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ファンタジー、コメディ、その他+α(短編)

分娩室 〜異世界ざまぁ味〜

作者: いのりん

 ジャパネスク共和国はナーロッパ大陸の先進国である。ただ、先進国の中では比較的男尊女卑の風潮が根強く残っていて、女性のための様々な制度は他国の後塵を拝している状況であった。


 そんな現状を変えていこうと、若くして女性議員となったリーナ・エカテは、本日も議会で戦っている。


「……と言うわけで、出産する女性が鎮痛魔法の使用を希望した場合、全額保険適用にしたいのです」


 鎮痛魔法は一定時間痛みを無くす。

 失敗や副作用は殆どなく、他の先進国では15年程から出産時にも保険適用が開始されていた。


 ただ、本国ではまだ保険非適用。ゆえに中流層以下では金銭的な問題から出産時に使用する事を躊躇するケースも多い。


「出産にかかる疼痛をコントロールすることによって産後の体力回復が早いというメリットも指摘されていますし、使用した方が第二子以降の出産を前向きに捉える傾向も示されています」


 彼女の提案は理にかなったものであり、議会では、承認に前向きな空気になっていたのだが――


「異議あり」


 そこに、ロガイ・ハラマタという、強い影響力をもつベテラン議員が待ったをかけた。


 彼は予算についてアレコレいってきた。

 長くなるので要約すると『天下り先の予算が減るからやめろ』という事だ。


「議員がお若いころは、まだ鎮痛魔法がない時代だったかと思いますが、奥様の出産には立ち合わなかったのですか?」

「立ち合っていないな。というか最近の若い奴はみんな仕事を休んで立ち会っているが、別にそんな必要なかろう。出産は病気ではないんだぞ」


 そこに、「出産の痛みに耐えてこそ母親。無痛分娩など甘えだ」であるとか「楽をして産んだ母親は子どもに愛着がわかない」などといった、根拠を伴わない心ない言葉も続く。


 しかし、腐っても鯛。影響力のあるロガイの弁舌により浮動票となっている日和見議員達が流されてそうになるのをみて、リーナは一計を案じた。


「ロガイ議員のお考えは分かりました。では、この件は一旦保留として、次の議会でまでに何度かロガイ議員に出産の現場を視察・体験して頂くと言うのはどうでしょう。産婦の立場に立てば意見も変わるかもしれませんし」


 それにロガイが合意した事で、この日の議会はいったん解散となった。


 ***


 数日後、ロガイはリーナ達と国営の巨大な医療施設を訪れていた。用意されていた座り心地の良い椅子に腰掛け、産婦人科の責任者から説明をうける。


「正面にある魔法鏡に現在行われている出産の様子が映し出されます。もちろん妊婦はこの視察について同意済みです」

「ん、わかった」


(要は、苦労する妊婦の様子をみせたり妊婦体験させたりしてワシの心変わりを期待しとるんだろ?)


 若い女議員の浅知恵だと考えるロガイ。

 しらぬ女が苦労しようが知ったことではないわ。

 今のポジションを掴むために、自分が政敵を何人蹴落としてきたか理解していないらしい。


「では、暴れると危険なので一旦拘束させて頂きます『バインド』」


 ガチャリ


 責任者がそう言うと、座っていた椅子から仕掛けが飛び出しロガイは拘束された。


「お、おい。どう言うことだ!?」

「先日言ったではないですか、議員には出産の現場を視察・()()()()()()と」


 動揺するロガイを無視して、リーナとその関係者はテキパキと動いていた。


「それでは、今から産婦の様子を魔道具に映すと同時に鎮痛魔法を疼痛転移魔法に切り替えます。三、二、一」


 次の瞬間、ロガイは腰をハンマーで殴られたような痛みに襲われ呻き声をあげた。


「うぐ!?ぐおおおお!!!」


 それも、一発で終わりではなく一つ波が引いたと思ったらすぐに次の波がやってくる。


 それが全て、声を我慢できないような痛みだ。


「議員、これが陣痛というものですわ」


 表面上は穏やなリーナ達。


「今、議員にかけているのは痛みを他人に移す疼痛転移魔法です。本来はうまく話せない患者の痛む箇所や程度を医療者が把握するためのものですが、現在は妊婦の痛みを転移させています」


 しかし内心では結構ブチギレていたのである。


 魔道具から声が聞こえてくる。

 その内容にロガイは青ざめた。


「赤ちゃん出やすいように、ちょっと切りますねー」

 

 臍の緒を切るのは知ってるけど・・・・・・・そこを切るなんて聞いてないよ!?


「たぶん男性器に痛みのフィードバックがくると思いますけど、気絶しないようにしてくださいね」

「後から縫い合わせるのも体感してもらいたいですし、それでも保険適応に納得して頂けないなら本件のような安産ではなく難産のケースも経験して貰わないといけませんからね」


 ジョキン⭐︎


 ロガイの「ごめんなさい!」という絶叫が響き渡ったのと、助産師さんの「はーい元気な赤ちゃんが出て来ましたよ」という声は、ほぼ同時だった。


 ***


 その後、リーナの提案はあっさり承認されることになる。


 それをきっかけにジャパネスク共和国の出産率や女性の地位も向上し、発言力をましたリーナは晩年、女性初の国家元首となった。


 ちなみに本件で痛い目をみたロガイは大いに反省して、家に帰ってから妻に過日のアレコレを土下座で謝罪したという。

 それをきっかけに冷えていた夫婦仲は氷解。

 天下りもせず、妻の尻にしかれつつ……二人でささやかながら幸せな老後を過ごしたそうな。

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