアに近づく。
ちゃりちゃりと鎖とコンクリートの擦れる音がする。
「怖がらせてごめん…ちゃんと明日話すから」
それだけ告げると足音が遠ざかっていって、声もそれ以上返ってこなかった。
未来はまたベッドに戻ると恐怖からくる疲労ですぐに眠ってしまった。




