出る杭は放たれる・・・不条理な体験
※原作リスペクト作品です
※残虐・性的描写なし/対象年齢15歳以上推奨
※本小説の設定やキャラクターイメージはこちらから
https://akkin.site/?page_id=90
計量スプーンに3メモリ分移して口に近づける。
『でんでんでんで~んでん』
やっぱりこの効果音セリフ。
ん?なんかセリフが違う?
と、思っていたら景色が変わっていく。どんどん大きく...違うわ...首が伸びているわね...なんで?
目の前の鏡を見ると、首だけが伸びていくアバターが見える。
え~っと、そこら辺の木よりも上に私の頭があるわね。
ふと横を見ると鳥が通り過ぎる。
睨まれているわ。
なんで睨まれているのかしら?
「お~!成功だ!!」
足元...じゃない、体の横に立っている死神博士が喜んでいるのが見える。
消しゴムサイズの私たちを木よりも高い位置から見ると、とても小さすぎて良く見えない。
てか、ちょっと待て!
「これのどこが成功なのよ!!」
「おいおい!3メモリでの現象が確認出来たのだ!これは成功と言えるだろう!!」
「待って!3メモリでの現象は予想してたんじゃ?」
「そんなものはない!!」
「なんでよ!!」
科学者失格!!
ともかく、この首をどうにかしたい!
でも、首が長くなってて、手元が見えにくい。
と、思っていたら手が上に伸びてきて、瓶と計量スプーンが目の前に見えるようになった。
意味不明な現象だけど、この際は非常に助かるわ。
元に戻るには青い薬を3メモリ飲めば良いはず。
下では博士がまだ喜んでいる。
聞いた所でまともな答えがあるとは思えない。これは体験済み。
とにかく、青い薬を3メモリ移して飲んでみる。
『ぴろりろりんりん』
ん?やっぱりセリフがおかしい気がする。
変化はあって、どんどん見えている景色が下に降りてくる。
鏡のアバターも首が縮んでいるのが見えているから、大丈夫っぽい。
「あ~残念!戻ったのか」
「戻るに決まってるでしょ!」
「では、今度は赤い薬を1メモリ分飲んでみてくれ」
「それ、どういう結果になるんですか?」
「当然、大きくなるんだよ!」
「だから、どこがどれぐらい大きくなるんですか?」
科学者なんだから、良そうぐらいしなさいよ!
「どこか分からない。大きさも分からない。その為の実験ではないか!」
「適当すぎますよ!」
「その通り!適当な対応である」
ん?待って?『適当』って『いい加減』みたいな意味と『当てはまる』みたいな意味の両方があるんだったっけ?
「では、次行ってみよう!!」
「あ」
気が付くと、博士が赤い薬を1メモリ分計り、私に強引に飲ませた。
『でんでんでんで~んでん』
やはり明らかにセリフが違うわね。
最後の『でん』が増えているわ。
しかし、なんて強引なのかしら。
死神博士なだけあって、本当に危険人物だわ。
今度は視覚情報は変わらない。大きくなってないようね。
どうなっているんだろ?
と、思って目の前の鏡を見てみる。
「ひぃ~ひっひっひっひ...」
博士がめっちゃ笑ってるわ。
確かに面白いでしょうね。
でも、私は憂鬱な気分にしかなれない...
今度は頭が大きくなっちゃったのよ。
身長はそのままで、頭だけが大きくなっている。
これはいわゆる二頭身キャラじゃない!
「ちょっと!これはどういう事なんですか?」
「いやすまぬ!どうやら薬が違うようだ」
「どういう事!!」
「『アンバラシアグミ7』だったようだ」
オチはそこ?
「なんで違う薬を渡してくるのよ!」
この実験に意味が全くないわよね。
「『ビスコロキャンディーRS』は赤が#FF0000で、青が#0000FFなのだが、『アンバラシアグミ7』は赤が#FF0025で、青が#0025FFなのだ」
「なにそれ?全然分からないんだけど?」
いや、なんか知ってる気がするけど、何なのかが思い出せないわ。
「そうなのだ。非常に微妙な色違いなのでな」
「違うわよ!FFとか言われてもゲームのタイトルとしか思えないんだけど?」
「私は1をプレイしておったぞ?」
あれって何年前だっけ?50年ぐらい前じゃないかしら?
「わ~すごい!...じゃなくって、判断基準が分からないんです!!」
危うく騙される所だったわ。
「なんだ、知らぬのか?これは色コードと言って、特にデジタルでデザインをする際に...」
「ごめんなさい!要らないです!微妙な違いって事だけ分かれば十分ですから!!」
「そうか...残念だ」
とにかく、この状態を解除したいので、また青い薬を1メモリ分飲む。
『ぴろりろりんりん』
こっちは最後に『りん』が付いちゃってるのね。こっちも微妙な違いだわ。
視界は変わらないけど、鏡の中のアバターの状態は元に戻った。
はぁ~...認めたくないものね。
目の前の鏡が有効活用されている事に...
「すまんすまん。これが『ビスコロキャンディーRS』の原液だ」
「大丈夫なんでしょうね?」
別の瓶を渡されながら、ジト目で死神博士を見る。
あ、アバターもジト目になってるわ。
あと、口も動いている。
このVRゴーグル、アイトラッキングやフェイストラッキングって付いてたっけ?
「もちろん!この死神博士は間違う事はないのだ!」
「ついさっき、思いっきり間違ったじゃない!」
ホントについさっきの話よ!?
「間違ったのではない。見間違えたのじゃ」
「一緒じゃん!!」
「一緒ではない!よろしい。『間違える』と『見間違える』の相違点について、今から講義を行うぞ。そもそも『間違う』と言うのはじゃな...」
「ごめんなさい!確かに一緒じゃないですよね!ちゃんと理解出来ましたから、実験を進めましょう!」
「そうか...残念だ」
危なかったぁ~...
改めて『ビスコロキャンディーRS』を持たされたんだけど、大丈夫かな?
「よし。ではさっきと同じく、まずは3メモリ飲んで見てくれ」
「結果予想は?」
「ない!」
「でしょうね!」
私は色々諦めつつ、赤い液体を3メモリ口に入れる。
『でんでんでんで~ん』
効果音セリフの後、アバターが大きくなる。『で~ん』の後に『でん』もない。
ちゃんとアバター全体が大きくなってるわね。
ちょっと安心。
てか、大きすぎない?首が長くなった時よりも視線が高いんですけど?
気分は光の国の宇宙人ね。
「思ってたよりも大きくなったではないか!」
「予想してるやん!」
「当然である!私は死神博士だぞ!」
「さっき、結果予想はしてないって言ってたじゃん!」
「予想はしたが、結果予想はしておらん!よろしい!『予想』と『結果予想』の相違についての講義を今から始めるぞ。まず『予想』と『結果予想』の文学的な...」
「ごめんなさい!要りません!不要です!聞きません!」
「そうか...残念だ」
もう、抵抗するのは止めよう。
とりあえず、周りを見渡してみる。
確かに街の中に森があるのね。
てか、この街はかなり大きいのね。
問題は、最初の場所が結局分からないって事ね。
目標になりそうなのは...鏡の裏側には所々に広場があるみたい。
何かありそうだから、そっちに向かうようにしてみましょうか。
今は博士の実験を終わらせなきゃね。
博士とは出来るだけ会話をしないようにと思って、黙って青い原液を3メモリ分口に含む。
『ぴろりろりん』
効果音セリフが鳴って、元の大きさになった。
うん。こっちも『りんりん』じゃなくて『りん』だけだわ。
とにかく、同じ量を飲めば元に戻るのは間違いなさそうね。
「では、今度は1メモリ分飲んで見てくれ」
「は~い」
もう抵抗せずに1メモリ分飲む。
『でんでんでんで~ん』
今度は元の大きさぐらいになったみたい。
よし!これで問題解決ね。
博士が口を開く前に、青い原液を1メモリ飲む。
『ぴろりろりん』
あ、飲まなくても良かったかも?
けど、後で飲ませてもらえば良いか。
「博士、そろそろ終わりにしてもらえませんか?」
「むむむ!まだデータが足りんのだが...」
「もう十分でしょ!!」
私としては問題解決になったので、これ以上実験に付き合う気はないのよ。
「そうか。残念だが仕方あるまい」
博士は机の上の瓶を二つ取り出した。
「これは『ビスコロキャンディーRS』の完成品だ。君の実験データのおかげで完成した。持って行きたまえ」
「え?いいんですか?」
え?いつの間に完成させたのよ。
ついさっきまで、絶賛実験中だったんですけど?
それに、データが足りないとかも言ってたよね?
思わずツッコミを入れそうになったけど、講義をされちゃ堪らないので、敢えて黙っていよう。
私はちゃんと学習する女子高生なんだから。
「当然だ。君は私の助手として働いてくれたのだからな」
「助手じゃなくて被験者でしょ?!」
文句を言いながらも、私は赤いキャンディー×5、青いキャンディー×5を受け取った。
『アイテムボックスに追加されました』
「ところで博士、『ビスコロキャンディーRS』の『RS』って何ですか?」
「むむむ!良い質問だ!」
博士は得意げに胸を張る。
「『Red & Small』の略だ!」
「Smallじゃなくて普通はBlueでしょ?!なんで『S』なんですか?!」
「よろしい!説明しよう。まず、『Red』に関して言えばだ、カラーコードからも分かるように...」
「分かりました!大丈夫です!説明不要です!!」
「そうか...残念だ」
最後にやらかす所だったぁ~...
手元の赤い原液を1メモリだけ口にする。
『でんでんでんで~ん』
もう聞き慣れた効果音セリフが鳴ると、私は普通の大きさになる。
「じゃあ博士、ありがとうね」
元の大きさになれたのは本当に助かったのよね。
だから、ちゃんとお礼は言わなきゃ。
「ふむ。また来たまえ!次は『アンバラシアグミ7』の人体実験をしなければな」
「絶対嫌です!」
「そうか...残念だ」
下手な事を言うと、何か言われるかもしれないので、私は手を振って博士と別れた。
「必ず来るのだぞ~!!」
だから、絶対嫌って言ってるでしょ!!
背後から博士の声が聞こえたけど、私は聞こえないふりをして、足早にその場を離れたのだった。
あ、鏡の裏側に進むんだった。
慌てて戻る。
「おぉ!やはり戻ってきたな!!」
めっちゃ嬉しそうな声が聞こえたけど聞こえない。
私には声が小さすぎて聞こえないのよ。
と、心の中で言い訳をしながら、博士の脇を通り過ぎ、家と鏡の間を通る。
「おい!どこへ行くのだ!戻ってくるのだ!同志よ!!」
絶対同志じゃない。
いや、聞こえないの。私には何も聞こえない。
「達者でな~...残念だ」
ごめんね。
聞こえないの。




