犬も歩けば足が棒・・・歩くだけでも疲れます
排水溝から流された私は画面が暗転していた。
正直排水溝の管の中なんて見たくなかったので助かったわ。
しばらくすると、暗転していた画面が明るくなり、周りが見え始めたので確認してみる。
「ここは...池の中?」
よく分からないけど、アバターの背丈よりも深い水の中だった。
水中特有の揺らぎが見える。
...映像効果だって事は分かってるけど。
「現実に水の中だったら溺れている所ね」
本当なら溺れているはずなのに、何も起きない。
この違和感、かなり気持ち悪い。
水面に上がろうにも方法が分からない。
一度上に向かって腕を掻いてみたけど、一切移動しなかった。
どうしようか?と、少し様子を見ていると、誰かが話しかける。
「おやぁ~?どうしたのぉ~?こんなところで、何をしてるのぉ~?」
やはり後ろから声を掛けられたので、アバターを操作して後ろを見る。
...そこには水中を泳ぐマウスがいた...
ネズミではない...パソコンで使う、あの「マウス」が泳いでいる...
「なんで、マウスが泳いでいるのよ...」
「ん~?そうかなぁ~?おかしくはないよねぇ~?」
「おかしいから聞いてるんじゃない」
生き物じゃないはずなのに、普通に泳いでる。
...まあ、VRだし。
「そんな事はないよぉ~?だって僕、泳いでいるんだからぁ~?」
と、気持ちよさそうに泳いでいる。
てか、このマウスの精神年齢は何歳なのかしら?
「マジ意味わかんないわよ」
「そぉかい?現実を否定しても意味はないよぉ?おやぁ~?友達も来たねぇ~」
精神年齢が低いかと思ったら、意外とまともな事を言うのね。
もっとも、ここはVRの世界だからこういうのもアリってだけ。
と考えていたら、頭の上を通っていく物体に気が付いた。
頭をめぐらせて周りを見ると、いつの間にか沢山泳いでたわよ...
マウス...USBハブ...ゲームパッド...WEBカメラ...あれは...USBメモリ?
どう見ても、泳いじゃダメな連中ばかりだった。
ちなみに、たい焼きはここでは泳いでないみたい。
彼らにとって、泳がない私は珍しいのかしら。
みんなで私の周りをくるくると回っている。
「あ~れぇ~?君、面白い恰好だねぇ!ハハハ!君はどうして泳がないのさ?!」
ゲームパッドが聞いてきた。
このゲームパッドは無線タイプね。コードが付いてないし。
「泳げないのよ」
「面白い!泳げないのに水の中にいるのぉ~?意味が分からない!」
私も意味が分かんないわよ!気が付いたらここに居たんだから。
それ以上に、あなた達の方の存在の方が意味わかんないんですけど!!
「そうなのよね~」
ま、実際にこのゲームの中では泳げないのが『仕様』みたいだからね。
大人しく肯定しておいたわ。
私は大人な女子高生なのよ。
「なんで泳げね~んだよ?泳げなかったら困るじゃね~か!」
今度はWEBカメラが話しかけてくる。
ケーブルを尻尾のようにくねくねさせて泳いでいるわね。
そういや、ゲームパッドは無線タイプなのに、どうやって泳いでいるのかしら?
「私の場合は歩くしかないの」
気を付けないと幼児のようなしゃべり方になっちゃう。
負けないわよ!
「そうなんだ。泳げないんだねぇ~。で、こんなところで、何をしてるのぉ~?」
今度はまたマウスが聞いてきた。
また、最初の質問をしてきたわね。
ちょっと考えて、
「この水の中から出ようとしているのよ」
「なぁんだぁ~、そんな事なんだねぇ~。だったらぁ~、このまままっすぐに行ったらいいよぉ~」
「そうなのね、ありがとう」
素直にお礼を言い、私は教えられた方向に向かってまっすぐ進む。
ここは水の中と言う事なので、ちょっと遠くは見えにくいけど、大丈夫でしょう。
ゲームだから何でもありって言えばありなんでしょうけど、ここまでの流れは結構無茶よね。
攻略法って、本当にないのかも知れないと、ちょっと不安になってきた。
「おやぁ~?歩くってそんな感じなんだぁ~。それでぇ~、君はいったい何をしてるのぉ~?」
そう声を掛けられたので、横を見てみるとさっきのマウスがいた。
なんでいるのよ?
しかも、同じような質問を何度もしてくるっていう仕様なの?
「ここから出ようとしているんだけど?」
「おやぁ~?なんでぇ~?」
このマウスは聞きたがりなのね。
「ここにいたら進めないからよ」
「おやぁ~?すすむってどういう事ぉ~?」
「次のエリアに行く事よ」
「おやぁ~?次のエリアってぇ~どこぉ~?」
あ~!イライラしてきた!
「知らないわよ!!とにかく、ここじゃない所よ!」
思わず言葉遣いが悪くなっちゃった。
ダメよ、私。
女の子なんだから、気を付けなくっちゃね。
「おやぁ~?...あ~!わかったよぉ~!『ここじゃない所』に行きたいんだねぇ~?」
「そうよ!」
ん?合ってる...のかな?
「おやぁ~?だったらさぁ~、ここから出れば『ここじゃない所』だねぇ~?」
合ってる。
合ってるんだけど...いや、合ってるわね。
「......そうね」
「おやぁ~?合ってるんだぁ~。よぉ~し!じゃあぇ~みんなでここから出よおぉ~!」
と、マウスが周りのUSB機器たちに声をかける。
そうすると、周りのUSB機器たちは素直に私の周りを泳ぎ回り、岸に向かって進んでいくことになった。
私の周りはとても賑やかになったんだけど、私自身は賑やかな気持ちになれない。
なぜなんでしょうね?
しばらくすると岸に上がる事ができた。
振り返ると、結構大きな大きな池...違う...私が小さいんだから、これは単なる水たまりね。
周りを見てみると、どうやらここは森の中のようね。
それにしても、このゲームの目的が分からない。
今後の進め方としては、なんとなくだけど、最初の部屋の小さなドアの先に行くのが正解な気がするのよね。
もちろん、絶対ではないんだけど、認証する為のカードがテーブルの上にあったので、正解はそこだと思う。
ともかく、まずは最初の場所に戻ってみましょう。
「えっと、街に戻りたいんだけど、出口はどっち?」
と、マウスに聞くと、
「おやぁ~?みんなぁ~、出口はどっちかなぁ~?」
他のUSB機器に聞いた。
マウスは知らないらしいわね。
「あっち!」「こっち!」「そっち!」
え?ちょっと!
なんで全員バラバラの方向を指しているのよ!
「ちょっと待って。みんな違う方向指してない?」
「おやぁ~?不思議かい?」
どういう事?
「じゃあ、どれが正しいのよ?」
「おやぁ~?分からないぃ~?全部正しいよぉ~?だってぇ~、出口は一つじゃないからねぇ~」
「......」
なに?その理論は?絶対哲学的って奴ではないわよね?
方向としては屁理屈的にしか聞こえない。
でも、きっと聞き方を間違えたんだと思う。
絶対大丈夫な聞き方...そうだ!
「聞き方を変えるわ。街はどっち?」
「おやぁ~?みんなぁ~、街はどっちだろうねぇ~?」
「あっち!」「こっち!」「そっち!」「どっち?」
答えがさっきと変わらないってどういう事?
いや、「どっち?」って言ってる奴が増えた。
「なんで今度もバラバラなのよ!」
「おやぁ~?知らなかったんだねぇ~。ここはねぇ~、街の中にある森だからだよぉ~」
マジか...
「......ありがとう......もう行くわね......」
私は歩いていないのに、かなりの疲労を感じてしまった。
これが「気疲れ」って奴なのね...
ともかく、どの方向も街に着くらしいので、水たまりに背を向けて、まっすぐ進んでみましょう。




