壊してやる
どういうことだ?急に絵に描いてあった短剣がでてきた。意味が分かんない。
「これからすることは単純明快です。後ろの人を【鉄の短剣】で殺しましょう」
「こ…殺す!?」
「はい、そうですよ。だってゲームなんだから敵が出てきて倒すのが当たり前でしょう?」
つまりあの男はゲームのなんも感情がないモンスターとおなじということか?それともただの変人か?後者が有り得るかもしれないが短剣が出てきたり、電柱が折れてたりしてたから前者の方も信じなくもない。
「どうしたんですか?考えごとですか奏太様。早くしないと死んじゃいますよ」
僕はすぐに後ろを向くと、男は一メートル近くまで来ていた。やはり半自主的自宅謹慎をしていたから体力が無くなり、走るスピードが遅くなっていたか。息もあがってきた。しかし、一番驚いたことは男が担いである物だった。この男はさっき鉄のランスと言っていたが、僕の鉄の短剣と同様実体化しているのだ。
【鉄のランス】は盾とスピアの二つがあり、鉄でできていてデザインはシンプルな盾の大きさは上半身をスッポリ隠す大きさだ。スピアは一メートル五十ぐらいあるかないかぐらいだ。こちらのスピアもシンプルだ。
ゆっくり見てる暇ではない!これはゲームだとかカンナがぬかしてるけど今、僕がいるのは現実だ。本物の肉体があり、その肉体を自分の意思で動かしている。
「奏太様~、早く倒しちゃってください」
「うるせぇ!」
「さっきまで敬語を使っていたのに酷いですね」
「それじゃあこの状況を打開できる方法はあるのか!?」
「貴方の手で追いかけてくる人を殺せばいいんです」
いつもの様に笑顔でカンナは話してくるが「殺す」「死ぬ」という言葉を平気で使うな。いや、機械だから平気なのは当たり前か。
「この野郎!」
そう言いながら後ろの男がスピアを僕に対して突き立て、一気に腕を伸ばし僕の頭に向かってスピアを放った。
運良く僕は転び、スピアは空を切った。しかし男はすぐにもう一回放つためにスピアを持っている腕を曲げる。
「や、やめてください!」
僕があらんかぎりの声で言うと、男はピクッと体の動きを止め、上半身を隠していた盾をどかす。
「お前、もしかして奏太か!?」
男は顔を近づけてくる。茶髪が目の辺りまであり、耳ピアスをしていて、この明るい声は何度か聞いたことがある。たしか同じクラスだった気がする。名前が思い出せない。
「まさか忘れた?」
「………」
「俺って影薄かった?」
「………」
あ、出てきちゃいました。僕が友達がつくれない理由、その会話をしてる人の目を見ると固まってしまい、息ができてるのかも分からなくなってしまう。だから僕にとって周りの人は目を合わせると石にさせるメデューサと同じなのだ。
「俺と喋りたくないの…?」
なんで泣きそうになってんの!?メンタル面弱すぎない!?と突っ込みたいのだが固まって話せません。しかし、このやり取りで思い出せた。この男は千寿和也見た目はチャラい感じがするけど温厚で周りの人に信頼されていてスポーツマンだというが勉強は駄目らしい。
「せ、千寿」
「そうそう!思い出してくれたか!ありがとう!」
礼を言われることはなんもしていないのだが。
「そうだそうだ、なんでこのゲームやってんの?」
ゲーム…モビフォンのことか。僕も知りたいぐらいだよ。
「…わかんない」
「………ん?」
そして、僕の声の小ささ!
「わかんない」
「まじか~」
「奏太様、失礼ですがこのお方は?」
「千寿和也、同じクラス」
「おぉ、それではお友達ということですね!」
うーん、なんて返答しようか。いや答えは決まっている、Noだ。
困っている表情をしていると、カンナがあることに気がついた。
「あ、そうでしたね。奏太様は友達がつくれないからひきこもっているんでしたね。すみませんもっと早く気づくべきでした」
あ、うざい。こんな感情がまだあったかと自分でもビックリだ。家でネットしてるとき掲示板などで色々と僕は叩かれたりしてることがあるが、一年前ぐらいか僕は悟りを開くことができてスルースキルを身に付けたのだが、今回だけは無理だった。
「ちょ、奏太様、なんで私を地面に置くのですか!?そして、なんでそんな大きい石を持ってるんですか!?」
「壊してやる」
「奏太様すみません!本当にすみません!私は本当の事を言ったまでですけど、すみません」
僕は両手で持ってる石を振り上げる。
「ふあぁ。壊すのはやめた方が良いよぉ」
間の抜けた様な声がどっかからか聞こえる。
「おぉ、無視してて悪い悪い。トク」
そう言いながら和也はジーパンの後ろポケットから携帯を取り出した。
「別に怒ってないしぃ、むしろ無視されてた方がしゃべらなくていいしぃ」
つまり、和也のカンナ的なやつか?
「トクがお前に話したいことがあるんだってよ」
和也が携帯を僕に渡すと、画面には青い長髪で後ろ髪を首辺りで括ってる男がいた。
「奏太って言ったけぇ?このエリアでのデスペナルティは分かるよねぇ?」
「うん、まぁ現実で死ぬんだよね」
「そぅ、正解。このエリアで死ぬということは体力が無くなるか、携帯が壊されるかのどっちかなんだよぉ」
つまり、今さっき僕がしようとしていたことはつまり、自分自身を殺そうと思っていたのか。
「って…信じられるか!」
なんでだろう携帯に向かっては大きな声で話せる。
「君ってめんどくさいね、和也は単純馬鹿だからすぐに信じてくれたのにぃ」
「話が聞こえてるよトク!」
「聞かせてんの、hearじゃなくてlistenなの」
「何を言ってるんだ?」
「単語の意味も分からないのかよぉ、お前に言ったのがおかしかった」
トクが一つため息をして、僕の事を見る。
「最初の敵が和也の友達でよかったよぉ」
「いや、僕は…友達じゃ…」
「そうなんだ、友達じゃないなら殺してもいいよねぇ?」
だからなんなんだよ、このカンナといいトクといいすぐに怖い単語使うなよ。
「いーや、俺は知り合いだったら殺したくない」
あ、和也も僕のことは知り合いっていう認識なんだ。そりゃあそうだよね。