作戦開始だ
抜かしても大丈夫な話かもしれません。
最初から考えていた設定を、自分の文章力の拙さで表現しきれなかったところの補足と、ちょっとしたフラグの回収です。
たぶん途中で、読むのを投げ出したくなるような内容です。
しかし、読んでいただければ、物語中のちょっとした矛盾点の解決や、過去の話でのキャラの心情が深く読めると思います。
「父さんの研究室?」
「はい、そうですよ。前も曖昧な昔の話をしましたが、今は全部思い出しています」
「そういや、お前があの野郎に殺された後の話聞いてなかったな」
「その話は後々教えますので、今は早く研究室にいきましょう。しっかりナビゲーションをしますから迷子はしませんよ」
「迷子になるはずないだろ」
僕は携帯にイヤホンをつけて、ズボンのポケットに滑り込ませた。
「聞こえますかー?」
耳元から、少し懐かしい声が聞こえてきた。
「今さら確認する必要ないだろ」
「そうですよね」
僕は玄関へと行き、靴紐をしっかりと結ぶ。
ドアノブに手を掛けて勢いよく開け放つ。
「それではナビゲーションを始めるとしますか」
「お前ってさなんでナビゲーションできんの?」
「奏太様、まだ記憶が無くなってるところあるんですか?私は前にここで生きていたって言いましたよね」
「あ、あぁ。そうだったよな」
今までの話は信じられているのに、何故か、なにかが引っ掛かる。
昔にも記憶を消されたような…。
「早く行きますよ!」
「お、おう」
思考を振りほどき、カンナのナビゲーション通りに歩き始める。
∇▲∇▲∇
三十分後、カンナの家についた。
リビングに促されて、大きなソファーをどかすように言われた。
しかし、その大きなソファーは普通に見てみたって、一人で動かせそうにない。
「無理…」
「はぁ、諦めないで早くしてください。言っときますが、エリア指定の中でいくら動いたって、現実ではなにも影響ありませんよ」
「だろうと思った」
しかし、このまま退くのは絶対に嫌だから頑張るしかないか。
携帯をテーブルにおいて、ソファーの横に立つ。
「うらあぁぁぁああぁ」
精一杯押してみるが、びくともしない。
「もう一回、おりゃあぁあぁぁあ」
しかし、本当にびくともしない。
こんなに筋力が落ちてしまっていたのか。
「あ、そうでした。たしか、そのソファー固定されているんでした」
「………最初に言え」
「すみません」
謝っているが、反省してないのは雰囲気で分かる。
僕はカンナに言われながら、家の中から道具を取り出して、ソファーの固定を外していく。
ソファーの固定は解けたのだが、カンナに仕方を言われているときに、なぜか敬語なのに命令口調に聞こえるという現象が起きて、苛ついた。
「これで動かせるはずだ」
ソファーに力を入れて、横に全力で押すと、ズズッとソファーが少し動いた。
「よし、これなら」
「一センチも動いてませんよ。いつになったらどかすことができるのやら」
「うるさい」
∇▲∇▲∇
二時間かかった。
時計は十一時を指していた。
ソファーを一つ動かすだけで、こんな二時間がかかるとは思わなかった。
「はぁ、やっとですね。さて、そこの階段を降りましょうか」
カンナが言っているのは、ソファーを動かしたところに、いかにも秘密の部屋にでも繋がってそうな、地下に降りる鉄の階段があったのだ。
僕はなんの躊躇いもなく、その階段を降りていく。
下に行くにつれて、薬品の匂いがキツくなってくる。
鼻先をつまみながら、最後の階段を降りきる。
「なんだよ、これ」
人が一人入れそうなカプセルが三つ、それにいくつもの電線が繋がり、部屋一面にいくつもの画面がついてある。
その中心に男が立っていた。
「やっと来たか。遅かったな」
中心にある机の上の、キーボードを叩いて画面を見ているあの野郎がいた。
「お前、なにをしたいんだよ」
僕は早歩きであの野郎の隣に行き、胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。
「五月蝿いな」
僕の手を軽くはらい、服を整える。軽く一息した後、画面を見ながら話続ける。
「私がすることは息子を助ける事だけだ」
「息子って、釛はお前が殺したんじゃないか」
「演技、だとな」
「演技?どういうことだ」
「分からなかったのか。これまでにヒントを与えていたはずなのだが」
ヒント?自分が敵ではないということを知らせる事でもしていたのか?だとしたら、こいつ以外にも『モビフォン』に関わっている人がいるということか。しかし、こいつは僕達のことを本気で殺しにきてたよな。
考えれば考えるほど分からなくなってくる。
「お前の言っていることが全然わからん」
僕がそう言うと、一つため息をした。
「まず、お前ではなく、名前で呼べ」
「知らないよ。お前の名前なんか」
「礼司、だ」
「はいはい、礼司の言っていることが分からないので教えてくれ」
「何を聞きたい?」
「ヒントってやつから」
「ヒントは、私が唯一の助手だったということと、釛とミントだ。私が助手ということは、『伊織栞奈』を『カンナ』に変換するときの助手もしている、人を電子にするほどの大実験になれば、一人ではできないことだってある」
「ちょっと待ってください!」
今まで黙っていたカンナが大声で言うと、礼司は「なんだ」と不満気に言った。
「お父さんは貴方が、私にウィルスを流したと言ってましたよ」
「ウィルス?………あぁ、あの事か。ウィルスではなく、逃げ道を作ったのだ」
「逃げ道って、どういうことですか?」
「そのままの意味だ。私は先生が死ぬ前に、『カンナ』という集大成を盗られないために、機械に保存されていた端末へ自動転送をするためにある細工をした」
「誰に盗られないようにですか?」
「政府だ。あいつらはこの実験を使い、無尽蔵の携帯武器庫を作り、使用する人の遺伝子を操作して、最強の兵士を生み出し、戦争を勃発させる気だったんだ。そして『モビルフォンウォーズ』は人体への影響を調べるための実験だ。周りに気づかれないように『エリア指定』という制度をつけたがな」
「細工って、なにをした?」
「あるアプリに『カンナ』と『モビルフォンウォーズ』の情報を入れた。知らないか『トンカツトンカチ』と『宝玉ディフェンス』。『トンカツトンカチ』には『モビルフォンウォーズ』のデータを入れた。『宝玉ディフェンス』には『カンナ』の圧縮したデータを入れた」
そういや、『トンカツトンカチ』シンプルなゲーム内容の癖にとても容量を使っていた。
「でも、『宝玉ディフェンス』はほとんどやらずにアンインストールしたけど、普通の容量だったし、カンナは圧縮された状態から、どうやって戻ったんだ?」
「『宝玉ディフェンス』は最初だけしかできないようにして、それと『カンナ』を原型でいられないほど細かくして、軽くした。カンナはお前と共鳴というか、お前のおかげでバックアップが勝手に実行されて元に戻ったんだろう」
「僕の中にはなにがあるんだよ」
「私のコピーですよ。奏太様。つまり、私と奏太様は一心同体って訳です」
「変な風に言うな。はぁ、ここまできたら驚かず信じてやるよ。それより、なんで礼司、お前はここまで知っていて協力していた?」
僕は机を叩いて、礼司を睨む。
「お前は昔、釛は軟禁されたと言ったな。なぜ分かった?」
「釛から携帯で教えてもらったんだよ」
「軟禁とは室内に閉じ込めて、外部との接触を禁止することだ」
「つまり、釛の携帯は……」
「釛は所持していない。そして、私が持っている」
礼司は胸ポケットから釛の使っていた携帯を取り出した。
「そこでお前には疑問が生じているはずだ。なぜ私がお前に、釛が軟禁のことを教えたのかを。それは、私の息子は政府によって軟禁されているからだ。『カンナ』を手に入れたお前なら、勝ち残ると信じたからだ。そして、釛はまだ生きている。私と政府との約束で、実験に付き合う代わりに、釛の命を保証しているからな。ここでまたヒントがある。お前は偽物の釛とミントと戦うまたは睨み合ってるとき、釛とミントは決して携帯を使っていない。なぜなら、携帯は私が持っているからだ。つまり、釛は『モビルフォンウォーズ』に参加はしていないということになり、その時の釛は偽物だということが分かる。それと、お前らを一旦『モビルフォンウォーズ』を抜けさせたのは、アプリには一つ一つ発信機のようなものと、所有者の行動を把握できるデータが組み込まれているが、『モビルフォンウォーズ』に負けたら自動的に解除される仕組みになっているからだ。それと、釛の携帯からお前のメールアドレス分かったから、政府にバレないように、お前の記憶が戻るようにメールを送った。ついてきてるか」
「無理。簡単にまとめてくれ」
「はぁ、つまり私は息子を助けたいから、政府とお前らを騙して、ここまできた。戦争をすることはおかしいから、これから政府に行き、釛を助けて、政府の陰謀を壊す。これでいいな」
「そっちの方がいい」
「それでは、国会議事堂をハイジャックしにいくか」
「やっぱりそうなるのか。犯罪だぞ」
「息子を助けるために今までいろんな罪を犯してきた。もう、私には迷う必要がない」
「僕も同意見だ」
「もうそろそろ十二時だ。お前に送ったメールと丁度だ」
礼司は一つ深呼吸をした。
「作戦開始だ」
そう、礼司は言った。




