それじゃあ、行くか
「私は国会議事堂の地下にある、機械のデータを奪ったあと、壊すから、お前らは私の邪魔をしてくる奴等を足止めするために、国会議事堂をハイジャックしていろ。今なら参議院本会議場に大多数がいるから、そこに『モビルフォンウォーズ』の責任者がいる。そいつらも実験の終了後、『モビルフォンウォーズ』の能力を持っている携帯を所持しているはずだ。気をつけろよ」
「大丈夫…だと思う」
礼司は「これを被れ」と目だし帽を渡してきた。本当に、今から犯罪を起こす事が認識させられる。
「私の車に乗れ、私はデータを奪うための用意をしてから車にいく」
車の鍵がある場所を教えられ、礼司は暗闇の中に消えていった。
「奏太様、本当に行くのですか?」
カンナは心配なのか、礼司を信用できないのか、とても低い声で言った。
「信じる…。それしか僕にはできない」
「あの人は触れていないですが、私を轢いたんですよ。もう憎んだりしてませんが、一言謝る位はすべきです」
確かに、礼司はその事に触れていない。しかし、ここまできてカンナが嘘を言っている、とも考えられない。
「でも、ここまできて後戻りはできないだろ?」
「それもそうですけど…」
「前にも言っただろ、僕はこの経験を忘れたくないって。忘れたくないから立ち止まるわけではない、忘れたくないから進むんだよ」
「言ってて恥ずかしくないですか?」
「恥ずかしいに決まってんだろ!」
すると、カンナの笑い声が聞こえてきた。
笑い声が小さくなっていき、地下は静寂にみちる。
「まぁ、そうですよね。私は貴方のパートナー様だから、貴方の進む道を一緒に歩いていきましょう」
顔が一気に赤くなったような気がした。
違う観点から考えれば、今カンナは僕にプロポーズをしたみたくなってるじゃないか。
今のカンナの顔を見れば、絶対僕と同じ考えではないのが分かる。
「さっそく行きましょうか、奏太様」
僕は無言で車に向かっていった。
∇▲∇▲∇
車の助手席に座りながら待っていると、少し大きめなリュックサックを持った、礼司が車に乗った。
「これ、つけとけ」
そう言いながら、リュックサックから取り出したのは見た目は普通のUSBメモリのようだが、接続するところが、僕の持っている携帯の充電機と同じだった。
「それを携帯につけてれば、エリア指定は関係せずに能力が使えるようになる。しかし、痛みは現実の痛みだからな」
つまり、これを使ってハイジャックをしろと、しかし僕の職業だと、出せる武器が短剣ぐらいしかないから、きついかもしれないぞ。
「そうだ、改造しといたから全職業分の能力と、容量は減らないようになってる」
「…チートだな」
少しだけ唇の端を上げてから礼司は、車を走らせた。
道中、細かい作戦を言われた。
その時の時刻は十一時二十分だった。
∇▲∇▲∇
三十分後、目の前には国会議事堂があった。
車は近くのコンビニの駐車場にとめている。
「作戦通りにやれよ」
「分かってる」
「頑張ってくださいね、奏太様」
僕は片耳から聞こえるエールに答えるように、一人でゆっくりと門の前にいく。
「どうかしましたか?」
近くにいた一人の警備員が、近づいてきた。
見た目だと二十代前半の、新米のような感じがする。
横目でもう一人の方を見てみると、三十代後半ぐらいだが、体格がごつごつしていて、雰囲気でベテランというのが分かる。
ここでの作戦は二人の注意を引き付けなければいけない。
「ここから一番近い駅ってどこにあるんですか?」
僕が質問すると、少し考えたあと笑顔で答えてく。
「そこの角を右に曲がるとコンビニがあるから、そこをもう一回右に曲がって、二つ目の角を左に曲がると駅が見えるはずだよ」
「ありがとうございます」
軽くお辞儀をして、その場から立ち去っていく。
携帯がブルブルと震える。
このバイブレーションは礼司が侵入できたことを示す合図だ。
「パッシブ【隠密】」
もう一回門の前に行き、警備員の横を通って、門に足を掛けて登り、門を飛び越える。
警備員二人はなにも気づいていないはずだ。
こっからは礼司が目立たないように、できるだけ迅速にかつ大胆に行動をとった方がいい。
まずは、礼司から前もって渡された目出し帽を着用し、携帯からイヤホンを外す。
「ここではまだ叫ぶなよ」
「分かってますって」
携帯に口を近づけて話し終わると、足音を殺しながら、できるだけ早く参議院本会議場に向かう。廊下にはカーペットが敷かれているので、僕なんかでも足音がしないようには歩ける。
向かう途中何度も人と行き違いになるが、全員僕には気づかない。
「ここだな」
中学生の時に一回だけ国会議事堂を見学したことがある。ほとんど覚えていないが、この場所だけは何故か脳裏に焼き付いている。
たぶんその理由は、この場所で国を動かしているという尊敬と、自分には縁もゆかりも無いだろうという強い諦念があったからだろう。
中からは、内容は聞き取りづらいが、内閣総理大臣への不満を述べている声が聞こえる。
一般市民の不満を代弁している感じではなく、解散させてやろうという思いが言葉に乗って飛び交っている。
なんかハイジャックをする気持ちが懸念していたのに、今は無くなった。
「それじゃあ、行くか」




