「」(かぎかっこ)の前後改行の必要性について
(例一)
「可愛らしいぬいぐるみね」
羽貫さんが言った。
「誰かね、こんなものを入れたのは」師匠が尋ねた。「喰うに喰えないではないか」
しかし、小津も私も羽貫さんにも心当たりはなかった。
(例二)
「可愛らしいぬいぐるみね」
羽貫さんが言った。
「誰かね、こんなものを入れたのは」
師匠が訪ねた。
「喰うに喰えないではないか」
しかし、小津も私も羽貫さんにも心当たりはなかった。
右の例一は角川文庫発行『森見登美彦』著『四畳半神話体系』百六十ページの一部を抜粋したものです。例二は少し改行を加えたバージョンです。
今回のタイトルを一目見ただけでは自分が何を言いたいのかわからなかった人もいると思います。でもかといって自分の文章載せてもしょうがないかなと思ったので、抜粋させてもらいました。一応この場のジャンルはエッセイですので参考にする為に文章を抜粋してもいいと思うのですが、なにか問題があった場合は指摘してください。自分の文章に差し替えます。
小学校で、自分はこう習いました。かぎかっこの最後に句点をつけて、その前後は改行しなさいと。ですがまあこのお約束事は作文の場合だけに適用されるんですよね。だから「小説家になろう」サイトの人たちもかぎかっこの最後に句点をつけることを控えています。逆に、これは執筆する時のお約束事みないなものらしいのでかぎかっこの最後に句点をつけてはいけないとかなんとか。小説作法の基本のき、とか自分が調べたサイトでは書いてました。実際、ラノベでも携帯小説でも普通の小説でも句点をかぎかっこの最後につけている作品はみたことがないので、もしこの文章を読んでいてかぎかっこの最後に句点をつけている人はそれを止めて小説作法を遵守して慣れておいた方がこの先楽だと思います。
では本題です。
(例二)を読んでみて下さい。これは所謂「かぎかっこの前後に改行」を実行している状態です。
しかし、(例一)を読んでみて下さい。「かぎかっこの前後に改行」をしている行もしていない行もあります。
(例一)の場合、一行一行に空欄があまりなくなり、読むときの気分がが引き締まる感じがすると思います。逆に(例二)の場合では、確かに一行一行読みやすいのですが、なんだか軽い感じがすると思うんです。勿論これは自分の感覚なのでハッキリとは断言できないのですが、改行、という手段だけで文章を含めた第一印象がガラリと変わります。
昔、自分は何も考えずに、とりあえずかぎかっこの前と後は改行しておけばいいんだろと断定していました。確かに『西尾維新』先生やら『乙一』先生、『五十嵐貴久』先生などは皆さんかぎかっこの前後に改行を加えていません。(確か。)
けれども、です。初めて『伊坂幸太郎』先生の書いた作品を読んだ時、衝撃が走りました。記念すべきその作品のタイトルは『陽気なギャングが地球を回す』でしたね。バンバン会話文の後にも前にも地の文を容赦なく組み込んでいまして。ああ、こういう手法もあるんだなと勉強になった記憶があります。
で、研究しました。会話文に使われているこのかぎかっこ。こいつの前後は一体どうなっているのか。『死神の精度』を読み『グラスホッパー』を読み『アヒルと鴨のコインロッカー』を読み、『森見登美彦』先生の『四畳半神話大系』、『注釈走れメロス他四編』、『夜は短し歩けよ乙女』……。結果、なんとか自分はかぎかっこの前後に地の文を入れるにはどうすればいいか、どんな文を入れればいいのか、それだけを知る為に一心不乱に読んでた時期もありました。三日くらいですけど。
そうして、自分は一つの法則に気がついたのです。まあでもちっちゃな法則です。知ったところでそんなの使うかこのやろーみたいな反応が返ってくる可能性もありますがが、これは多分『伊坂幸太郎』先生も『森見登美彦』先生も意識してやっていることだと思うので、一応明記しておきます。
(例一)の三行目に会話文と会話文の間の地の文介入があります。
「誰かね、こんなものを入れたのは」師匠が尋ねた。「喰うに喰えないではないか」
同じ人が喋る会話文をわざと二つに分解し!
そこに地の文を介入させることによって!
喋る言葉に間隔が出来ているのです!
……というような表現方法もあるのです。これがもし地の文がなく、かつ二つの会話文が一つにまとめられていた場合、師匠は息継ぎなしで喋ることになるでしょう。息継ぎを登場人物にさせる、このあたりまえなことを簡単に実現させるのがこの手法なのです。よかったら使ってみてください。情景描写を大幅に削ることが出来ます。これは本当に便利なんです。
まあ、それはさておき。
自分が言いたいちっちゃな法則とは会話に間隔をあけるこの手法を行う時にだけ起こるのです。
「同じ人が喋る会話文をわざと二つに分ける場合に起こる地の文に、会話をしている登場人物の名前を必ず入れているんです」
いやいや嘘だろそんなのと思うそこのあなた。試しに前記の作品を読んでみてください。たまに例外はあれど、恐らくほぼすべてこの法則が成り立っていると思います。
はい。という訳でとりあえず終わりです。この法則以外にもプロの作者さん方は色々考えて地の文とかぎかっこと改行の可能性を模索していると思われます。やはりプロは凄い。地の文一つ一つにも丁寧に向き合って執筆しているのです。執筆に行き詰ったり、ここの表現が上手くいかないという方がもし居たのなら、一度気分を一新して読書して研究してみてはいかがでしょうか。案外、自分が発見したちゃちな法則より物凄い表現方法が簡単に見つかるかもしれません。