それで?
「……誰だ?」
金髪のロングヘアーである紗綾かもしれない女は冷たい視線でカンナを見る。
「え…栞奈だよ!栞奈!」
「ふざけるな。お前が栞奈という証拠でもあるのか?」
「ふざけてないよ!」
いきなりカンナが大きな声で言うと、少し女は驚く。
たぶん根はもう少し小心者で、口調や態度はある時期から変わったんだろう。
「もしもだ、お前がアタシの探している栞奈だとする。すると何故お前は機械の中にいる?栞奈は人間だぞ」
表情をいつもの冷たい表情に戻して、淡々と言った。
「私の父がこうした。理由はまだよく思い出せないけど、もともと人間で紗綾の友達だったことは間違いない」
その後、女は溜め息をついてから携帯を操作を始めた。
「おい、何をするきだ」
僕は睨むが、女に強くそして冷たく睨み返されて体が硬直してしまう。
「返す」
そう言いながら女は携帯と束ねたイヤホンを投げてくる。僕は慌てながら携帯とイヤホンを見事にキャッチする。
携帯をすぐに確認してみると、友達登録完了という文字が書かれていた。
「いったいどうして…」
「話はまだ信じられん。が、お前の携帯にいるオペレーターは少なからず栞奈のことを知っていると思った。それだけだ」
まだオペレーターが栞奈とは信じていないようだ。
少しの気持ち悪さの後、いつも暮らしている光景に変わる。
「才藤、お前は何故このゲームで勝ちたい?」
突然女は質問をしてきた。
「いや、それよりなんで僕の名字知ってんの!?」
「ステータス画面に書いてあった。それより、質問に答えろ」
威圧的な態度に僕は怯んでしまい、反抗する力は無くなっていた。
「優勝したときに叶えてくれる願いで、皆を生き返らせたいから」
「…同じか」
そう呟き、女は僕に向かって言う。
「その願いはなんのためにあると思う?」
「え…それは、ゲームに巻き込まれた大切な人を助けるため」
「それでは、本当に生き返らせることは可能だと思うか?実際にこっちの世界でゲームに関係してない人は、死んでいる人に関する記憶ごと消えている」
「な、なんとかできると思うよ。だって携帯から武器とかを出せて、ありえないことしてんだよ」
「確かにありえないことだ。だが何故エリア指定をしなければいけない?何故毎回変な空間へと飛ばされる?」
変な空間とはエリア指定された後に、周りにある動物や人間がいなくなり、普通よりおかしな雰囲気を漂わせている。
「それも科学の進歩なんじゃないかな?」
「違うな。科学で実際そこにある物を元々から抹消することはできない」
「それじゃあ、どうやって僕達はあんな空間にいるの?」
「周りの物を元々から抹消することは無理だと言ったが、特定な人を別な空間に意識を飛ばす方法がある」
「どういうこと?」
「今の医療技術で、脳の電波信号をつかって、機械を動かす物があるだろ?そこで、それとは逆に特定の人に一方的な電波信号を送れば、体全体を別の所から操作することもできる」
周りにある物を元々から消すことよりは現実味がある話だ。
「というか、なんで急に語りだしたの?」
僕はさっきから疑問に思っていたことを言ってみた。
「アタシと願いが同じだから共に行動することにした。だからこの糞みたいなゲームを終わらせるために、情報を共通しようと思ったからだ」
半分納得して、でもまだ半分信用しきれていなかった。
「でもさ、願いって無理だと思ってるんだよね?」
「そうだ。しかしこの糞みたいなゲームが、神が作ったゲームだったらの話だ」
つまり、モビフォンが神の作ったゲームだったら化学とかは無意味だと。神はなんでもできるからな。
「すみませーん、私を置いていかないでください」
持っていた携帯からカンナが不満なのか、信じてくれなかったのが悲しかったのか、元気なさげに言った。
「あ、そうだったな。そういや、オペレーターは何故アタシの名前を知っていた?」
「友達だから」
ということは、この女は紗綾であることは確かなのか。
紗綾は溜め息をついて「勝手に言ってろ」と言った。
カンナは頬を膨らませて「ふんっ」と言って、画面が暗くなった。
「さっきの話のつづきなんたけど…」
僕がそう言うと紗綾は「そうだったな」と言って、話しだした。
「エリア指定が解放されるとき毎回気持ち悪くなるか、視界が眩まないか?」
気にもとめていなかったが、確かに毎回なる。
僕が「うん」と言い、紗綾がまた話しだす。
「たぶんそれは戻るときにある副作用だと予想する」
「でもさ、目が覚めたら時間が変わってないよね?」
「それは実際に言えばほんの少し進んでいる。前に調べたこともある。もし、アタシの仮説が正しいならアタシ達は電子のスピードで戦ってることになる」
あまり確信のある仮説ではないが、筋は通っている。
「つまりだ。この糞ゲームはどこかに人間の主催者がいるはずだ。そいつを見つけ出してやる」
冷たい表情の中に闘志がもえていた。
∇▲∇▲∇
紗綾と一緒に歩いて一時間ぐらいか。
「主催者を探すって言ってからただ歩いてだけだよ?」
一時間前、紗綾は突然歩きだして「ついてきて、主催者を探す」と言いながら、ここまで歩いてきた。
「昨日、参加人数が急激に減った理由はは分かるか?」
またも突然に紗綾が質問をした。
「それは…分からない。まったく見当がつかない」
「そこでアタシは―――」
「仮説をたててみた、でしょ?」
さっきからの流れで紗綾はちょっとした自慢話?をするときは腕組をして、少し唇の端を上げながら話してくる。
「くっ、出鼻挫かれたら、話す気無くした」
そう言いながら、また何も話さず歩き始めた。
「ちょっ、嘘だろ。教えてくれよ」
しかし、紗綾は無視をしてズンズンと歩いていってしまう。
僕は後ろから少し走りぎみに紗綾に追い付く。
その瞬間、紗綾が大きな声で言う。
「エリア指定!」
一瞬にして周りに異様な雰囲気が漂う。
「おぅ、そっちからしてくれるとは嬉しいことだねぇ」
すると、前方からヘラヘラ笑いながら茶髪で黒いスーツを着ている男がやって来た。
スーツに見覚えがあった。そう、あのミントのことを殺した人達によくにていた。
僕たちから三メートルほど前で立ち止まり、男は胸ポケットから黒い皮の手袋を手につけて、話し出す。
「君たち二人はこの『研究』には『不適合者』だからねぇ、殺さないといけないんだよねぇ。心が痛むけど悪いねぇ」
こいつはいったい何を言っている。『研究』?『不適合者』?そして、この男は僕と紗綾のことを知っている。
「お前にいくつか質問をしたい」
紗綾は男のことを指差し、もう片方の手は後ろで震えているのを隠している。きっと恐いのだろう。
「ん~、まぁ…少しならいいかねぇ。あ、でも『研究』についての質問はダメだよ」
「分かった。それでは、昨日起きた急激な参加者の脱落はお前らがやったんだろ」
「ん?質問ではなく、断定してきたねぇ。しかも、ちゃんとお前らって複数いることがばれてんだ。すごいな~」
「いいから質問に答えろ」
「そうだよ、ボクたちがやった。まぁボクが直接手を下したって訳じゃないんだよねぇ。あの方が強制終了を始めたんだよな」
男はずっとヘラヘラ笑っていて、簡単に答えた。
「強制終了とはなんだ?それと、殺した人達を生き返らせることは可能なのか?」
「そ二つとも『研究』の質問に入るからダメ」
紗綾は舌打ちをして、男を睨む。
「それじゃあ、話はこのぐらいにしておこうかな。ボクだと余計なことを話しちゃいそうだしぃ」
急に紗綾は僕の手を握り、男に背を向けて走り出した。
「おいおい、さっきまでの威勢はどうしのかねぇ」
男は小さく何かを言ってから、追いかけてきた。
すると、男の右手から一本の細い針のようにスピアがダウンロードされた。
「武器【鉄火鳳凰銃】」
紗綾がそう言うと、僕の手を離し、男の方を向く。
「【鉄火鳳凰銃】知ってるぜぇ。銃の武器のなかで攻撃力がやたらとでけぇやつだよな。でも、ダウンロードするのには一分はかかる代物だぜぇ」
しかし、紗綾は余裕の笑みを溢しながら「それで?」と言った。その瞬間紗綾は二メートルはあるマシンガンを両手に持ち、体の周りから様々な種類の火器がダウンロードされていく。
「嘘…だろ」
男がそう言った時にはすでに遅く、男には何千発という弾が貫通していた。
すぐにエリア指定は解かれる。
「お前の職業ってなんだ?」
さっき見ていた戦いからおかしい箇所がある。まず、紗綾がダウンロードした武器は明らかにスペックが高いからダウンロードするのに時間がかかるはずだ。僕の武器だと【致死の短剣】より長いはずだ。
「しょうがない、教えてやろう」
紗綾は腕組をして、少し唇の端を上げながら僕の方を向く。
「あれはアルケミストですね。錬金術士とも呼ばれ、ダウンロードのタイムラグをカットして、普通に使うMBも十分の一になります。しかしスキル、パッシブはありません」
と、カンナが淡々と説明してくれた。
僕はゆっくりと紗綾の方を見てみるとしゃがみながら「また、出鼻挫かれた」と小さく呟いていた。




