もちろんです!
勢いよく扉を蹴って、大きな音ともに、参議院本会議場に入る。
ほとんどの議員は座ったまま、僕の方を見る。しかし、誰も焦ったり、席を立とうとしない。
数人の議員は警備員にアイコンタクトをして、僕を捕まえるように促し、溜め息を漏らす。
「聴衆の席なら、俺が教えてあげるから、一緒に行こうか?」
一人の警備員が優しい声で話しかけてきた。
「ごめんなさい。パッシブ【竜の加護】」
ドアにノックする程度の力で、警備員の腹に拳を当てると、三メートルほど吹っ飛ばし、警備員を気絶させた。
礼司はたぶん、スキルやパッシブ、武器をも改造していたみたいだ。
「えー、今から皆さんはここから出られないようになりました。大人しく待っていてくれると嬉しいです。つまり…ハイジャックをしています」
議員の少数は信じてくれたものの、多くは少し笑っていたりする。警備員を倒したのをよく見ていなかったのか?
「一人でこんなところまで来るなんて大変だっだろう?才藤奏太君」
僕の名前を発しながら、立ち上がり拍手をする男がいた。
「何故お前の記憶が無くなっていないかは、地下に隠れている博士に聞けば良いとして、お前が何をしているか分かっているか?参議院本会議場を乗っ取り、警備員を気絶させた。立派な犯罪者だ。そんな大罪人を捕まえるから、怪我をしてもしらないぞ」
僕は目出し帽をとり、そのまま地面に落とし、コツコツとゆっくり向かってくる男を睨む。
こいつの言っている事は本当であり、世間から見れば僕は大罪人になる。きっとこいつは、例え僕を殺したとしても、権力や金を使って正当防衛になると踏んでいるのだろう。
不気味に笑いながら、足音を鳴らす。
「君の職業は多分、ランサー系統ってところか、当たってるだろう?確かに強そうだが、俺の職業は最強に設定するように博士に言った」
そう言いながら携帯を内ポケットから取り出す。
「あえて職業名を言えば、『神』ってところだろうか。スキル、パッシブ、武器全て一通り試してみたが、実戦は初めてなのでな、せめて十秒は耐えてくれよ。武器【魔槍グングニール】!」
男は僕に向かって携帯を持っていない手を向ける。
「…………何故でてこない」
なるほど、礼司から渡されていたエリア指定をしなくても、使えるようになる奴は、このためにあったのか。
「その、博士という奴が色々と改造してたみたいですね。武器【魔槍グングニール】」
紫色の炎が二メートル程の槍の形になり、僕の手におさまる。
別に痛くはないが体に電流が走ってるような感覚で、近くにあった木製の椅子が粉々に粉砕されていた。
「何故、お前なんかが…」
「チートです。それと、質問したいことがあります。カンナを殺したのはお前らか?」
【魔槍グングニール】の矛先を男の顔の目の前に構える。男は【魔槍グングニール】が近づいただけで息が苦しくなり、汗が滝のように流れていた。
「答えなければ殺す、嘘を言っても殺す、真実を言わない限り殺す」
男は歯をガタガタと震わせ、意識が遠のく一歩手前のところにいた。
「言う…から、どかして……くれ」
僕は【魔槍グングニール】を消す。
その瞬間男は四つん這いになって吐いた。嫌な臭いがツーンと鼻に突き刺さる。
「俺の部下が…博士の変装をして、栞奈を殺し、父親の実験段階を調べるために…やった」
僕の頭は真っ白になり、一つの感情が頭を制した。
怒り。
しかし、感情的に行動せず、怒りは唇を噛んで滴る血と一緒に、外に流した。
エリア指定をしていければ、殺してもその人の情報は保存されず、生き返ることはできない。
「全員その場から動かないで」
それだけを言い残して、後ろを振り返り、壁を殴る。
なにもパッシブもスキルもエリア指定も使用せず、直に伝わる痛み。拳からは血が出て、目からは涙が溢れてきた。
「奏太様、ありがとうございます」
ポッケから優しげなカンナの声が聞こえる。
何故涙が溢れているのかが分からない。栞奈の死を悔やんでいるのだろうか?まったく関わりの無かった時の栞奈を。それとも、カンナの痛みや傷ついた心にでも同情しているのだろうか。
携帯が震えだし、画面を見てみると礼司からだ。涙を袖で拭い、携帯に出る。
「もう少しなのか?」
『残り一分だ。時間が来たら作戦通り頼むぞ』
「分かってる」
短い、通話で終わる。
地面に座り、壁に寄りかかると、ポッケから携帯を取り出して、カンナと目をあわせる。
「カンナ、残り一分だそうだ。お前としての最後の仕事だ」
「最後とか言わないでくださいよ。悲しくなります」
「僕も同じだよ」
会話が途切れ、カンナは涙目になり、後ろを向いて携帯の画面の電源を切った。
そうか、さっきの涙は別れるのが辛いからなのか。
もう少しで終わる。
このゲームはヒトという動物に近い人間が起こした、醜いゲーム。
終わりにしよう、こんな糞みたいなゲーム、『モビルフォンウォーズ』を。
携帯を入れていたポッケの逆に入っている、礼司から渡された丸くて黒いが不気味に光るゴルフボール程の玉を、携帯の側面にコツンと当てる。すると、玉は分裂して黒い塩のようなものになり、空中に浮く。その黒い塩のようなものは携帯の小さな隙間から入っていく。
「準備完了だ。カンナ、準備はできてるか」
「もちろんです!」
画面の電源が点き、カンナが笑顔でそう言った。しかし、目の下は赤く腫れて、無理矢理涙を拭ったのが分かる。
「いくぞ」
「はい」
気づかない振りをして、こっちも満面の笑顔を返す。
「初めてです。奏太様の満面の笑みが見れるのは。…もう悔いはありません、行きましょう」
僕はなにも言うことが出来なかった。
携帯が震える。礼司からの合図だ。
僕は携帯を天高く放り投げ、その携帯は参議院本会議場の中心にくる。
その瞬間、カンナが最後の声を上げた。
誰にも聞こえない、声をだした。
数秒後、携帯はバラバラと音をたてて崩れていった。




