本当に暑いな…
朝のホームルームが始まった。僕の事はなにもふれずにいつものように進んでいく。高校に来たのは何日ぶりだろう…前は一週間に一回の頻度だったが、この頃はあまり来なかったから十五日、二週間ぶりくらいか。
僕の隣の席は空席のままだ。僕の席と、隣の席は教室から疎外されているような気がした。横に六列、縦に六列、そして窓側に僕の席と隣の席を合わせた二つはある。
窓から外を眺めてみた。教室内はエアコンで涼しいのだが、外からジリジリと太陽の光が窓側から二番目の席まで届いてくるので、教室内の空気と合わせてぬるい感じだ。
外には入道雲があった。真っ青な青空に縦に連なる雲がなんとも言えない風物詩のような気がする。
「奏太様~暇です~」
カンナの声が聞こえるが、外の景色を見ているとボーとしてしまい、返答をしなかった。
そのままボーとしていたらチャイムが鳴った。担任は慌てながら「これにてホームルームを終わりにする」と言って、教室から出ていった。
僕はなにもすることなく、席に座っていた。
「みなさんが移動してますよ?」
「あぁ」
僕は生返事をして、外を眺める。
高校に来たものの、授業なんてついていけないのは分かってるし、一緒に勉強する人なんていないから、どうでもいい。本当になんのために来たんだろう。
昨日は気分が良かったから?よく考えてみろ、昨日は変なことが起こりすぎて、頭がパニックを起こしてたんだ。昨日の良い気分は勘違いだ。人を殺してしまったかもしれないんだぞ。でも、やはりあまり信じてない、今もあれは夢だったのかもしれないと思ってしまう。
「帰るか」
僕は一人言を言って、席から立ち上がった。椅子と床が擦れる音が虚しく教室内に響いた。
僕はそのまま教室を出た瞬間誰かにぶつかってしまった。
「すみません」
僕はできるだけ顔を見ないようにして、言った。
「こっちこそごめんね。あの、ちょっといいかな?なんて」
僕に対して疑問文を言ってきた。僕は半心驚き、半心怖さを持ちながらその人を見てみた。
「あの、答えたくなかったらいいんだけど…どこに行くのかな?」
この声と独特の喋り方は、あの天使のような声を持つ女子だった。僕に話しかけて来るのはおかしい、同じクラスだったらなおさらだ。
「別に」
その女子は背が低いので、頭の先が僕の胸辺りだった。なので見下ろす感じになって、女子が見上げてくるので、目のやり場に困ってしまう。普通だったら首でも見てたらいいんたが、女子は大きな丸い目をこちらに向けてくるから、僕はとっさに後ろを向く。
「えっと…あの…」
女子はなにか言いたそうな声で言っている。
こういう場合だと告白か!?とか思ってしまう童貞がいるかもしれんが、僕はもうそんなのは諦めている。
「早く帰りたいんだけど」
僕はこういう場合は早く終わらせたい。そりゃあ今立っているところが暑い廊下ということもあるし、このシチュエーションから良い方向に転がるとは思えない。
「ごめんね…あの、聞きたいことあるの…」
「なに」
イライラしてくる。話が進まない。
「いや、あの、なんで…皆から」
ここで一回、女子はゴクッと唾を飲み込んだ。
「避けられてるの?なんて…」
一気に昔の記憶がフラッシュバックされる。しかも全て嫌な思い出だ。
「理由があるなら…」
頭が酷く痛む。思わず頭を右手でおさえてしまう。
そうか、知らない声だと思っていたが転校生なのか。しかもかなり空気が読めないな。僕のことなんて無視してれば良いものを。まぁ、僕が一人の時に聞いてきたのは正解か。
「教えて…」
僕は正直言いたくない。そりゃあ言って減るもんじゃないけど、話すと同時に嫌な事が鮮明に思い出しちゃうからな。
「もしかして…いじめ?」
半分正解、半分不正解。と心では思っているが、言いたくない。
「ちがうなら、友達との関係?」
「ちげぇよ!黙ってろ!」
友達というワードを聞いた瞬間頭に血が上ってしまい、大声を張り上げてしまった。
「え、あ、う、変なこと聞いて本当にごめんなさい」
「わ、悪い」
僕はそのまま、ロッカーにしまった鞄を取り出さずに走って高校から出ていった。
「あの、奏太様…」
いつもより元気が無いというより、まるで爆弾を扱うように慎重に話しかけてきた。
「なんだよ」
「本当に友達が作れないという理由で、高校に行ってないんですか?」
少しずつ声が小さくなっていった。
「そうだ」
今度は生返事でない。僕はただそれだけを言って、耳からイヤホンをとり、ポッケにイヤホンごと入れた。
僕は小さく舌打ちをした。その舌打ちは蝉の音に全て掻き消されていった。
「本当に暑いな…」
僕は青空にある入道雲を見上げながら、そう呟いた。
携帯が小さく揺れた。高校に行くからマナーモードにしといたのだ。僕は携帯をポッケから取りだし、手で太陽の光を防ぎながら、画面を見てみる。カンナがなにか大声で言っているようなので、イヤホン耳にあてる。
「奏太様、今度は本当にエリア指定がされました」
真剣な表情と声で本当だという事が分かった。
「君が今回の敵」
後ろから冷たく、そして機械のように単調な声がした。
僕はすぐに後ろを振り向く。長めの白い髪が少しだけ目にかかっており、瞳は灰色。服装は黒をモチーフにしたダボダボな服。見た目は変わっているが、声と雰囲気で分かる。
「………なんで、なんで、お前がいるんだよ!釛!」
神夜釛は僕が中学時代から唯一友達だと思えて、心の底から信頼していて、高校一年生で死んだ親友だ。