「年収の壁引き上げ」について「報道の仕方」が姑息であることについて
◇複数の「壁」が“働き損“を感じさせている
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は国民民主党が政策として掲げている「年収の壁を178万円に引き上げ」について考えていこうと思います。
質問者:
まずは、「年収の壁」について解説をお願いします。
筆者:
年収の壁には複数あります。分かりやすい23年3月16日の静岡新聞の記事にあった以下の画像をご覧いただきたいのですが、
この図のように主に主婦の方が家計を支えるための担い手として働く際に、
103万、106万、130万、150万でそれぞれ「損してしまう領域」があるわけです。
「103万の壁」は大したことないですが、
保険料10%が発生する「106万円の壁」方が大きすぎるんですね。
「106万の壁」を超えるためには大体125万円働かないといけないんです。
時給が変わらない前提ならひと月分以上余分に働かなくてはいけないのは主婦の方にとって絶大な負担になります。
次の130万の壁を超えるためには153万円働かなくてはいけないんです。
そして150万円を超えれば配偶者控除や大企業の手当てなどが縮小されるので、
こうなると働く側とするなら「103万円止め」若しくは「106万円止め」がベストな選択肢となるのは当然と言えます。
質問者:
国民民主党はこの壁を全体的に底上げし、178万円を最低値にするという事のようですね。
103万円から1.7倍近くになれば大分変わりますね……。
労働力不足についても今、深刻な問題になっていますからこれは結構重要な議論として上がっていても不思議では無いですね。
◇これについての偏向報道
筆者:
僕はこの案についての報道の仕方に大いに問題があると思っています。
『国民案なら減税7.6兆円 「年収の壁」で政府試算』
という共同通信10月30日の記事では、
『国民民主党が主張する「年収の壁」の103万円から178万円への引き上げのため、仮に所得税と住民税の基礎控除を現行より75万円引き上げた場合、国と地方の合計で年約7兆6千億円の税収減になる見通しであることが30日、政府の試算で分かった。
納税者にとっては減税となり、税金が高い高所得者ほど効果が大きいとの試算も判明。
納税者の手取りが増える恩恵の一方、公平感や税収減を補う財源などを巡り議論を呼びそうだ。
現行制度では、年収が基礎控除(48万円)と給与所得控除(55万円)の合計である103万円を超えると所得税が発生する。この金額は「年収の壁」と呼ばれ、パート従業員などが手取りの減少を意識して働く時間を抑え、人手不足の一因になっているとも指摘される。国民民主は納税者の手取りを増やすため衆院選の公約で178万円への引き上げを掲げていた。
実現すれば、パート従業員などが従来の「年収の壁」を越えて働きやすくなるだけでなく、サラリーマンや自営業者などにも広く減税の恩恵が及ぶことになる。』
この記事では、同時に
年収2300万 38万円減税
年収 500万 13万円減税
年収 210万 9万円減税
と言う数字も同時に載せています。
これは本来課税される分のうち累進所得税となっている部分が無くなるので有利になるためです。
質問者:
なるほど、高額所得者ほど減税金額の恩恵が大きいという事ですか……。
筆者:
ただ年収2300万円世帯では年収から1.7%分減税、
年収500万円世帯では年収2.6%分減税、
年収210蔓延世帯では年収では年収4.3%分減税と、
所得が低い世帯ほど割合的には恩恵が大きい制度になります。
しかし、そのことについては記事では触れてありません。
「嘘を吐いている」と言うほどでは無いのですが、「割合」という重要な視点が欠けています。
「高所得者ほど優遇される制度だ!」と国民側を誤解させて反発を招くことで潰させようという、財務省や政府御用達の「提灯記事」と言えると思います。
※これは消費税の減税の議論でも同じような提灯記事があります。
質問者:
確かに比率で見たら低所得者ほど大きい減税になりますね……。
しかも前半の「7兆6千億円減収」と言う表現は「財源が無い!」と言う話にりそうですよね……。
筆者:
国民民主党はこれに対抗するためには、「国債発行余力がある」「財務省・財政法4条に問題がある」ということについて同時に触れなければならないと思います。
国民民主党の榛葉幹事長は11月1日の自公との幹事長会談では、
年収の壁見直しに向けた検討チームの設置を提案し、
「手取り増への理解をもらった」と好感触を得た発言をしています。
しかし、「財源論」になってしまえば「どこかを削る」か「どこかを増税する」と言う話になります。
こうした、国内でのパイの奪い合いの結果、国全体の底上げにはならず、効果が薄くなってしまいます。
質問者:
削られるか、増税をされた側としては不満しか出ませんものね……。
筆者:
この制度はどちらかと言うと結婚をされた方に対する補助に等しいものであり、
肝心の「結婚が出来ない若者」に対しては一人暮らしであることから、控除額の恩恵が「自分一人分」のみになります。世帯全体的に見れば不利になるわけです。
(男性で200万円以下の収入の方は女性から見たら眼中に無いでしょう)
「代わりの財源」が「広く負担を募る」制度であるならば、「結婚できない若者」に対して負担が大きくなり、さらなる少子化が進行することは間違いないです。
質問者:
この「壁引き上げ」も「子育て支援金」と同じようになってはいけないという事なんですね……。
筆者:
国民民主党は「安楽死」を口を滑らせかけたりもしたので、
どちらかというと「高齢者に負担を!」と主張している節があります。
そのために「高齢者増税」と言う可能性もあります。
しかし、これも将来誰しもが高齢者になることを考えると「将来不安」と言う側面では良いとは僕は思えません。
そして多く納税してくれそうな方は海外に脱出することでしょう。
質問者:
だから、国債で補えと言ういつもの筆者さんのお話になるわけですね……。
筆者:
そういうことです。財政健全度はGDP比では最下位ですが他の3指標を加えればむしろ良い方ですからね。
国民民主党もこの政策を訴えたからには「財源は真水国債で対応」と強く主張し、
自民党や財務省、マスコミからバッシングをされても折れないで推し進めて欲しいように思います。
◇もっと効果的な制度にするには?
質問者:
予てから筆者さんは社会保険料の問題について主張されてきましたが、
そちらと比べてどちらが効果があるのでしょうか?
筆者:
僕が予てから述べていることについては「社会保険料を累進性」にすることです。
同じだけお金をかけるならばこちらの方が効果があると思います。
何せ高額所得者ほど「ほぼ据え置き」にとどまりますからね。
お偉い新聞さんが主張される「高額所得者ほど減税される不公平感」と言うのも無くなるでしょう。
106万円以降の壁の最大の問題点は「保険料負担が低所得者に重すぎる」ことです。
各階級ごとに少しだけ幅があるものの、ほとんど一律10%ほどになっているからです。
本来、税金(社会保険料も広義には含まれる)は所得の再分配と言う制度趣旨があります。
しかしそれを自ら弱者も同じように取るという事から趣旨に反しているのです。
例えば小刻みに0.25%刻みにするなどして最大保険料10%にすればこの「壁」という事もあまり考えずに働けるようになります。
質問者:
確かにどうしてそんなに急に106万円から負担が増えるのかと言えば保険料のせいですからね……。
筆者:
現在においては「178万円の壁に引き上げ案」はそこそこ効果があると思います。
しかし、今後物価が上がることや時給が上がることが予想されていることから、
このような「壁を引き上げることのみ」での対応は結局のところ「問題の先送り」でしかありません。
「保険料最初の壁」があまりにも高すぎると言う事は何も変わっていないわけですからね。仮に壁を引き上げても「178万円での新しい働き止め」が起きることは間違いなしです。
今度は年収200万円ぐらいの人が損しないようにするために年収178万円で止めるかも分かりません。
労働力不足問題が必ずしも「壁」を引き上げるのみでは解決しないのです。
勿論「年収の壁」を引き上げていくことを検討・議論することには賛成ですが、
社会保険料全体の制度の根本の見直しを同時に行っていかなければ問題の根本治癒にはつながらないと僕は考えます。
質問者:
なんだかこういった議論が乏しいですよね……。
筆者:
この様に国民民主党の「壁の178万円への引き上げ」という「中途半端な案」だとは思いますが、それすらもメディアによって押し潰されようとしているというのが現状だと思います。
これが本当に日本の恐ろしい現状であり、発展性の無い低レベルな議論に終始していると言えると思います。
質問者:
何か急場をしのげればいいと思っているんでしょうね……。
筆者:
根本治癒と言うより票田にお金をバラまいて選挙に行ってもらえることを重視している印象を受けますね。
「社会保険料に逆進性がある」という事を指摘する専門家、新聞記事が本当に少ないのでこれからも僕はこの手の話題になった際には発信を続けていこうと思いますね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は現状の日本に存在する「年収の壁」と言う問題と、
その壁を引き上げるのみでは根本解決しないので社会保険料を10%を上限に累進制にするべきだという事を述べさせていただきました。
今後もこのような政治と経済、マスコミの報道姿勢の問題について個人的な意見を述べていきますのでどうぞご覧ください。