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じゃあな奏太!



∇▲∇▲∇



携帯でセットしていたアラームが鳴り、上半身を起き上がらせて、欠伸をした後アラームを止める。


変な夢を見た。ある怪しい二人組に体を拘束されて体にいろんなものが刺されるという夢だ。まぁ、気にしないでおこう。


重い瞼に反抗しながら目を擦り、おぼつかない足どりで階段を下りてリビングに入ると、そこには誰もいなかった。


今日の予定は妹は朝練、父と母は早めに出勤ということで、テーブルの上に一つのメモ用紙と朝飯だろうベーコンエッグがあった。


椅子を引いて、そこに頬杖をつきながら座り、メモ用紙を手にとって見てみる。


『おはよう。今日はベーコンエッグたから、パンでもごはんでもいいよ。それと、学校頑張ってね』


というものだった。別に重要な事を書いていないメモ用紙をテーブルに置き直して、ベーコンエッグにかかっているラップを外して、箸で食べていく。


朝はあまり食えないので、主食は食わずに、おかずのみに箸を進ませる。


朝食を食べ終え、自室に戻り、制服に着替える。


鞄を肩に担いで、携帯をポッケへと滑り込ませ、もう一度背伸びをする。


窓から射し込む太陽の暖かな光で眠くなりそうだが、頬を自分でピシッと叩いて、眠気を飛ばす。


「いって参ります」


一人言のように呟き、長い間世話になった暗い生活に別れを告げた。


本来『いってきます』とは『行って(帰って)きます』という意味である。つまり、僕はこれでこの生活に帰ってはこない決意だ。


自室の扉を閉め、背中を向けて、前に歩き出す。



∇▲∇▲∇○●○●○



私はあの時、体が壊れていくのが分かった。ポロポロと、まるで氷柱に日光が当たり、溶けていくかのようにゆっくりと着実に体がなくなっていく。


奏太様のバックアップ機能が使えないほどに細かくなり、生き返るということはムリだ。


今回の作戦の概容は、私が身を呈して行うものだ。私の体には異電子があり、ある物と併用して使い『モビルフォンウォーズ』の全データを消去することだ。つまり、私も消去してしまうということだ。


奏太様は、最初は反対してましたが、私の無理強いを聞いて、納得してくれました。だって、お父さんが作ってしまった技術だから、娘がしっかりと後片付けをしないといけないから。


あぁ、こんな電子の姿でも、奏太サマに伝えときたカッタな。私のキモチを―――。



∇▲∇▲∇○●○●○



「奏太!おはよう!」


教室に入って、最初に挨拶をしてくれたのは和也だった。隣にはもじもじしながら、こちらを見てぺこりと頭を下げるのは、天使の様な声を持つ女の子だった。


「おはようございます」


僕はそう言って、和也の横を通り過ぎる。これがいつもと変わらない日常。鞄を席の横にかけて、椅子に座り、外を眺める。


あんな経験があっても、周りからの僕の印象は変わらない。自分が変わらないと始まらないと言うが、実際変わったところで世界は一定に回っており、何をしても変わらないモノもある。


こんな僕にも挨拶をしてくれる和也、その和也の彼女である天使の様な声を持つ女の子が隣にいつもいる。


「なんだよ、もっと話そうぜ」


そう言って和也は前の席に座りながらこちらを向く。


「彼女ともっと話していればいいじゃないですか」


自分でも驚いた。息をするかのように出た言葉が皮肉だったのだ。


「彼女って、俺には彼女はいない―――」

「彼女が恥ずかしいから言わない約束でしたね」


和也が硬直状態にはいる。


これは風の噂というやつだ。しかし、見事に図星だったようだ。


「な、何故、奏太がそれを知っている!?」


和也は急に立ち上がり、僕の顔を指で差しながら言った。


「見てれば誰だって気づくっつーの」


背が高く、バスケ部所属の好青年で和也と仲がとても良い男子が、和也の肩に手を乗せながら言った。




日常が変わった。




知らないところで自分は自分を遥かに越えて成長をしていたのだろうか。


椅子を引く音が窓側から聞こえたので、そちらを向くと、金髪をサラサラと揺らしながら紗綾が席についた。


紗綾はなんの持ち物も無く、無言のまま、机に突っ伏す。


その時、チャイムと同時に教室のドアが開き先生が入ってくる。


「さぁ、座った座った」


先生が生徒に座ることを促し、出席簿を教卓の上に置く。


「じゃあな奏太」

「バイバイ才藤」


僕は軽く手を振った。


先生は周りを見渡してから、一息ついて話始める。


「えー、去年病を発症して入院をずっとしていて、留年になってしまった生徒がいる。つい最近退院をして、体の調子も良いということで、その生徒がこのクラスメイトになる。病気の後遺症ということで髪が脱色されているが、気を使わずフレンドリーに接してやれよ。それじゃあ、入ってこい」

「はい」


教室に入ってきたのは紛れもない栞奈だった。

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