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配信者のすゝめ~ 推しが引退したので、僕が配信界の王子になります!~  作者: 無月公主


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13/29

13.21時の約束④

毎晩21時の定期配信を続けてから、あおいは少しずつリスナーとのつながりを感じ始めていた。始めたばかりの頃は視聴者が数人だけで、コメントもほとんどなかったのが、今や同時接続の視聴者数が30人を超えるようになっていた。リスナーも「いつも見に来てるよ!」とコメントをくれたり、あおいのことを応援してくれたりする人が増え、少しずつ自分が配信者として成長している手応えを感じていた。


そして今日、配信中に視聴者数がふいに「40」を超えたことに気づいた瞬間、あおいの胸に喜びがこみ上げた。40人。これまでの努力がようやく形になり始めた気がして、画面の向こうで自分を見てくれているリスナーたちへの感謝の気持ちが一層強くなった。


配信が終わると、あおいはすぐにボイスチャットを立ち上げ、SOARAに報告を入れた。SOARAはいつも通りの落ち着いた声で応えてくれるが、今日はあおいも特別な気持ちでいっぱいだ。


「今日、とうとう40人をキープしました!」と、興奮気味に伝えると、SOARAは少し笑いながら返してくれた。


「そうだね、あおい君はよく頑張っている。この調子で続けていけば、きっともっと増えていくよ。しかも、SNSのフォロワーも100人を超えたね。良い調子だよ」


あおいは「ありがとうございます!」と返しながら、これまでの努力が報われつつあることに心が温かくなった。


「さて、あおい君。今日から少し、別の練習を始めてみようか」


「別の練習?」と、あおいは少し驚いて聞き返した。SOARAはその声のトーンを保ちながらも、これから話す内容が重要だということを示すかのように少し間を取った。


「そうだね。ゲームを実況するとき、わざとオーバーにリアクションをとる練習だ」


「え!?わざとですか!?」あおいは思わず驚きの声をあげた。配信ではできるだけ自然体でいることを心がけていたので、「わざと」という言葉が引っかかったのだ。


「うん。実はね、人には、自然にオーバーリアクションができるタイプと、そうでないタイプがいるんだよ。テレビを見てごらん。芸人たちがわざとオーバーに驚いたり、笑ったりしているのを見たことがあるだろう?」


「あ…確かに、言われてみれば…」


あおいは、その瞬間にSOARAの言っていることの意味が少しずつ分かってきた。確かに、テレビで見ている芸人たちは、少し大げさなくらいの表情や声で視聴者を楽しませている。彼らの反応が大きいからこそ、見る側も一緒に楽しめる。自分の配信も、同じようにリスナーにとって楽しいものにするには、自然なリアクションだけでなく、少し「盛る」ことも必要なのかもしれない。


「我々、凡人はね、ただゲームをそのままプレイするんじゃなくて、演出を加えることも大事なんだ。一度プレイしてみて、どこで驚くべきか、どこで盛り上がるべきかを考えるんだよ。そして、オーバーリアクションを作り上げるための台本を書くこともしてみよう」


「台本ですか…」あおいはそのアイデアに少し戸惑いながらも、確かに自分の配信に足りないのは「盛り上がり」かもしれないと思えてきた。


「そうだよ。たとえば、ホラーゲームをプレイするとき、最初に一度試してみて、どこが怖いポイントなのかをチェックしておく。そして、その場面ではオーバーに驚いたり、叫んでみたりすると、視聴者も『怖い!』って共感してくれるかもしれないだろ?」


「そうですね…確かにそれなら、リスナーも楽しんでくれそうです」


SOARAの言葉に納得しながら、あおいは少しずつ頭の中で配信のイメージを描き始めた。視聴者を楽しませるために、ただ自然体でいるだけではなく、演技やリアクションも「見せるための工夫」が必要なのだと気づかされた。自分の感情をあえて増幅させることで、リスナーもより配信の世界に入り込んで楽しんでくれるかもしれない。


「それから、驚くところだけじゃなくて、面白い場面とか、上手くいった場面も、少し自分で盛ってリアクションをしてみるんだ。『うわぁ!今の僕、すごくない!?』とか、『これ難しいって!』ってね。リアクションは、リスナーが共感しやすくなるように心がけるんだ」


「なるほど…リスナーも一緒にその場面を楽しんでくれるってことですね」


あおいは新しい視点にワクワクし始めた。自分が少し大げさに驚いたり、褒めたりすることで、リスナーがより配信に入り込み、感情を共有しやすくなる。それを意識することで、今までとは違う配信ができる気がしてきた。


「わかりました!やってみます!」


毎日の配信が終わると、あおいはすぐに机に向かい、ノートを開いて次の配信に向けた台本作りに取り掛かるのが習慣になっていた。SOARAから教わった「オーバーリアクション」や「台本を使った演出」の練習を始めてから、リスナーがどんどん増えていくのが実感できていた。視聴者が増える喜びは何にも代えがたいものだったが、同時に台本作りや準備に追われる日々が続き、あおいは少しずつ時間に追われる生活になっていた。


「次はこのゲームのここで大きくリアクションを取る場面を作ろう。あとは、驚きの声とか、ちょっとおどけた言い回しを…」


ノートにペンを走らせながら、あおいはどの場面でどのリアクションをするか、何度もイメージしては書き直していく。細かな台本を作るのは、思っていた以上に骨の折れる作業だ。SOARAから教わった通り、リアクションや演出を考えることで、リスナーがより楽しんでくれる配信ができるようになった。それを実感するたび、あおいは「もっと良いものを見せたい」と自然と意気込むようになっていた。


だけど、配信の準備や台本作りに時間がかかり、睡眠時間はどんどん削られていく。夜更けまでかかって準備を終え、ベッドに倒れ込むと、時計はいつも夜中の2時を回っていた。寝不足で目覚ましが鳴るたびに、重いまぶたを押し上げるのは大変だったが、起きた瞬間には「ああ、今日も配信が待ってるんだ」と、自分を奮い立たせてベッドから起き上がっていた。


「SO∀RAのような配信者になりたい」という夢があおいを動かしていた。どんなに疲れていても、目標がある限り、彼はくじけなかった。画面越しにたくさんの人とつながり、誰かにとって大切な存在になる──その気持ちが心の中で強くなっていた。


数日後、あおいは朝から気分が良かった。最近の配信はうまくいき、SOARAからも声を褒められたことで、自分の努力が少しずつ報われている気がしていた。職場に着くと、いつもよりも自然と軽い足取りになり、気分よく仕事を始めた。



しかし、そんな浮かれた気分が災いしたのか、彼はいつも気をつけているはずの細かい作業で大きなミスをしてしまった。上司から呼び出され、手元の書類を指差されながら「これ、違ってるだろ?」と言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。


「すみません…確認不足でした」


小さな声で謝るも、上司の厳しい目が突き刺さる。あおいが関わっていた作業のミスは後工程にも影響を及ぼしており、他の同僚にも迷惑がかかる形になっていた。次々と出てくる上司の指摘に、あおいの気持ちは次第に萎んでいく。



昼休み、あおいは静かな会議室にこっそり入り、誰もいない場所でため息をついた。浮かれていた自分を恥じるように、あおいは顔を両手で覆い、深くうなだれた。



―…僕、何やってるんだろう…―




自分に自信が持てるようになっていた矢先に、こんな大きなミスをしてしまうなんて。配信では少しずつ成長を感じていたのに、職場でこんな初歩的なミスをするなんて情けない──そんな思いが次々に湧き上がり、あおいはひどく落ち込んでしまった。

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