92話 立ち入り審査
"立ち入り審査"――――というジャペンに入る為の大きな不安要素を抱えたまま、俺達はジャペン近郊の港に到着した。
そしてジャペンの門、所謂入口に近付くと行商人や観光客らしき人達により、長蛇の列が出来ていた。
「すごい数の人だねー! これ、みんな立ち入り審査待ちなのか?」
「恐らくはそうじゃないかしら。でも、行列がスルスルと進んで行くところを見るに、意外と簡易的な審査なのかもしれないわね」
立ち入り審査という言葉を聞いて、俺は答案用紙に答えを書くといったテストの様な物を想像していた。
だが実際は、セリーヌの言う通り行列は割と早いペースで進んでおり、先頭を確認してみると口頭での質疑応答が行なわれているようだった。
今のところ脱落者がいないところを見るに、特に難しくはない、本当に一般常識レベルの問題を出されるのだろう。
「この様子なら、ユーリさんも問題無く審査を突破出来そうですね!」
「だね。これで審査落ちするなんて、余程常識が無い"お馬鹿さん"しかいないよ……」
――ボンズ、リリィ……。
そんな丁寧にフラグを立てなくてよろしい。
でもまぁ二人が言うように、行列の割に脱落者が一人も出ていない事からも、超絶簡単な審査なのは容易に想像が出来る。
そして俺達は行列の最後尾に、ユーリ、セリーヌ、ボンズ、リリィ、スカーレット、俺の順に並んだ。
暫くすると、ものの数分程度で先頭のユーリに順番が回ってきた。
緊張した面持ちで構えるユーリに対し、日本に似たジャペンというに相応しい和服に身を包んだ門番の男が、問題が書かれているであろう紙に目を通してから口を開いた。
「ではこれより、あなたに我が都ジャペンへ立ち入る資格があるかどうか確認する為、いくつか簡単な質問をさせてもらいます。あなたはそれに答えるだけで結構です。――――それでは参ります」
門番の男の話が終わり、いよいよ出題の時が迫ると、第一回答者であるユーリを皆が固唾を呑んで見守る。
「第一問。あなたはジャペンに来るのは初めてですか?」
「はい。初めてです」
――お? そんな事も問題になるのか?
ジャペンに来るのが初めてか、そうじゃないかで出題する問題を変えたりするのか。
いや、もしかすると一度ジャペンに来た事がある人はそれだけで立ち入り許可がおりる所謂顔パス制度があるのかもしれない。
「第二問。あなたの年齢、職業は?」
「一六歳、職業は勇者です……!」
「ゆ、勇者……!?」
ユーリの答えに戸惑いを見せる門番の男。
――まぁその反応になるのは無理もないよな。
だって、"あなたの職業は?" と聞いて勇者と返ってくるなんて予想出来ないだろうし、そんな答えを出せるのは、この世界においてユーリただ一人だからな。
「こ、コホン……。き、気を取り直して……第三問。これが最後の問題です。一般的な調理法として、挽肉と各種野菜を炒め、それらを焼いた玉子で包んだ料理はなんという?」
「オムレツ……!!」
――最終問題で一気に難易度が上がったな……。
でもこれくらいなら料理をしない俺でもわかったし、料理を得意とするユーリにとってはチャンス問題だったな。
どんな問題が出るか、こちらに予測出来ない以上、料理の問題がユーリに出たのはラッキーだったと言うしかない。
最終問題に威勢よく答えたユーリに、門番の男は黙って頷き口を開く。
「お疲れ様です。我々は、あなたがこの街へ立ち入る事を許可します。ようそこ、独立都市ジャペンへ」
「へへっ……! やったぁー!」
審査を無事突破したユーリは飛び跳ねて喜んだ後、俺達の方へ振り返り、ドヤ顔を見せ付けた。
「では、次の方……。あなたは先の方のお連れ様ですかな?」
「はい。そうですわ」
「では、いくつか質問を省き、最終問題だけを出題しますのでお答え下さい」
門番の男の言葉にセリーヌは黙って頷いた。
「ではあなたに質問です。あなたの目の前に、傷を負った人と、腹痛を訴える人が倒れています。あなたはどちらに声を掛けますか? また、声を掛ける際はどのような言葉を掛けますか?」
――こんな出題形式もあるのか……。
それにまずいぞ、この問題……。
ドSなセリーヌには少し不利な気がする……。
「簡単ですわ……! 私の答えはどちらにも声を掛けるですわ」
「ならば、その両方に何と声を掛けますか?」
「痛みはどのくらいか、回復を必要とするかを問いますわ」
「素晴らしい。良い答えです。よって我々はあなたの立ち入りを許可します」
「ふっ。当然ですわ」
門番の男はセリーヌの答えを賞賛し、門の方へと通す。彼女は余裕綽々の笑みを浮かべて門をくぐった。
――まさか、そんな事が……。
確かにセリーヌの言葉だけを聞けば、心配しているように聞こえる。
だが、実際は『痛い? 痛いの? 回復して欲しい?』と声を掛けるのだろう。
加えてそれに『はい』と答えると、『まだ駄目よ……! その痛みに耐えてこそ、強くなれるのよ! もっと傷を負いなさい!』とか言うんだぜ?
それのどこが常識人なんだ……。
その後、ユーリとセリーヌに続いて、ボンズとリリィも難なく立ち入り審査を突破し、門をくぐって行った。
そして俺の前に並んでいたスカーレットも審査を突破し、俺を心配そうな目で見つめながら門をくぐって行った。
――大丈夫だ、スカーレット。
みんなに出題された問題から察するに、一般常識さえ持っていれば余裕で通るはずだ。
何も心配することはない。
さて、さっさと審査を突破してみんなと合流するか。
「おや? 最後は子供か。だが我々は子供とて容赦はせんぞ〜?」
「大丈夫だ。さぁ早く問題を」
子供に対して見せる優しい口調で話す門番の男に対し、俺は余裕の笑みで問題を催促した。
「ほぉー、余裕だなぁ? じゃあ子供用の問題、その中で少し難しいヤツを出してやろう」
「ふんっ。どんなものでも構わんぞ」
――ふっ。いくら難しかろうと、たかが子供用の問題。
俺の中身は四〇のおっさんだぞ?
侮ってもらっては困る。
そんなものは余裕で答えられるに決まっている。
「じゃあ問題だ。リンガ、メロヌ、イチグ、ブドオ。これらの果物を小さい物から順に並べ替えれるかな?」
――うーん。聞いた事のない果物ばかりだけど、恐らくこれらは、りんご、メロン、いちご、ぶどうの事だろう。
ならば……。
「簡単だよ! 答えは、イチグ、リンガ、ブドオ、メロヌ!」
俺は自信満々に答えを言い放つ。しかし、門番の男の顔は途端に曇り始めた。
「う、うーん……。さすがにちょっと難し過ぎたかな……。じゃあ今回だけは特別に、もう一つ問題を出してやろう。今度は少し簡単な物にしようか」
――え、何……どういう事……?
今の答え、間違えてた……?
あ、え……もしかして、ぶどうは一房ではなく、一粒の大きさの事だった?
俺は動揺していた。まさか自分が、こんな低レベルな試験に躓いた事に。
「世界で一番高い山は!」
「――――エベレスト!」
「エ、エベ……。何だ?」
「飲酒をしていいのは何歳から?」
「――――二十歳!」
「…………一六歳だ」
一問目の不正解による動揺のせいもあってか、それからの問題にも俺は、次々と不正解を連発し、門番の男も俺も顔を引きつらせていた。
「うーん……。いくら子供といえど、流石にここまで常識に欠けている者を街に入れる事は出来んなぁ。魔族という可能性もあるし……」
「ぼ、僕は人間だよ……! だからお願い……!」
「決まりは決まりだからなぁ……。後ろもつかえているし、君ばかりにこれ以上時間を割くことも出来ない。申し訳ないが、街に入るのは諦めてくれ」
「そ、そんなぁ……」
俺は絶望した。そして呆然としながら列を抜け、トボトボと彷徨い歩き始めた。
――嘘だろ……? まさか俺が立ち入り審査を突破出来ないなんて、思いもしなかった……。
どうしようこれから……?
その後俺は虚ろな目をしたまま、宛もなくひたすらに歩き続けた。
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