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第1幕 1場から2場
ヒトラーため息の後、しばらく沈黙。
ヒトラー「君は頼りになる男だ。本当に頼りになる男だ、心から。 思えばあの時もそうだった、副総統のヘスがメッサーシュミットでイギリスに亡命したとき、お前は真っ先にその穴埋めをしてくれた。他の誰よりも早くだ。そればかりかヘスにちなんでつけた自分の子供の名前を改名して、私に忠誠を誓ってくれもした」
ボルマン「恐れ入ります」
ヒトラー「オーバーザルツブルクの山荘でその後についての会議をしたとき、私は内心お前に副総統の地位を与えてもいいと思っていた。だがゲーリングの反対にあい、有能なお前を名前ばかりの秘書役につかせざるを得なかったとこは申し訳ないとさえ思っている」
ボルマン「総統閣下、そのようなことは」
ヒトラー「良い、言わせてくれ。これは君の才をもっと早くに見いだせなかった私の責任なのだ。戦下のドイツに必要なのはゲーリングやヒムラーではなくお前のような男だった、今はっきりとわかる。あの時反対を押し切ってでもお前を副総統に据えていたらこの戦争はもっと楽なものになっていたかと思うと、私はなんという・・・」
ボルマン「総統閣下おやめください。私は総統閣下のご判断をそのように思ったことなど一度もございません。私はこうして総統閣下にお仕え出来ているだけで幸せに存じます」
遠くから地響きのような音がして、天井から少しホコリが落ちる。それが数回繰り返されたのち
ヒトラー「ボルマン。お前ならこの戦争をどうやって終わらせる、勝ってか?」
ボルマン「無論にございます」
ヒトラー「なぜ勝てると思う」
ボルマン「ここに総統閣下がいるからでございます」
ヒトラー「・・・そうか、わかった。 ボルマン、お前は引き続き前線の様子を逐一報告してくれ。私は今から少し休むが、その間に起こったことはどんな小さなことでもお前が責任を持って纏めておくように」
ボルマン「御意にございます」
また地響きの音が聞こえる。先ほどよりも音が大きく近づいてくるような響きがする。
◇ ◇ ◇
第1幕 2場
ゲッベルスが地下壕の廊下でしゃがみながら犬と戯れている。
そこへボルマンがやってきて、やや離れてその様子を観察したのちゲッベルスに近づいていく。
ボルマン「ゲッベルス閣下、何をなさっているのですか」
ゲッベルス「おおボルマン君、総統は?」
ボルマン「お休みになられました。ゲッベルス閣下、ここで何をなさっているのですか」
ゲッベルス「ブロンディがな、散歩に連れていって欲しいとせがむのだ」
ボルマン「草案はまだお書きになっては」
ゲッベルス「うむ、まだだ。私は足が悪いから替わりに君がブロンディの気晴らしをさせてやってはくれないか?」
ボルマン「それはできかねます。私にはやることがありますので」
ゲッベルス「さて、それは困った。誰かほかの者に頼とも皆自室に帰ってしまったし、女たちは朝食の支度をしている。任せられる者がおらなんだ」
ボルマン「放っておけばよいでしょう。それよりもあなたはご自分のするべきことを優先してください。早く自室で草案を書くべきです」
ゲッベルス立ち上がる。
ゲッベルス「分かった分かった。ブロンディ、お前のご主人は冷たいな」
ボルマン「主人は私ではありません、総統閣下です」
ゲッベルス「君が連れてきたのだから君が主人だろう。ほら、君に最も懐いているぞ」
ボルマン「例えそうであろうとこの犬の主人は総統閣下です。ゲッベルス閣下、私は急いでおりますのでこれにて。草案は出来れば今日の昼のニュースに間に合わせるようにしていただきたい。それと書き終わったら先ず私の所へ持ってきてください、それで良ければ総統閣下に最終確認をしていただきます」
ゲッベルス「なぜ君の所に」
ボルマン「秘書としての務めです。では」
ボルマン去る。
ゲッベルス「ブロンディ、この穴倉の中で唯一純粋な心を持っているのはお前くらいだ。お前のご主人はそのご主人に尻尾は振ってはいるが決して腹を見せてはいない。私を見てきたあの目は忠犬ではなく狼の目だ、狡猾な狐をさらに騙し、隙あらば喉笛に噛みつこうと狙う狼の目だ。ブロンディ、お前はああいう風になってはならないよ。最後までその純粋な目のままでいるのだぞ」
続く
ブロンディというのは晩年のヒトラーが実際に飼っていた雌のジャーマンシェパードです。ゲッベルスの言葉通りボルマンが連れてきました。
学校が始まってなかなか描けないけど楽しんでもらえるとうれしいです。
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