91話 新たな問題
ユーリ達の船酔いも無事に回復し、俺達は平和な船の旅を満喫していた。
ユーリとボンズは日光浴、セリーヌとスカーレットはマッサージやエステ、そして俺はリリィと一緒に、船内にあるちょっとしたアクアリウムのような場所にいた。
「魚ちゃん、綺麗だね……?」
「そ、その"綺麗"というのは、どっちの事……?」
「ん……? 綺麗なのは……もぐもぐ……泳いでる魚に決まってるじゃん……もぐもぐ……」
傍から見れば、俺達は水族館デートを楽しむカップルのように見えるのだろうが、俺の内心はそんな穏やかなものではなかった。なぜならリリィが、泳ぐ魚を眺めながら魚の串焼きを食べていたからだ。
「ねぇ、リリィ? 泳ぐ魚を眺めながら、魚を食べるというのはどうかと思うよ……?」
――生きている魚を見ながら、魚を食って、しかもそれを綺麗と言えるとは……。
どんな神経してるんだこの子……。
「あのね、エル。リリィは魚が大好きなの。見るのも食べるのもどっちもね。それはリリィが海から遠い森で生まれ育ったからなんだよ……」
「うーん……。その気持ちはわからなくはないけど、その……今食べなくてもいいんじゃないかなーって……」
「いいの。リリィは今、魚を食べたくなったから食べるの。だめ……?」
「いや……いいんじゃないかな。うん、いいと思うよ……!」
――ぐっ……。可愛いリリィにそんな上目遣いで『だめ……?』とか言われたら駄目とは言えないでしょうが……。
ていうかリリィは今日ずっと魚を食ってるけど、何処に仕舞ってあるんだ?
「ふふふーん……ふーん……」
俺がそんな事を考えている間も、リリィは魚を眺め、食べ、鼻歌を歌いながらとてもご機嫌なようだった。
「楽しそうだね、リリィ。そんなにジャペンに行けるのが嬉しいの?」
「うん。とっても……! まずご飯が美味しいのも魅力的だし、変わった街並みを見れるのも楽しみ……!」
俺の問い掛けにリリィはとても嬉しそうに、目を輝かせて答えた。
――リリィは最近少し明るくなったか?
何だか前はもう少しボソボソと話していた気がするけど、少し垢抜けた様な……。
まぁ普段、底抜けに明るいユーリや、ドSで困ったセリーヌ、強面だけどビビりなボンズと一緒にいれば、多少は変わったりするのかもな。
そんな事を考えていると、俺達の元へ他の面々がやって来た。
「いやぁ、船の上での日光浴は最高だったなボンズー!」
「そうですね! 元気に飛びまわる鳥や、綺麗な空を見ていると心が洗われます!」
日光浴をしていた男二人は、とても清々しい顔をしていた。ボンズの言う通り、余程気持ちが良かったのだろう。
そして遅れて部屋に入って来たセリーヌとスカーレットは、満足気な顔をしていた。
「エルきゅん、見て見て! 私、肌が綺麗になったと思わない?」
――あぁ、セリーヌは確かスカーレットと美容コースだったか?
こういう時は何と答えるのが、男として正解なのだろうか……。童貞だからわからんぞ……。
「えっと、どうだろ……? セリーヌは元から綺麗だと思うけどな……?」
――合ってる……?
合ってるのか……!?
「もうっ……エルきゅんったら……! 嬉しい事言ってくれちゃって……!!」
――合ってたー!!
耐えた……耐えたぞ、俺は……!
「では、私はどうです? 美しいでしょうか……?」
スカーレットは俺に顔を近付けると、セリーヌと同じ質問をして来た。
――何なんだよ、二人して……!?
それにスカーレットは若干顔が赤いし、何だか凄く色っぽく見えるから目を合わせられない……!
「き、綺麗なんじゃないかな……? 僕にはそう見えるよ……?」
「うふふ……。嬉しいです。ありがとうございます」
俺はスカーレットから思わず目を逸らし、そんな恥ずかしい事を口にする。そして言い終わると同時に顔が熱くなるのを感じた。
――これもサキュバスの香りのせいなのだろうか。
あ、俺もサキュバスの血を引いているからソレは効かないんだった……。
そして当の本人はというと、嬉しそうに微笑んで軽く頭を下げていた。
そんな時、タイミング良くユーリが俺に話し掛けて来た。
「それよりエル! もうすぐエルが行きたいって言ってたジャペンに着くよ! 楽しみか?」
「え、う、うん! 凄く楽しみ! 連れて来てくれてありがとう、ユーリ!」
俺が礼を言うと、ユーリは誇らしげに胸を張っていた。
するとセリーヌが先までの嬉々とした表情とは打って代わり、今度は浮かない表情で口を開く。
「あ、そういえばユーリ。さっきエステをしてくれた方が一つ気になる事を言っていたのだけれど……」
「ん? どうした? 何を言われたんだ?」
「今から行くジャペンという所は、他の街と交流をあまりしない事で有名よね?」
「うん。確か独立都市だとか、そんな事を言っていたね?」
「それは自衛の為らしいのよ。自らの街の景観を守る為にね」
「へぇ、そういう意図があるんですね。オイラ知りませんでした」
セリーヌの話にユーリとボンズは良い具合に相槌を入れる。皆は黙って彼女の話を聞いた。
「それでここからが本題なのだけれど……」
するとセリーヌは途端に口を噤み、俯いてしまった。
「どうしたの? そんなに言い難いことなの?」
俺はセリーヌが何を言おうとしているのかわからなかったが、心配になり声を掛けた。
「ありがとう……エルきゅん。――――じゃあ……言うわね……。実は……そのジャペンという街に入るには"立ち入り審査"があるらしいの……」
立ち入り審査という文言とセリーヌの話し方も相まってか、部屋には重苦しい空気が流れ始める。
――ジャペンは所謂、昔の日本のような独特な街並みをしているのだろう。
だからそれを害されない為に、街に入る人を審査して制限を設けているんだろうな。
これは、ちょっとした鎖国だな。
ユーリを含め、俺達は余所者だからその辺をセリーヌは危惧しているのか?
ユーリも珍しく真剣な表情をしているし、その意味を理解しているみたいだな。
「そうか……。立ち入り審査かぁ。――――それで、その立ち入り審査って何?」
――あ、全然わかってなかったのね。
珍しく真剣な表情だったから、理解しているのかと思ってたけど、わからないからその顔だったわけね。
「立ち入り審査では、簡単なテストを行うみたいよ。内容は一般常識。それに合格出来る人は街を荒らしたりはしないだろうって判断をされるらしいわ」
――なるほどな。
なら、余程のアホじゃない限りは街に入れるというわけか。
あ、でもウチには余程のアホがいたか……。
「そっか! じゃあ皆大丈夫そうだな!」
しかしユーリは全く問題がないといった様子で、満面の笑みを浮かべた。
「いや……貴方が一番問題なのよ……」
セリーヌはそんなユーリに対し、ため息をつき頭を抱えた。
――そうか。セリーヌはユーリが街に入れないのではないかと危惧していたのか。
だが、その考えは正しい。ユーリは本当に街に入れないかもしれない。
重苦しい空気の中、セリーヌはユーリに対し呆れ顔で何度もため息をつき、リリィはそんな事かと再び魚を見つめ魚を食べ始めた。
ボンズはユーリに必死に、立ち入り審査の結果によっては街に入れないかもしれないという事を説明していたが、当の本人は「大丈夫、大丈夫」と聞く耳を持たない。
スカーレットはどうでもいいと言わんばかりに、自らの肌の調子を手で確かめていた。
果たして、俺達は無事に独立都市ジャペンへと入れるのだろうか。
新たな問題が浮上し、不安を募らせる俺だった。
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