04 古代神殿の受難
勇者パーティーは困惑していた。
召喚された魔法少女が思ってたんと違う。
魔王城を目指し旅を続ける途中、謎の老人から近くに古代の神殿があることを教えてもらったのが事の始まりだった。
老人によるとその神殿には、はるか昔、魔王との戦いに敗れて封印されてしまった伝説の神獣が眠っており、勇者の証を持つ者だけがその封印を解くことができるという。
「神獣の封印を解けば必ずや魔王討伐の力になってくれるであろう」という老人の言葉を信じ、勇者一行は古代の神殿に足を踏み入れた。
数々の試練を乗り越え神殿最奥部に辿り着くと、荘厳な神獣の石像が安置されており、土台には「勇者の証を掲げよ」と古代文字で刻まれていた。
その言葉に従い、勇者が手の甲に浮かび上がる証の紋章を石像にかざす。
たちまち石像は神々しい光に包まれ、勇者たちは眩しさに数歩後退った。
やがてその光が弱まると、そこには白く輝く身体に虹色の大きな翼を備えた伝説の神獣の姿があった。
『我は神獣セキリアン=トモカズール。勇者よ、よくぞ我が封印を解いてくれた。礼を言おう』
セキリアンから溢れる神性と威厳に、思わず跪く勇者一行を前に、神獣は封印を解いてもらった礼として、異世界から強大な魔力を持つ少女を召喚することを約束した。
その言葉に勇者たちは狂喜した。
パーティーにはまだ魔法使いがおらず、様々な点で不安で不便な旅を強いられていたのだ。
神獣は勇者パーティーに見守られる中、光に包まれて異世界へと消えていった。
………ここまでは順調で、何の問題もなかったのだ。勇者パーティー的には。
風向きが変わったのは、しばらくして神殿に再び神々しい光が満ち、神獣の姿が現れてからだった。
………戻って来た神獣セキリアン=トモカズールの様子がなんだかおかしい。
出発前と比べて、輝く白い毛並みはどこか青ざめてくすんでいるし、威厳に満ち理知的だった瞳はキョロキョロと落ち着きなく彷徨っている。更に、よくよく見ると頭頂部の毛が若干薄くなっている。
勇者たちがどうしたのかと尋ねる間もなく、神獣の後ろから衝撃的なものが見えてきた。
あまり見たことのない、微妙に揃ってるような揃ってないような装束に身を包んだ、勇者の母親あたりと同じ年頃と思われる三人の女性が、「あ〜肩凝った」などと口走りつつ肩や首をコキコキ鳴らしながら現れたのだ。
異世界情緒こそものすごく感じられるが、どう頑張って拡大解釈してみても、これは「強大な魔力を持つ少女」ではない気がする。
思わず「……チェンジで!」と叫んだタンクの騎士は、すかさず女性の一人にゲンコツを落とされて涙目になっていた。
『……えーと、あの、異世界から遠路遥々お越しいただいた魔女の皆さんでございます……』
異世界に行く前とは人が変わったような神獣セキリアンが、消え入りそうな声で三人を紹介する。
「コタツです。
最近ショックだったことは、若い頃普通に家で使っていた生活用品が、博物館の『昭和の暮らし』コーナーに展示されていたことです」
「カラスです。
最近ショックだったことは、肩幅より狭い隙間を横向きで通り抜けようとしたら、縦になっても横になっても身体の幅に大して差が無くて、やっぱり通り抜けられなかったことです」
「トードです。
最近ショックだったことは、乱視が進んで、テーブルの上に三万円あると思って近づいたら一万円しかなかったことです」
元気に自己紹介するオバチャンたちに、この人たち、本当に魔女なのか…?という空気が勇者パーティー内を流れるなか、女戦士がこわごわ「それは…一体どういう…」と問いかける。
「アラ、『最近ハマってること』の方が良かった?」
「エッ!さっきの自己紹介ってコタツさんの思い付きだったの!?
そういう縛りなのかと思ってめちゃくちゃ恥ずかしいエピソードトークしちゃったんですけど!?」
背の高いコタツという魔女に、小柄なカラスという魔女がツッコむと、中背のトードという魔女が朗らかに笑う。
「それにしても、『異世界転移時に衣装が変わるので、動きやすい服装をイメージしてください』とは言われたけど、見事に全員『子どものお下がりの学校ジャージ』着てるね」
「しょうがないじゃない。『動きやすい服装』って聞いたら大抵ジャージをイメージするでしょ。
それに、子どもの進学の度に制服や名前の刺繍入りジャージに幾ら取られてきたと思ってるの。こういう時に着倒して少しでも元を取らなくちゃ」
「そもそも私らがいわゆる『魔法少女コスチューム』で現れたら勇者パーティーに死傷者が出るわwww」
呆気にとられる勇者パーティーを余所にのびのびとオバチャントークを展開する三人の後ろでは、神獣が気配を消している。
「あ、みんな、色々想定外で戸惑ってると思うけど、とりあえず宜しくね。こっちの世界のことは軽く説明受けてるけど、道々みんなのことやこの世界の詳しいことを教えてちょうだい。じゃ、行きますか」
『……なんかスンマセン……能力的には本当にものすごい方たちのはずなので、くれぐれも宜しくお願いしまっす……』
勇者たちが、スタスタ歩き出す三人組に困惑して神獣セキリアンの方を見れば、何やら薄くなった頭を下げ、こちらに手を合わせる伝説の神獣の姿があった。
かくして図らずも神獣に合掌されるかたちになった勇者パーティーとオバチャン三人組は、ありとあらゆる種類のギャップにギクシャクしながらも古代の神殿を後にしたのだった。
ちなみにオバチャンたちが自己紹介で披露した「最近ショックだったこと」は、全部作者の実話です
・゜・(ノД`)・゜・。




