11話
翌日、俺は床の上で目を覚ました。
一瞬だけ「なんでこんな場所で……?」と思ったが、ベッドの上のマルタを見てすぐに思い出す。
そうだ。魔法の特訓中に、あいつが俺のベッドへ飛び込んでーー俺が床へ追いやられたんだ。
床で寝たせいか、身体のあちこちが鈍く痛む。
ゆっくり立ち上がって伸びをして、眠っているマルタの肩を優しく数回叩いた。
「ん……ぅ」
マルタが目をぱちぱちさせる。
それから俺の顔を見て、「えぇっ!?」と叫び、布団で全身を覆った。
「なんで部屋に入ってきてるの!?」
「一応、ここ俺の部屋なんだけど」
「え? ……あれ、そういえばそうか。ごめん!」
意外と間抜けなところもあるんだな、とつい笑ってしまう。
「気にしないで。それより、マナは回復してそう?」
「うん。私は元気だけど……」
マルタが申し訳なさそうに声を弱める。
「はいはい、その話はもう終わり。俺も結構やらせちゃったんだし。おあいこってことで」
「う、うん! もうしない」
「よし。じゃあ早速だけど、もう一回スケルトンの巣窟に行こうか」
まだ依頼は終わっていない。
洞窟は深かったし、目当ての魔道具が見つかったとも思えない。
「分かった……なんか緊張するな。前回、全然ダメだったし」
「しょうがないよ。言い方悪くなっちゃうかもだけど、君たちは実力が見合ってなかった……とはいえ、極論、依頼人が悪いんだけどね」
マルタが眉をひそめる。
「どうして?」
「普通はさ、依頼には“○級以上限定”みたいな条件を付けないといけないんだ。
でもこの依頼にはそういう制限がないだろ? そのくせ報酬だけは豪華に設定されているから、君たちみたいな被害者が多いんだと思う」
マルタは肩を落とし、ため息を吐いた。
俺たちは装備の手入れと忘れ物チェックを済ませ、部屋を出る。
結局、マルタの部屋はほぼ使ってない。部屋代は無駄だが、本人に言う必要はないだろう。
エールの街に出て、俺たちは、朝食を露店の串焼きで済ませる。
俺が二本で十分なのに、マルタは八本も頼んだ。もちろん自腹。にしても、本当によく食べる人だ。
それから酒場へ向かい、念のためクエストの状況を確認しに行く。
歩いて五分。酒場の木製の扉の前へ着いた。
扉を開けると、静かな空間が広がっている。
いつもは朝でも人で溢れてるのに。今日は二十人ほどしかいない。
てきとうに、近くの席に座っている男に声をかける。
「あの、人少なくないですか?」
「帰ってこねぇんだよ。例の魔道具の依頼だ。お前も冒険者なら分かるだろ?」
俺は小さく頷いた。
「あそこはスケルトンの巣窟だ。弱ぇ奴らは、皆殺しにされたんだろうな」
背筋に冷たいものが走る。
洞窟から戻る途中、すれ違った冒険者たちは皆疲れていた。だが、全員がやられた? そんな馬鹿な話があっていいのだろうか。
「そんな……」
マルタが呟いた、その時。
酒場の扉が勢いよく開いた。
町民らしき青年が、息を切らして飛び込んでくる。
「はぁ……冒険者の皆さん!! 死霊たちが……街に押し寄せてます!」
酒場にいた冒険者たちが一斉に立ち上がった。
俺はしゃがんでから、青年の背に手を置く。
「知らせてくれてありがとうございます。俺たちが何とかします」
俺はマルタと、他の冒険者たちと共に正門へ走る。
目的地に近づくほど、警鐘の音が大きくなっていく。周囲からは、町民達の逃げ惑う声が聞こえる。
「敵襲ーー!! 全員避難しろーー!!」
正門の先には、死霊の群れ。
スケルトンもいる。ゾンビもいる。
俺は背中から戦斧を抜き、構えた。周りの冒険者達も、各々の武器を構える。
その時、マルタが俺の腕をぎゅっと掴んでくる。
「どうしたの?」
「怖くって……私、生き残れるよね?」
「俺のそばにいて。少なくとも、死にはしない」
駆け出し冒険者がこの光景を見れば、怖くて当然だ。
連れ出したのは俺だ。守る責任もある。
「行くぞーー!!」
先頭の冒険者が叫び、俺たちは一斉に走り出した。
前方のスケルトンたちが矢を構える。
俺は即座に前方へ結界を展開した。
矢が弾かれ、乾いた音を立てて地面に散る。
その隙に、ゾンビの群れが雪崩れ込む。
俺は息を吸い、全身にマナを巡らせた。
今度は失敗しない。
地面を蹴って、敵陣のど真ん中へ突っ込む。
「っっらぁぁ!!」
戦斧を横薙ぎに振るう。
手応え。無数の骨が砕け、腐肉が裂ける感触が腕に返ってくる。
左からスケルトン狼が跳んだ。
俺は拳で迎え撃ち、骨を粉砕する。
前方のゾンビは戦斧で一閃。
倒れたところへ追撃を入れ、動きを止める。
敵が密集してきた。
俺は斧にマナを集め、地面へ叩きつける。
衝撃波が広がり、死霊たちがまとめて吹き飛んでいく。
これで視界が開けた。目を凝らしてみると、奥に、ローブを被ったアンデッドが見える。
あいつ指揮中枢だ。俺の勘がそう言っている。
俺は走り出す。
両側から敵が寄ってくる……だが、炎の剣が突然飛んできて、そいつらを焼き払った。
ちらりと振り返ると、マルタが炎魔法を飛ばしていた。形の制御も安定している。
よし。ちゃんと身についてる。
他の冒険者たちも追いつき始め、戦線が広がる。
これで死霊たちは俺だけを狙い続けられなくなった。
今が好機。
速度を上げ、一気にローブのアンデッドへ接近する。
「ゲギャ!」
奴が魔法で、空中に岩の盾を生成した。
「邪魔!!」
戦斧で払う。盾が砕ける。
だが、相手も手練れのようだ。砕けた破片を瞬時に集めて、槍に変える。
「っ!」
飛来した槍を左腕で受け止める。
先端が、浅く刺さった。
「ゲギャァァ!!」
次の瞬間、刺さった岩の槍が破裂した。
破片は雨のように降り、俺の首と頬を掠める。思わず斧で見守ろうとする。
いや、防戦はやめだ。突っ込もう。
破片の中を強引に前進し、斧を振り下ろす。だが、相手はまた盾を展開してくる。
これでいい。
俺は斧を手放す。
相手が、その行動に動揺している隙、俺は足にマナを溜め込んで相手の背後に瞬時に移動する。
腕にマナを全力で集め、横に振るう。
岩の盾ごと、アンデッドの胴体が真っ二つに裂けた。
ドス黒い血が溢れ、地面を濡らす。
「……ふぅ」
終わった、か。




