第9話:『統制の隙間』
魔女協会の訓練は、雷の魔法の習得だけでなく、肉体と精神の鍛錬にも及んだ。しかし、かおりは、訓練生たちが神宮寺結衣の思想を盲目的に信じていることに、違和感を覚えていた。彼女たちは、なぜこの世界が作られたのか、その真実を知ろうとしない。
ある夜、かおりは、一人で図書館に足を運んだ。そこには、以前の世界の記録が、ごく一部だけ残されていた。
(オールドメディアは危険…そう、言っていたけど…)
彼女は、古いデータ端末を開いた。そこには、かつてのニュースサイトや、個人が運営していたブログの記録が残されていた。その中に、あるジャーナリストのブログを見つける。
「ジャーナリスト・サユリの、失われた声」
そのブログには、粛清の真実を追う、サユリという女性の記録が綴られていた。彼女は、神宮寺結衣の行動を「正義」と呼ぶ王国に疑問を抱き、独自に真相を調べていた。
「世界のゴミと呼ばれた者たちの中にも、本当は思いやりのある者がいたはずだ」
そう書かれた文章に、かおりの心は揺さぶられた。彼女は、サユリが追っていた「真実」に、興味を抱いた。
その時、図書館の扉が開き、一人の女性が入ってきた。
彼女は、魔女協会の講師の一人だった。かおりは、自分が危険な真実を探っていることを悟られないように、素早く画面を閉じた。
「こんな夜中に、何をしているのですか?」
講師は、厳しい目でかおりを見つめた。
かおりは、とっさに嘘をついた。
「雷の魔法について、もっと知りたいと思いまして…」
講師は、かおりの言葉に、少しだけ表情を和らげた。
「そうですね。雷の魔女は、ただの魔法ではありません。それは、自らの存在そのものを、世界に刻むことなのです」
その言葉は、かおりにとって、新たな謎となった。
(自らの存在を、世界に刻む…?)
この魔女協会の訓練は、単に女性を強くするためだけではない。
神宮寺結衣は、一体何を企んでいるのか。