ハッピーエンドでいいですか?
僕は机に顔を突っ伏し、深呼吸をした後、もう一度転校生の顔を見てみる。
やはりカンナである、人間の姿だから栞奈と呼ぶべきか、いや、まずはそのことではない。
「自己紹介をよろしく」
先生が栞奈を教卓の前に立たせて、黒板に名前を書き始める。
白いチョークで書かれていく文字はやはり、栞奈のフルネームである『伊織栞奈』である。
「伊織栞奈といいます、このクラスにいる才藤奏太という男の人のことを、奏太様と呼び、四角い箱に閉じ込まれながら生活をしてきました。よろしくお願いします」
一斉に栞奈への先生を含むクラスのみんなの目線が僕に移る。
僕はみんなの変な誤解を解くため、テンパりながら立ち上がり、頭がグルグルとごちゃまぜの状態で言い訳を試みる。
「え、えっと…栞奈が言ったことは間違いではないですが、みんなは誤解してます。つまりですね、たしかに栞奈を箱に、僕は入れましたが、箱と言っても携帯のことですよ」
もう、駄目だ。『モビルフォンウォーズ』の事を説明できるはずがないし、どうすれば…。
「ぷぷぷ、あはははははは!本当に人前ではなにもできないんだ。奏太さ…じゃなくて奏太君。さっき言ったことは全部嘘なんで、気にしないでね」
目に笑い涙を浮かべながら、栞奈はクラスのみんなの誤解を解いた。
目を丸くしながら呆然としている先生に近づいて、栞奈は何処に座れば良いかを聞いて、その席に座った。
一番後ろの僕とは反対側の廊下側の後ろの席だ。
栞奈が座って、鞄を机の横にかけたあと、僕と視線を合わせてニヤリと笑った。
そこで先生も我にかえり、朝のホームルームをこなしていった。
相変わらず隣の席の金髪の人は寝ているだけだ。いや、口元が緩くなってやがる、寝たふりをしながら話を聞いていたってことか。
「これでホームルームを終わる」
そう言って先生は教室から出ていった。
僕はすぐさま、隣で寝ているふりをしている金髪と、ニヤニヤしている白髪の女二人を引っ張って、人通りの少ない屋上に向かう階段に連れて行く。
「なんだよ、こっちは眠りたいんだよ」
わざとらしく目を擦りながら言ってくる。
「あ、やっぱり奏太様と言った方がいいですか?」
こちらもわざとらしく敬語で言ってくる。
どちらも口元を緩くしながら笑いをこらえて話してくる。
「殴ってもいいですか?」
拳を顔の前に持ってきながら僕は話す。
「つうか、なんで敬語なんだよ。ゲームのなかではタメだったくせによ」
紗綾が僕の話をスルーしてくる。
「え、まぁ、なんかあの時はいっぱいっぱいで…こうやって生身で話すとなると…」
急に紗綾が僕の事を壁に押しあて、顔を近づけてくる。
「今のお前うぜぇな。うじうじしてよ」
いやぁぁああぁあぁあ!!外見だけ怖いタイプだと思ってたのに、中身も怖い人だ!
「いや、あのえっと、すみません」
僕は涙目になりながら必死に謝る。
「はいはい、終了~。早くしないとチャイムなっちゃうよ」
僕と紗綾の顔に手をあてて、左右に開きながら栞奈が間に入ってくる。
「奏太君は何を私達に聞きたいの?」
なんかいままでカンナから「奏太様」と言われてきたからなんか、しっくりこない。いや、ここでそんなこと言ったら確実に変態だ。
「まず、携帯が光輝いて、壊れていったのに直っているのと、その後の事は曖昧になってるから聞かせてください」
「携帯は礼司がデータごと直した。まぁ、あまり意味はなかったんだけどね」
「勝手に電話帳覗きやがったな」
「うわー、たまに敬語にしないのね。めんどくさいね奏太君は。電話帳にお父さんとお母さんしかいなくて、まさかの妹のメアドすらしらないっていうね」
「うっ…」
「まぁ、その後のことなんだけど、礼司が言うには作戦が終わってみんなが少し気絶してる間に奏太君と携帯の破片を持っていって、国会の人たちの記憶を消去して終わりーてきなかんじ」
「随分アバウトですね。それじゃあ、次に何故栞奈が生きているか。あの作戦が終わったらモビルフォンウォーズのデータは全て削除されるはずだったきがするのですが…」
「奏太君の頭のなかに私の体のプログラムが入ってるのは分かってるよね。それじゃあ、何故前に礼司の手によって削除されたのに、私は記憶を保持したまま蘇ったのだしょうか?」
「僕の記憶も使ってバックアップしたから?」
「正解。そして、昔の私の記憶は紗綾の脳の中にあるし、もともと私の体は保管されてたから、その体に奏太君と紗綾のデータを入れれば完成」
「いや、でもさ、もともと死んでるんだし、臓器とかを復活させるのは無理なんじゃないですか?」
「そこなんたけどね、奏太君の臓器を少しだけ頂戴したの」
………。
……。
…。
「ええええええぇぇぇぇぇぇえぇえええぇっっっっ!!!!???どういうことですかっ!?」
「それも簡単。奏太君の臓器のDNAを元に作ったものだから」
「いやいや、それでも適合しないと意味がないじゃないですか」
「私のデータを体内に入れてたんだから、あなたのデータ(DNA)にも影響があったから、そこを貰ったの」
「もうそこはいいや、僕の頭がついていけない。それより、いつやった!?」
あ、そういえば今日…。
夢で二人に襲われると夢を見たんだっけな。つまり、紗綾と礼司か。
「何故、僕に相談しなかったんですか?」
「拒否られたら殺すかもしれないから」
「紗綾さん一回殺意をおさえてくださいませんか?」
僕は盛大にため息をついた。
そのため息は屋上のドアのすきま風で吹き飛ばされていき、僕の髪を揺らした。サラサラと一本一本が自立しているかのように動き、制服は少し傷がついているもののそれはまるで戦士の勲章かのように誇らしかった。
栞奈と紗綾の目を交互に見て、口元を横に開き、口を開く。
「あぁ、もうどうでも良くなった。つまり、この物語はハッピーエンドでいいんですか?」
「もちろん!」
「当たり前だ」
世界の内に一人生まれたって、世界は変わらず廻る。
世界の内に一人死んだって、世界は変わらず廻る。
世界の内に一人が変わったって、世界は変わらず廻る。
世界に溢れる『ある人の物語』はある人によって作られ、壊され、朽ちていく。
ある人の『世界』の内に一人生まれると、ある人は喜び、感激し、感謝する。
ある人の『世界』の内に一人死ぬと、ある人は悲しみ、泣き、絶望する。
ある人の『世界』の内に一人が変わると、ある人は勇気を持ち、前を向き、進み、転んでも立ち上がる。
ある人が死ぬと『世界』が終わり、壊れ、朽ちていく。
しかし、それでは終わらない。
その『世界』は他の『世界』と繋がっている。
一人一人の『世界』絶えず連鎖し、反応し、呼応する。
そして、そのある人の『世界』は本物の世界に繋がっているかもしれない。
本物の世界を初めて変えるのは、一人一人の小さな小さなある人の『世界』かもしれない。




