表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第8話:『雷の魔女になるための授業』

魔女協会の中は、外見の荘厳さとは裏腹に、まるで未来の学校のようだった。広い廊下には、訓練生たちが真新しい制服に身を包み、活気に満ちた声が響き渡っている。早乙女かおりは、その光景をどこか冷めた目で見ていた。彼女たちは、誰もが希望に満ちているように見えた。だが、その希望が、誰かの手で与えられたものであることを、彼女たちは知らないのだろう。


最初の授業は、雷の魔女になるための、魔法の基礎だった。


講師は、威厳のある女性だった。彼女は「魔力とは、自らの魂と感情のエネルギー」だと語り、それを自在に操るための方法を教えていった。その訓練は、地道なものだった。目を閉じ、呼吸を整え、心の奥底にある、最も強い感情を思い描く。


かおりは、目を閉じた。浮かび上がってきたのは、倉庫の中の光景だった。あの時の、言葉にできない絶望。抗うことのできなかった、無力感。彼女の心の中で、黒い感情の渦が、まるで津波のように押し寄せてきた。


「いいですか、その感情を、そのまま解放するのです!」


講師の声が、遠くで響く。かおりは、その言葉に従い、心の壁を全て取り払った。


その瞬間、彼女の掌から、黒い稲妻が弾け飛んだ。


雷は、他の訓練生が生み出した、淡い光の粒とは、まるで違っていた。それは、破壊を象徴する、生々しい力だった。その場にいた誰もが、かおりの放った力に息をのんだ。


「すごい…」


誰かが、そう呟いた。かおりの掌は、痺れて熱く、その熱は全身を駆け巡った。彼女の目からは、とめどなく涙が溢れていた。雷として具現化されたのは、彼女が封じ込めてきた、あの日の感情そのものだった。


「お前は、その痛みを力に変えることができたのだ」


講師の声は、彼女の耳には届かなかった。かおりの心は、歓喜ではなく、深い悲しみに包まれていた。彼女は、この力を手に入れたことで、再びあの日の記憶に引きずり戻されたようだった。


授業の後、一人の訓練生が、かおりに近づいてきた。


彼女の名は、アリス。きらきらとした瞳を持ち、誰よりも早く雷の魔法を習得していた。アリスは、かおりの才能を称賛した。


「すごいね!あんなに強い雷を放てるなんて。きっと、神宮寺様に選ばれたんだわ」


アリスは、心の底から神宮寺結衣を崇拝しているようだった。


「神宮寺様は、女性を強くするために、この魔法を与えてくださったのよ。この力があれば、私たちはもう、誰かに怯えることはないんだから」


その言葉に、かおりは何も答えることができなかった。


この魔法は、彼女を救ってはいない。ただ、過去の痛みを力に変えろと、強要しているだけではないのか。


「この魔法は、本当に私たちを幸せにするのか?」


かおりは、初めて、誰かにそう問いかけた。


アリスは、かおりの言葉に戸惑った表情を見せた。


「何を言ってるの?これは、私たちの希望なんだわ」


かおりは、アリスの言葉が、テレビで流れていたニュースと同じであることを知っていた。この世界は、神宮寺結衣によって、完璧に統制されている。


魔女協会は、希望の場所ではない。


ここは、神宮寺結衣が望む「強い女性」を作り出すための、訓練所なのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ