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頑張れよ

心臓が張り裂けると思うほど大きく僕の脈がうつ。確かに昨日高校に行ってみると言ったものの実際に朝になると、やっぱり行くのをやめようと思ってしまう。だが行かないと言うと、カンナがうるさい「意気地無し」「ニート」「陰湿男」「オタク」「童貞」等と言ってくる。さすがにそこまで言われると僕にもプライドがあるので、久しぶりにハンガーに掛けてある制服を着る。外は暑いので薄い灰色のズボンにワイシャツを着る。


「似合ってますよ!奏太様!」

「またお世辞だろ」


当たり前だ、今カンナが僕を褒めた意図はきっと、僕を良い気分にして、途中で高校に行くのを挫折させないようにするためだろう。


僕は机の引き出しの奥にしまっていた時間割表を引っ張りだし、確認する。今日の授業は…七教科全部だと…。


「め、めげないでください!」

「いいじゃねぇか、お前は授業受けないんだからよ」


そう言い捨てて僕は携帯を制服のズボンのポケットに入れた。


下に降りてリビングに入ると、久しぶりに家族の顔を見たような気がした。お母さんは台所で忙しそうに妹とお父さんと自分の分の弁当を作っていた。お父さんは朝食である味噌汁を飲みながらニュースを見ていた。妹は携帯をいじりながら行儀悪く朝食をとっていた。皆、僕には気づいていない。


「お、おはよう」


僕がそういうと、妹はこっちを見て少し驚いたあと、すぐに携帯に視線を戻す。お母さんはこっちを見ると、目頭に涙をためた。いやいや僕がそんなに高校に行くことが感動的なのか!?お父さんは「おはよう」と一言だけだった。


なんか僕はここに居たくない、いや居てはいけないような気がしたのですぐに家を出ることにした。


携帯で時間を見てみると七時十分近くだった。ここから歩いて高校までは三十分かかるので、時間が余りそうだ。急にカンナが白いショートヘアーを揺らして、下からピョコッとでてきた。僕は前もって用意していたマイクつきの片耳イヤホンを携帯にさす。マイク付だから小さな声でもカンナに聞こえる。


「奏太様~、家族とお話はしないんですか?」

「別に、話したいとは思わない」

「妹さん可愛かったですね~」

「いきなり話題が変わったな」


僕の妹は前にも説明した通り頭がよくて勉強もできるし、しかも兄からも認めるぐらい可愛い。だから休日は部活がなければ友達と遊びにいくので、あまり朝以外は顔を合わせない。


「やっぱり、奏太様の妹でしたね」

「どういうことだ」

「似てますね、ということです」

「似てない。あいつは頭も良いし運動もできるんだ」

「そういうとこじゃありません」

「それじゃあどこが似てるって言えるんだよ」

「ん~、教えてあげません」

「はぁ?」


そう言ったまま画面が暗くなってしまう。


近くのコンビニで暇潰しでもするか。


僕は近くにあったコンビニに入ると、涼しい風が僕を包んでくれる。季節は夏に近く、このごろは暑さが増してるような気がする。


なにも買わないのだが、コンビニに陳列されている商品を一通り見ていき、最後に雑誌コーナーの前で立ち読みをする。


「奏太様、なに見てるんですか?」

「別になんでもいいだろ」


適当にとった雑誌なのだが題名が『ののの』というもので、内容はファッションを中心に芸能人のスクープとか僕の妹の写真とか人気のCDとかが書かれていた。………え、まじで。


「うええぇぇぇえぇっ!」

「奏太様どうしたんですか!?」


僕の妹がなぜ『ののの』に…。


「うっるさいな~。久し振りに高校に行くと思ってたらこんなとこでなにやってんだよ。兄さん」


この声と僕の事を少し軽蔑してさん付けしてくるのは


「花梨か」


そう僕の妹だ。


「なれなれしく名前で呼ばないでよ。苗字で呼んでくれない?さん付けで」

「いやいやおかしいだろ、なんで妹の事を苗字で呼ばないといけないんだよ」

「私は兄さんみたいな人と家族って信じたくないの」

「でも兄さんって呼んでるじゃん」

「あ、うぅ、これは昔の癖で」


花梨は僕の腹に拳を入れてきた。さすが運動もできる人のパンチは違う。


スタスタと花梨は僕の横を通り過ぎ、アイスを買いにいった。


ちなみに花梨は電車通学で電車はこっから歩いて二十分のところにある。


「奏太様、妹とはあまり上手くいってないみたいですね」

「まぁ、昔の僕に比べたら今の僕は幻滅だと思うよ」

「まぁまぁ、気を落とさずに」


僕はコンビニから出ることにした。


コンビニから出て、歩道に入ると暑い日差しが体に当たってくる。コンビニで飲み物でも買っといた方が良かったかな。


いやそれより、花梨に雑誌の事について聞いてない。


花梨に話を聞くためにコンビニの方を向いたら、花梨が僕の目の前に立っていた。


「これあげる」


そう言って差し出してきたのは一つのアイスに木の棒が二本刺さっていて、二つに割ることができるアイスの一本だった。


「おう、ありがとう。そうだ、あの雑誌はなんだ」

「別に、ただ遊園地で友達と遊んでた時に写真撮らせてって言われたから承諾しただけ」

「そういうのは危ないから、親の許可をとってだな…」

「あーぁ、そういうとこは変わってないね。このシスコンが」

「んなっ!」


すると花梨は逃げるように走って駅のある方に走っていく。十メートルぐらい離れたところで花梨は立ち止まり振り返った。花梨の茶髪のサイドテールが風に揺れた。


「頑張れよ」


と一言残して花梨は再び走っていった。

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