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人狼転生 〜転生したら、俺らは神殺しの獣と呼ばれていた〜  作者: かぼちゃパンツ
序章 〜幼少期〜

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7話

「もう。ご飯作ったのに、急に家から出るんだもん」


 リーアは微笑んでいる。

 もう当たり前に“家族”だと思っていたし、今さら意識したことはなかったけど、やっぱり母さんは綺麗だ。


「ねぇ。なんで出ていっちゃったの?」


 母さんは俺と同じように木のフェンスへ体重を預け、上半身を乗せる。


「だって、俺はスノームーンに感謝されるようなことしてないのに」

「そうねー。でも、それって“あなたがそう思ってるだけ”よね」


 その言い方に、俺はついイラッとしてしまった。


「本当のことでしょ」


 声が荒くなったのを、自分でも分かった。


 するとリーアは、そっと俺の背中に手を置いた。

 外が寒いせいかもしれない。だけどその手は、あまりにも温かかった。


 生まれた頃、抱きしめられた時の温もり。

 あれは、今もまったく冷めていない。


 それだけで、心を覆っていた氷が溶けていく気がした。


「あのね。変なこと言っちゃうかもしれないんだけど……ウォルファって、年齢がずっと変わってないような気がするの」


 心臓が、どくん、と跳ねた。


 図星だ。

 異世界に転生してから、精神が成長している感覚はない。ずっと十八歳のままーー時間が止まっているみたいだった。


 この肉体が十八歳を超えたら進むのか。それは、その時にならないと分からない。


「悪口じゃないのよ? ウォルファって、いつもどこか達観してる。大人っぽいっていうか、10歳にしては物事を深く見すぎなの。だから、スノームーンに、素直にどういたしましてって言ってほしいな」


「無理だよ……」


 その時、リーアは俺の額に、人差し指をぴしっと当てた。


「無理じゃないわよ。にしても、家を出ていく必要はないでしょ。うふふ、やっぱり子供っぽいところもあるのね」


 顔が熱くなる。確かに、俺、なんで家を出たんだ。


 今さら恥ずかしくなって、視線を泳がせた。


「責任感が強いのは、すごくいいことよ。でも、突き放しちゃダメ。ちゃんとスノームーンと話しなさい」


 思えば、こういう“教育”は新鮮だった。前世の十八年では、あまりにも縁がなかったやつだ。


 俺は頷き、家の中へ戻った。

 焼いた肉の匂いが、鼻の奥を満たす。


「あら。帰ってきましたの。お散歩は楽しめました?」


 スノームーンが皮肉っぽく言う。


「うん。有意義なお散歩だったよ。それで本題なんだけど……ありがとうって言ってくれて、ありがとう」


「変な文ですわね」


 スノームーンは呆れたように言いながら――でも、口元はほんの少し緩んでいる。


「“ありがとう”と言ったのは本心ですわ。それを拒否されたのは……正直、悲しかったですわ」


「うん。ごめん」


「もちろん、責任はあなたにもあるかもしれません。でも……私は、あなたとピクニックできて嬉しかったんですの」


 スノームーンは立ち上がり、俺の右手を小さな両手で握った。


「だから、ありがとう」


 眩しい笑顔だった。

 純粋さだけで、光っているみたいに。


「うん。どういたしまして」


 ようやく、胸の奥の曇りが晴れた気がした。

 今はただ、リーアとスノームーンに感謝を伝えたい。



 あれから一か月が経った。

 確執が消えたとはいえ、夜まで外で遊ぶのはもうやめた。あんな思いは二度としたくないし。


 ふと、スノームーンがここにいる理由を忘れそうになる。

 だが目的は明確で、ツキモドキという虫の毒を完全に抜くためだった。ツキモドキは人の傷口から体内に侵入し、食事と共に毒を撒き散らす厄介な存在だ。


 結局、フォードたちの馬車を襲ったのも、あの鳥の魔物だったのだろう。

 魔物に襲われ、リーアは傷ついた。そしてその傷口にツキモドキが侵入したのがこうなった経緯ということだ。


 父が看病した時点でスノームーンの体力はかなり戻っていた。

 ただ、毒は油断できない。完治するまで滞在――それが表向きの理由。


 でも実際は、皆、別れを惜しんでいるんだと思う。


 そんな日々の終わりは、いつだって突然だ。


 ある日の夕食の最中。

 スノームーンが、唐突に言った。


「私、もう行きますわ」


 さっきまで談笑していた空気が、止まった。


「……そっか」


 俺の口から出たのは、それだけだった。


「この一か月半、本当に楽しかったですわ。

 最初はずっとここにいたいと思いました。でも……逃げている気がしたんですの」


「お嬢様……!」


 フォードが感嘆の声を漏らす。


 そう。素晴らしいことだ。

 なのに、俺の胸にぽっかりと穴が空いたみたいだった。


「私はやっぱり貴族ですわ。本当なら、今すぐ留学に戻って、家を繁栄させるための勉強をしないといけないんですの」


 そこで父が立ち上がる。


「よし。荷造りを手伝ってやらないとな」


「ちょ、ちょっと待って! 別れの宴とか、やらないの? ……あっ」


 俺は思い出す。

 スノームーンから受け取った首飾り。――“いつか会うため”の証だ。


「やっぱ別れの宴は無し! な、スノームーン? 俺、会いに行くから。寂しがるなよ」


 いつも通りに言った。

 こういう細かい煽り合いが、俺たちらしい。


「だ、誰があなたと別れて寂しがりますの? まあ。でも、楽しみにしておきますわ」


 夕食の後、俺たちは急いで荷造りを手伝った。

 留学先まで一か月ほどかかるらしく、その分の食糧も準備する。


 ヴァロンは馬車を修理し、馬も用意した。

 リーアは魔法で生き物と会話できるらしく、どこかで親切な馬を見つけてきたという。



 そして翌日。ついに別れの日が来た。


 スノームーンもフォードも、よく眠れたのか元気そうだ。

 俺も不思議と、泣きそうにはならなかった。


 “また会う”と誓ったからかもしれない。

 いや、もっと単純に、これは今生の別れじゃないと、なぜか確信していたからだと思う。


 馬車の窓から、スノームーンが顔を出してこちらを見下ろす。


「本当に来るんですわよね?」

「本当だって」

「信じてますわよ?」

「だから本当だって」


 スノームーンは頬をぷくっと膨らませた。


「嘘だったら、地の果てまで追っ手を出しますから」

「あはは。その必要、なくなると思うよ。……じゃあね」


「私、ヴァーレアという都市で暮らしてますの。覚えてくださいね」

「うん。覚える」


 馬車が動き出す。

 雲ひとつない空の下、馬の蹄が地面を蹴る音だけが響いた。


「にしても、この首飾り。何年後でも通じるのかな」


 俺が呟くと、背後からヴァロンが「え?」と声を上げた。


「なに? そんな驚いて」

「あ、いや……その首飾り、お嬢ちゃんから貰ったのか?」

「うん」


「そっか。いや、高そうなものだから、びっくりしただけだよ」


 なんだ、この意味深な間。

 まあ、今はどうでもいいか。


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