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配信者のすゝめ~ 推しが引退したので、僕が配信界の王子になります!~  作者: 無月公主


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25.新たなステージの始まり④

早朝、公園のベンチに座っていると、冷たい空気が肌を引き締めるように感じた。ランニングを終えたばかりの僕とSOARAさんは、少し息を整えながら朝の静けさに包まれていた。隣に座る彼女は、ランニングキャップで髪を隠し、目元だけが見える顔をわずかに上げて朝日を眺めている。


「ところで、あおい君。配信で誕生日を設定しているかい?」


不意に投げかけられたその質問に、僕は一瞬戸惑った。


「あ…いえ、まだです。」


「それなら、誕生日を君が生まれ変わって配信を始めた日にしないかい?」


「え?どうしてですか?」


彼女は軽く肩をすくめる仕草を見せてから、少し冗談っぽく笑った。


「なんとなくだよ。でもね、誕生日って特別なものだから、いつかその設定が役に立つ時がくるかもしれないよ。ほら、自分の誕生日が来たらリスナーのみんなが祝ってくれるだろ?それって配信者にとってすごく嬉しいことだ。でも、実際には誕生日なのに24時間配信したりしなきゃいけなくなる。」


「24時間…配信ですか?」


驚いて声を漏らす僕を見て、SOARAさんは少しノスタルジックな笑みを浮かべた。


「私はそれが辛かった。でもね、私には可愛いファンたちしかいなかったから、辛くても頑張ろうって思えたんだ。」


その言葉を聞いて、僕は彼女の配信を追いかけていた頃のことを思い出した。24時間耐久配信で、最後まで笑顔を絶やさなかったSO∀RAの姿。その裏に、彼女がどれだけの努力と気力を注いでいたのか、今になってようやく理解できる気がする。


「僕…覚えてます。あの24時間配信…。すごく感動しました。」


「君も来年やるんだよ。」


「あ…はい。」


彼女の目が優しく僕を見つめる。これまで以上に大きな責任を感じながらも、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、SOARAさんに近づける気がして嬉しかった。


しばらくの沈黙が続いたあと、SOARAさんが口を開いた。


「そうだ…それと月初めに、やっておくべきことがある。」


「月初め…リスナー講座ですか?」


その言葉を聞いた瞬間、SOARAさんは驚いたように目を大きく見開いた。


「よく、覚えていてくれたね。そうだ、リスナー講座は大切だ。」


彼女の声に熱が込められているのを感じた。まるで、それがどれほど重要なものかを僕に伝えようとしているかのようだった。


「君の声には魅力がある。これからもっとたくさんの人が君を知って、配信に来てくれるだろう。だけど、その分だけいろんな人が集まる。いい人ばかりじゃないし、荒れることだってあるかもしれない。」


彼女の言葉が重く響く。コメント欄を見て笑顔を作る一方で、厳しい言葉や荒らしに心を乱される配信者の姿が思い浮かぶ。


「だからこそ、月初めにリスナー講座をやるんだ。リスナーたちに配信のルールやマナーを自然に伝えていくことで、リスナーの民度を高める。それが結果的に君自身を守ることにもなる。」


「…なるほど。リスナー講座、やります!」


僕の答えに、SOARAさんは満足そうに頷いた。


「そうして少しずつ、君の配信コミュニティを築き上げていくんだ。民度が高いリスナーたちは君を守り、支えてくれる存在になる。だから大切にするんだよ。」


その言葉に、僕は深く頷いた。配信はただ楽しいだけではない。リスナーとともに成長し、より良い空間を作り上げるための努力が必要なのだ。


―――――――

―――――


翌月から、僕は「リスナー講座配信」を始めた。月初めの特別配信として設定したこの企画は、SOARAさんのアドバイスがきっかけだった。「リスナーと配信者の関係を良好に保つためには、リスナーのマナーを整えることが重要」と教えられ、その意義を深く理解した僕は、この講座を大切にしようと決めた。


画面越しに、リスナーたちに語りかける。


次に取り上げたのは「自語り」についてだ。僕の配信で一番多く見られるのがこの行為だった。


「次は、自語りについて話します。僕の配信でも多いんですが、全く配信内容に関係のない話を突然コメントする行為ですね。」


コメント欄には「それ、よく見る!」や「やっちゃってたかも…」といった反応が流れる。


「例えば、僕がゲームの山場を迎えている時に、『今日、学校でこんなことがあって…』とか、『私の推しが今こんな活動してて…』みたいなコメントをされると、正直、対応が難しいんです。」


一呼吸置いて、画面を見つめる。


「もちろん、僕たち配信者はリスナーの皆さんを大切に思っています。でも、こういった自語りは、他のリスナーさんの興味をそらしてしまうこともあります。僕の配信では、みんなが配信内容に集中できるようにしたいんです。」


「ごめん、やっちゃってた」「気をつける」といったコメントが増え、少しずつ理解が広がっていくのを感じる。


さらに話題は誹謗中傷へと移った。


「最後に、誹謗中傷についてです。これはもう言うまでもなく、絶対にしてはいけません。どんな理由があっても、誰かを傷つける言葉を使うのはやめましょう。」


コメント欄が一瞬静かになったように感じた。僕は慎重に言葉を選びながら続ける。


「配信者は、皆さんが思っている以上にコメントを気にしています。だからこそ、どんな小さな言葉でも、その配信者の心に影響を与えることがあります。これは僕だけじゃなく、他の配信者さんに対しても同じです。」


画面の向こうで真剣に聞いてくれている雰囲気が伝わってきた。


「みんなで楽しい配信の場を作るために、言葉には気をつけてほしいんです。僕はリスナーのみんなを信じています。これからも一緒に、素敵な配信を作り上げていきましょう!」



「こんばんは、SOR∀です。今日は月初めの特別配信、『リスナー講座』をやっていきますね!」


コメント欄には「待ってました!」「どんな話が聞けるんだろう?」と期待の言葉が流れる。僕も初めての試みに少し緊張していたが、SOARAさんに教わった通り、SOR∀になりきって進めていく。


「まず最初に、今日は『鳩行為』について話します。皆さん、鳩行為ってご存知ですか?」


質問を投げかけると、「知ってる!」「わからない」という様々なコメントが寄せられる。僕は一つ一つの反応を拾いながら、丁寧に説明を始めた。


「鳩行為というのは、例えば、他の配信者さんのところで『今、SOR∀がこんな配信をしてるよ!』ってコメントしたり、僕の配信で『あの配信者が今こんなことをしてる!』って告げ口する行為を指します。」


コメント欄に「そういうの見たことある」という反応が増える。


「これはですね、配信者同士の関係を壊したり、リスナー同士のトラブルを生む原因になるんです。他の配信でも僕の配信でも、鳩行為はやめてくださいね。これはマナー違反ですから。」


視聴者たちがコメントで「わかった」「気をつける」と答えるのを見て、少し安心する。


講座が終わる頃、コメント欄には「すごく勉強になった」「マナーを守ってもっと楽しむ!」といったポジティブな反応が溢れていた。この配信を通じて、リスナーたちとの絆が少し深まった気がした。


配信を切ると、背筋を伸ばして大きく息をついた。初めての試みだったけれど、リスナーたちが真剣に受け止めてくれたことが嬉しかった。


「リスナー講座…これからも続けていこう。」


SOARAさんの言葉の意味が、今日の配信で少しわかった気がした。リスナーと共に成長する配信。それは、僕が目指しているSOR∀の姿に繋がっていると信じていた。

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