表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配信者のすゝめ~ 推しが引退したので、僕が配信界の王子になります!~  作者: 無月公主


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/29

10.21時の約束①

次の配信の準備をしながら、あおいは何度も画面を見つめ、深呼吸を繰り返していた。今日の画面には新しいテロップが映し出されている──「毎日定期配信21時から!」という文字。ほんの数文字だが、その言葉には自分にとってどれだけ大きな意味が込められているかを、あおいは改めて実感していた。胸の奥で静かに高鳴る鼓動を感じながら、心の中で少しずつ覚悟を決めていく。


以前のテロップには「初見さん大歓迎」といった親しみやすい文言を掲げていた。それに対し「毎日定期配信21時から!」は、視聴者にはわかりやすい反面、あおいにはどこか覚悟が必要な重みを感じさせるものだった。変更を提案してくれたのはSOARAだ。彼女はあおいの戸惑いに気づき、提案の意図を穏やかに話してくれた。


「あおい君、毎日決まった時間に配信することのメリット、なんだと思う?」SOARAの声はいつも通り落ち着いていて、問いかけるようにゆっくりと語りかけてくる。あおいはしばらく考え込んだ。これまで、「配信する」ことに集中するあまり、配信時間を固定する意味を深く考えたことはなかったからだ。


「あんまり意識したことなかったけど、もしかして…視聴者にとって見やすいってことですか?」


あおいの答えに、SOARAはくすりと笑った。その笑い声にはあおいの不安をほぐすような温かみがあった。


「そう。毎日21時に配信をするって決めれば、君の配信を楽しみにしている人が、その時間に合わせてスケジュールを組むことができるんだよ。気まぐれに配信するよりも、『この人の配信はこの時間』と決まっているほうが、習慣として見に来てもらいやすいの」


その言葉はあおいの胸に深く染み込んでいく。確かに自分がファンの立場だったら、決まった時間に始まる配信があれば嬉しいと思うだろう。視聴者の気持ちを考えると、定時配信がどれほどありがたいか、少しずつ理解できてきた。


けれど、あおいの心にはわずかな不安が残っていた。視聴者が少ない今の自分にとって、「毎日決まった時間にやる」というのはまだ重いプレッシャーだ。小さくため息をつき、正直にその気持ちを伝えてみた。


「でも…僕の視聴者はまだ少なくて、初見さんが入りやすい雰囲気にしたほうが良いんじゃないかって思ってたんです」


あおいの率直な言葉に、SOARAは少しの間静かに耳を傾けた後、再び優しい声で話し始めた。


「あおい君、初見さんを大事にする気持ちは素晴らしいよ。でも、配信に一貫性があることも、実は視聴者にとってすごく大事なんだ」


その言葉に、あおいは自然と姿勢を正した。「一貫性」という言葉には重みがあり、今まで自分が考えたことのない視点を示してくれていた。


「視聴者が君の配信に通い続けるためには、君がその時間に必ずいる、という安心感が必要なんだよ。『この時間にこの人がいる』ってわかるだけで、少しずつ信頼が生まれていく。それが君の配信を支える力になるんだ」


SOARAの言葉に、あおいは深くうなずいた。憧れてきたSO∀RAも、ファンに対する信頼感とプロ意識を持っていた。毎日決まった時間に必ずファンの前に姿を現し、観客に絶対的な安心感を与えていた。あおいも何度もその配信を楽しみにし、SO∀RAが画面に登場する瞬間を心待ちにしていた日々を思い出した。


「でも、毎日同じ時間に配信するって、僕にはプレッシャーかもしれません。決まった時間を守ることに、自信が持てなくて…」と不安を漏らすと、SOARAは静かに励ますように言った。


「それでいいんだよ、あおい君。最初から完璧である必要はない。むしろ、毎日その時間にやろうと決めて、少しずつできるようになればいい。大事なのは、君がその意思を持つこと。自分のために毎日配信すると決めることで、君自身にも覚悟が生まれてくる」


「覚悟…ですか」


「ああ、覚悟だよ。君が毎日その時間にいると決めて、視聴者に誠実に接することで、君の存在感が少しずつ増していく。誠実に続けていくことで、応援したいと思ってもらえるんだ」


あおいは心がふわっと軽くなるのを感じた。配信は「来てくれる人を楽しませる」だけではなく、毎日続けること自体が意味を持つのだ。SOARAの言葉に、心の中の不安がひとつずつ解消されていく気がした。


「それに、あおい君が目指しているのは、ただの『初見さんを歓迎する配信』じゃないよね?」とSOARAが続けた。「君が憧れているのは、あのSO∀RAのように誰かにとって大事な存在になることだろう?」


その言葉に、あおいはハッとした。憧れていたSO∀RAも、ファンを大切にするだけでなく、ファンが自分を信じてくれるようにプロ意識を持ち、日々の習慣を守り続けていた。自分も、彼の配信を心待ちにしながら過ごした日々を思い出す。定期配信のリズムを作ることで、リスナーとの信頼関係が少しずつ築かれるのだと気づいた。


「あおい君が毎日21時に配信することで、視聴者は君を信頼し、生活に君の存在を感じられるようになる。『この時間にこの人がいる』っていう安心感、それが君の配信を少しずつ支えてくれるんだよ」


あおいは小さく息をのみ、SOARAの言葉を心に刻んだ。「誰かの日常の一部になる」ということが、どれほど素晴らしいことか、今までとは違う形で理解できた。毎日決まった時間に配信を続けることが、ただの習慣ではなく、リスナーとの新しいつながりを作ることになるのだ。


かつてのあおいも、長い一日を終えて、画面に映るSO∀RAの姿に癒されていた夜が何度もあった。その存在が自分の支えになっていたことを思うと、今度は自分が誰かの一日に小さな安らぎを与えることができるかもしれないと感じ、胸が高鳴った。


「自分が誰かの楽しみの一部になれるなら、それってすごく素敵なことですね」と、あおいは心からそう思った。


SOARAの声が柔らかく響く。「今日からそのテロップを掲げてごらん。まずはリスナーとの信頼を築く基礎だと思って続けることが大切。少しずつ変わってくるはずだから」


あおいは、「毎日定期配信21時から!」というテロップを画面にセットしながら、小さな決意を固めた。毎日同じ時間に配信をすることで、少しずつリスナーとのつながりを築いていく。きっと、それがあおいが成長するために欠かせない第一歩なのだ。


配信の準備をしながら、あおいはふと自分の配信環境を見渡した。ここまで機材を揃え、準備にかけてきた時間を思い返し、それがただの自己満足や一時的な憧れではなく、本物の夢であることを改めて感じた。画面に映し出されるテロップの文字が、少し重くもどこか力強く感じられた。それは単なる文字ではなく、「ここにいるよ」「待っているよ」というメッセージを届けるための象徴のように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ