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それも違います

「最後の戦いか…」


と、意味ありげに呟いたあと、右手をゆっくりとこちらに向け、スナップをした。


その瞬間糸が切れた操り人形のように、体勢が崩れ、意識がなくなった。



∇▲∇▲∇



目を開くとそこには天井があった。何日も何日も見てきた自分の部屋の天井である。


背中にもいつものふかふかとしたベッドがある。


何事も無かったかのように、平和な小鳥のさえずりが聞こえ、カーテンの隙間からさす光が綺麗だった。


目を擦りながらベッドから起き上がり、欠伸を一つする。


ふと、視界に入り込んだ机の上にある携帯が気になり、電源をつけると、すぐに画面はホームへと移る。


別に変わった様子はない。


携帯をもとあった場所に置き、ベッドに寝転がった。


とても、とても、長い、長い、夢を見ていたような気がした。


腹が空腹の合図をしたので、階段を降りていると、いつものような慌ただしく動いている、お父さんとお母さんがいた。


お父さんは僕の横を通っても挨拶もなにもせず、腕時計を睨んでいた。


睨んでいても、進む時間は変わらないと分かっているのに。


テーブルで朝食を胃に流し込んでいるお母さんの横を通り抜けて、キッチンに行き、食パンを一切れ袋から取り出したあと、イチゴジャムを適当にのせて、自室へと戻った。


カーテンを閉めているので、部屋は全体的に暗いが、部屋を灯している光が一つあった。


それは、今使っているパソコンの光だった。


今日もいつも行っているネットサーフィンをするつもりだ。もう、ただの作業としか思っていないが。


「つまらない」


そう呟く僕の瞳には、パソコンの画面しか写っていなかった。


ため息をついたとき、部屋の光が一つ増えた。


携帯だ。初期の着信音とメールの受信時に光るライトが青く点滅していた。


きっと携帯会社からのメールだろう。気にしなくてもいいか。


いや、まて。なんで携帯の電源が朝からついていたんだ?携帯を触ったのは久し振りのはずだ。


不思議に思い、携帯を手に取り、メールを見てみると、送信者は自分だった。


自分に送ったことなんて記憶にない。しかもこれは時間指定のメールだった。


タイトルは『集合』。


本文は『今日の昼に作戦を決行する』。


だけだった。


意味が分からない。


まぁ、なにかの偶然かイタズラだろう。


携帯の画面を一旦消して、机の上に置いた後、リビングに向かった。パンを食べたので口の中の水分が少ないのだ。


牛乳を飲もうとして、冷蔵庫を開けてみるが、無かった。それを見ていた仕事服のお母さんが「朝に私とお父さんで全部飲んじゃったわよ」と言った。


「花梨は飲まなかったのか。朝練で忙しい身だからな」


と、自分で納得した後、牛乳は諦めて水道水で我慢することにした。


「奏太、花梨って誰のこと?」

「花梨は花梨、僕の妹」

「妹?うちの子供ははずっと奏太だけよ」


お母さんの顔を見てみると、本気で分からないようだ。


「あ、もう時間だわ。行ってくるね奏太」


そのままお母さんは家を飛び出していってしまった。


何故かもどかしい。魚の小骨が喉に刺さっているように、なにかがおかしい。


そんなとき、携帯が頭に思い浮かんだ。すぐさま自室へと戻り、携帯をつけると、着信が一通あった。やはり、自分からだ。


タイトル:『記憶』

本文:『思い出せ』


なんか頭がパンクしそうだ。考えるのはやめて、気にしないでおこう。きっと妹のことも僕の勘違いだろう。


違和感を振り払うように、首を振る。


携帯を置き、パソコンの画面に相対する。


なにか納得ができない自分がいた。何にたいしてなのか分からないが、漠然としたある事実が納得できない。


「くそっ」


僕はパソコンの電源を落としてベッドに潜り込んだ。


背中の下にコードがあったので、引っ張ってみると、イヤホンだった。


いつも使っている両耳のイヤホンではなく、片耳でマイクつきである。



―――奏太様



頭が痛む。吐き気を催す。視界が歪む。


その時漠然としていた事実が、固まってきた。


自分の記憶に納得ができないのだ。


忘れたくない記憶に違う記憶を上書きしている感覚。


思い出そうとするたび、頭痛が酷くなっていく。


でも、忘れてはいけない記憶が痛みの向こうにある。


絶対に思い出してやる。


どんなに痛くても、忘れてはいけない記憶だから。



―――私が貴方のパートナー様です!


―――さぁ、貴方のジョブは!


―――戦闘コマンドを押してください!


―――奏太様ひどいです!


―――引き抜いてください!


―――頑張れよ


―――夢じゃありませんよ


―――奏太様を優勝させると!


―――油断大敵だよ


―――大丈夫です。私の力を貸しますから


―――今回だけは、認めます


―――やっぱり、シスコン


―――奏太様!大変です!


―――秘密です


―――同感です…


―――伊織栞奈を知らないか?


―――最後の戦いだ



全部思い出した。


そう、僕はあの野郎と戦う時に、いきなり意識を失ったんだ。


それじゃあ、僕は負けてしまったのか?


「そ・う・た・様!やっぱり思い出してくれましたか!」


いきなり携帯からカンナの声が聞こえてきた。


僕は携帯を手に取り、画面を睨む。


「お前、黙ってたのか」

「違いますよ。奏太様が倒れた後、私は一回削除されました。そして奏太様の記憶も消されました。私が復活するためには、奏太様の体内に保存されているバックアップデータを起動しなければなりません。しかし、私との記憶が無ければ起動はしませんでしたが、奏太様は思い出して、私を助けてくれました」

「つまり僕は負けてしまって、記憶が消されたが、なんか奇跡的に思い出せたと」

「それも違います」

「ん?どういうことだ?」

「まず、奏太様は負けていません。スナップをしたあと、先生は奏太様の記憶を完全に消せるのに、曖昧に消しました。その後、私を削除しました。つまり、先生はもともと私達を一旦モビフォンから抜けさせようと思っていたのです」

「全然筋が通ってないし、意味不明なところだらけだ。それと、僕の体内に何が入ってるって言った?」

「私も意味不明なんですよ。だから、私のお父さんから教えてもらった実験室にいきましょう。そこにはきっと先生もいますよ」

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