12.21時の約束③
配信が終わると、あおいは手早くボイスチャットを立ち上げ、SOARAに連絡を入れた。これまでの配信後もSOARAと話をすることはあったが、今夜は特別だ。今日の配信がこれまでとどこか違った手応えがあり、感想を伝えたいという気持ちで胸がいっぱいだった。画面が繋がると同時に、胸の鼓動が少し早くなるのを感じた。
「あの、どうでしたか!?」と、勢いよく問いかけると、すぐにSOARAの落ち着いた声が返ってきた。
「良いんじゃないかな。視聴者も増えてたみたいだね。いつもの3人から、今日は7人だったよ」
「すごい…!!4人も増えてる!!」 これまでどれだけ配信を重ねても、視聴者数はずっと「3人」から動かなかった。それが、今日は倍以上の「7人」だ。その数字は小さな一歩かもしれないが、あおいにとっては、今までの努力が初めて報われた瞬間に感じられた。自分の話に耳を傾けてくれる人が増えたということ、それだけで胸がいっぱいになり、言葉を失った。
「あおい君、ちゃんと努力の結果が出てきてるよ。視聴者数が増えたことだけじゃなく、コメントもずいぶん増えたんじゃない?」SOARAの声には、少しばかりの温かさが込められていた。
あおいは頷きながら、さっきの配信を思い出した。確かに、いつもよりもコメント欄が賑やかだった。視聴者からの反応がすぐに返ってきて、自然と会話も盛り上がり、配信が生き生きとしたものになっていく感覚を味わったばかりだった。
「はい、みんながたくさんコメントしてくれて…。ほんとに楽しかったです」
あおいの声に喜びがにじむのを感じ取ったのか、SOARAも軽く笑いながら言葉を続けた。
「今はこの調子で、毎日続けていこう。配信は積み重ねが大事だからね。今日の7人が、明日もその次も来てくれるように、君の言葉と行動で信頼を築いていくんだよ」
SOARAの声は穏やかで、あおいに安心感を与えてくれる。まるで自分の不安や期待をすべて見透かしているような口調に、あおいも自然と頷き、心が少しずつ落ち着いていくのを感じた。毎日の配信が積み重なっていけば、視聴者が少しずつ増えていくかもしれない。SOARAの言葉を聞いていると、未来に向けて一歩ずつ進むことの大切さがはっきりと見えてくるようだった。
「それとね、あおい君。配信だけじゃなく、SNSにも力を入れるといいと思うよ。専用のアカウントを作って、定期配信の時間や内容を更新していくと、リスナーも予定を把握しやすくなるんだ。ヘッダーに配信のスケジュールをきっちり書いておけば、君の存在を覚えてもらいやすくなるからね」
「なるほど…」とあおいは納得の表情で、真剣に聞き入った。これまで、配信をやるだけで精一杯だった自分にとって、SNSを使って視聴者とのつながりを保つという発想はなかった。今の自分にはハードルが高いようにも思えたが、SOARAの言葉に従ってやってみようと、自然にそう思えた。
「SNSって、ただ配信の宣伝をするだけじゃなくて、リスナーともっと近い距離で交流できるツールなんだよ。そこでリスナーの質問や感想に答えたり、ちょっとした日常の出来事を共有したりすることで、君への親近感が生まれていくんだ。毎日配信しているだけでなく、SNSにも姿を見せることで、君を応援したい気持ちが強まるんだよ」
「確かに…今までは配信だけで頑張ってたんですけど、SNSでならもっと近くでリスナーさんとつながれるんですね」
あおいの声には、新しい可能性への期待が滲んでいた。SOARAのアドバイスは、ただ単に「やり方」を教えてくれるだけではなく、リスナーとの関係をどう築いていけばいいのか、その根本的な意味を教えてくれているように感じた。今までは見えていなかった景色が、少しずつはっきりしていく感覚がして、自分が成長していく過程をはっきりと実感できた。
「それに、SNSって、配信を見逃してしまった人にも君の活動を知らせることができるんだ。たとえば、今日はどんなことを配信したのか、どんな話題で盛り上がったのかを、簡単に投稿してみるといい。『次は見てみたいな』って気持ちになってもらえるかもしれないし、また次の配信に来てくれる人が増えるかもしれないよ」
SOARAの言葉を聞いて、あおいは自分がまだやれることがたくさんあることに気づいた。配信者としてやるべきことは、画面越しにリスナーと話すだけでなく、配信時間外にもリスナーとつながり続け、信頼を築いていくこと。そのためには、ただ待つのではなく、自分から行動を起こしていくことが大切だと、あおいははっきりと理解した。
「わかりました、SOARAさん。SNSアカウントも作って、ちゃんと配信情報を発信してみます!」
あおいの声には、これまでの配信だけでは感じられなかった新しい意欲が宿っていた。
SOARAとの通話を終えたあと、あおいはすぐに自分のPCに向かい、SNS専用のアカウントを作る準備を始めた。新しい配信スタイルを始めたばかりでSNSも充実させるとなると少し緊張するが、「これも自分を成長させるため」と自分に言い聞かせて、深呼吸をひとつ。気持ちを落ち着けて、まずはヘッダー画像の作成に取りかかることにした。
慣れないお絵かきツールを開き、画面に向かって真剣な表情でマウスを握る。最初に、背景色を落ち着いた色に設定し、「毎日定期配信21時から!」とテキストボックスを使って文字を入れる。このフレーズは、今や自分の覚悟を象徴する言葉になっている。大きなフォントで中央に配置して、見やすいように少し加工を加える。配信者らしい雰囲気を出したいと思い、フォントの色を目立たせつつも、どこか親しみやすさも感じさせるようにした。
一度離れて画面全体を見直すと、少し物足りない気がしたため、枠や小さなアイコンも配置して、どこかポップで明るい雰囲気に仕上げた。シンプルながらも、自分らしさが出るデザインに仕上がった気がして、小さくガッツポーズ。次は、アイコンの作成に取り掛かる。
「やっぱりアイコンは、リスナーが覚えやすいように自分の顔が一番かも…」と、あおいは少し恥ずかしく感じつつも、スマホのカメラを立ち上げた。普段の配信では顔出しをしていないため、「自撮り」となると妙に意識してしまう。部屋の明かりを調整してから、マスクをして顔の下半分を隠し、少しだけアングルを工夫して撮影ボタンを押す。
「これでいいかな…」
撮影した自撮りをPCに転送し、写真加工ツールで少しだけ加工を加えた。色味をほんのり明るくして、輪郭を少しだけぼかし、シャープでクールな印象になるように調整していく。マスクをしていることで匿名性を保ちつつ、どこか「SOR∀」らしい雰囲気も伝わるように意識した。
完成したアイコンを見ながら、あおいは満足げに頷いた。




