89話 船着場
ゴラムの一件も片付き、コロクックや巨人族達に別れを告げ、ギガンテスを後にした。
そして俺達は次の目的地である"ジャペン"へ向かう為、船着場があるウォルトスへと一度戻って来ていた。
「帰ってきたァー! 何だか凄く久しぶりな気がするなぁ!」
ユーリは変わらないウォルトスの街並みを見て、たった数日前の事を懐かしんでいた。
――まるで故郷へ帰って来たかのような反応だな?
ここを離れてまだ一ヶ月も経っていないだろう?
「そんな事より船着場よ。エルきゅんがお腹を空かせているのだから、のんびりしていられないわ!」
スカーレットは辺りをキョロキョロと見渡し、慌てた様子で船着場を探していた。
――そんなに慌てなくてもいいのに……。
いや、ロクサーヌの事を考えると、急いだ方がいいのか……?
「セリーヌ……もぐもぐ……船着場……あっちって、書いてあるよ……もぐもぐ……」
リリィは、いつの間にか手に持っていた魚の串焼きを頬張りながら船着場への案内板を指さした。
「あら、本当ね……! それじゃあ皆、急ぐわよ! 早くしないとエルきゅんが空腹で死んじゃうわ……!!」
案内板を確認したセリーヌは、ユーリ達を先導し早足で船着場へと向かった。
――え、もしかして俺、ジャペンに着くまで何も食えないのか……?
それは本当に空腹で死んじゃうのだが……?
「さぁ、エル様。私達も参りましょう」
「あ、あぁ。そうだな……」
少々不安を感じつつも、俺はスカーレットに手を引かれユーリ達の後を追い歩き始めた。
そして俺達よりも更に後ろから、ボンズはとぼとぼと俯きながらついて来ていた。
――そうだよな。故郷であんな事があったわけだし、その後すぐにお別れだったもんな……。
そりゃあ気持ちも落ち込むか……。
「ボンズ、浮かない顔してどうしたの? 故郷を離れるのはやっぱり寂しい?」
俺はそんなボンズを心配し、声を掛けた。するとボンズは首を横に振り、口を開いた。
「違うんだエル君……。オイラ、故郷を離れる事には、そんなに辛くはないんだけど……」
「……? そうなんだ……? じゃあどうして、そんなに不安そうな顔をしているの?」
――ちょっとした不安要素も、気が付けば大きな問題になるかもしれない。
長く旅を続けて行くなら、そういう事もなるべく早めに取り除いておいた方がいいだろう。
「うん……。実はオイラ……船に乗るのが初めてで、ちょっぴり怖いんだ……」
――何だ。いつもの臆病風か。心配して損した……。
俺も大きな船に乗るのは初めてだし、気持ちは確かにわからなくもないが、勇者パーティーの、ましてやタンクであるボンズがそんな事で怯えていられては困る。
「…………。そっかそっかー。ボンズは大丈夫そうだし、早く行こ! スカーレット!」
「えぇ。そうですね。――――ボンズ? あまりエル様に心配をかけないようにお願いしますね……?」
「えぇ……? 待ってよ、二人とも〜……!」
情けない声を上げるボンズを他所に、俺達はユーリ達の元へ急いだ。
◇
俺達が船着場へと到着すると、先に着いていたユーリとセリーヌとリリィの三人は、行き先別の出港時間や、航海の時間などが記された立て看板を見ていた。
「でっかい船だなぁー……! 俺達、これに乗るの!? 凄いやぁ……!」
「海には沢山の魚がいるんだよね……? ふふふ……楽しみ……!」
船着場に停泊している船を見上げながら、ユーリは大はしゃぎ。そしてリリィは陸地の縁から海面を見下ろし、海中にいる魚達を想像して楽しげな表情を浮かべる。
そんな中、上機嫌な二人とは対照的に、立て看板を見つめるセリーヌの表情は曇っていた。
「これは……まずいわね……」
「…………? セリーヌどうしたの? 何かあった?」
「エルきゅん……。ここからジャペンまで二日もかかるんですって……。このままじゃ、エルきゅんが本当に死んでしまうわ……!」
涙ながらに話すセリーヌからは、冗談を言っている様子は感じなかった。
――本気か……? 本気で言っているのか……?
到着までに二日もかかるのなら、さすがに俺も何か食うぞ……?
確かに俺はジャペンの米が食いたいとは言ったけど、それまで空腹を維持するとは言ってないからな……!?
するとセリーヌは、勢いよく鼻をすすると、鬼気迫る表情で俺の両肩を掴み口を開いた。
「でも大丈夫よ、エルきゅん。私はエルきゅんを絶対にそんな事にはさせないから……! 安心して……! 私が何とかしてみせるわ……!」
「え……? いや、僕、何も言ってないんだけど……」
しかし、セリーヌは俺が全てを言い終わる前に、船の方へと駆けて行ってしまった。そして、そこにいた船員を捕まえるやいなや、何かを言い始めた。船員は困っている様子でありながらも、淡々と説明をし、それを受けたセリーヌは肩を落として戻って来た。
「どう……だったの……?」
「駄目みたい……。どれだけ言っても、掛かる日数は変えられないみたいなの」
「そうなんだ……。因みに船員には何を言ったの……?」
「え……? それは……エルきゅんがお腹を空かせているから、魔法でもなんでも使って、早くジャペンに着くようにしなさいって……」
――やめなさいよ、恥ずかしいなぁ……!
モンスターカスタマーが過ぎるだろ……!
船員も困っただろうなぁ……。本当にウチのアホ聖女がすみません……。
俺が心の中で船員に謝罪していると、俺の横にいたスカーレットが徐に口を開いた。
「セリーヌ、あなたは馬鹿なのですか? 少しは他人への迷惑を考えたらどうです?」
――おいおい、スカーレット……?
ただでさえ落ち込んでいる人に、そんな正論無双はやめて差し上げろ?
「……ふんっ。わかってるわよ……。エルきゅんの事しか考えていなかった事は深く反省す――――」
「――――違います。エル様の事を一番に考えるのは当然です。そうではなく、船員さんに迷惑がかからないよう、こっそり動力部に速度をあげる細工をすれば良いのです」
――ちょっと、スカーレットさん?
何を言っているのかな?
「なるほど……! さすがはスカーレットね! いいわね……そうしましょう!」
――お前も乗るな、セリーヌ……!!
ほんと……この二人も、俺の事となると頭がスカスカになるのは、どうにかして欲しいものだな……。
気持ちは嬉しいが、少々厄介が過ぎる……。
そして、早速船の動力部へと向かおうとする二人の手を俺は掴み、強く引いた。
「ちょ、ちょっと待って……! 僕は大丈夫だから……!」
「駄目よ! そんな事してたらエルきゅん、死んじゃうじゃない……!」
「エル様、どうかここは私達にお任せを」
「そうじゃなくって……!! 別に船にも食べ物はあるんだし、ジャペンに着くまで何も食べないつもりもないから大丈夫って言ってるの!」
俺の叫びを聞き、二人は足を止め考えを改め始めた。
「そう……。エルきゅんがそれでいいなら……」
「私も、エル様のお考えに背くつもりはありません。動力部に細工をするのは諦めます」
――ふぅ……。何とか二人は落ち着いてくれたようだな……。
まったく……世話が焼けるお姉さん達だ。
そして俺は二人の手を引き、船の近くにいるユーリとリリィとボンズの元へと向かった。
三人の元へと到着すると、未だ船に怯えるボンズに対し、ユーリが言葉をかけ元気づけようとしていた。
「ボンズ、そんな怖がんなくても大丈夫だって! こんなにでっかい船だよ? そうそう沈没したりなんてしないよ!」
――やめろ馬鹿。お前が言うと、フラグみたいになるだろ!
「ありがとう、ユーリさん。おかけで少し、気が楽になりました……。オイラ、何とか頑張ってみます……!」
――え、今ので気が楽になったの……?
ボンズの臆病風はそんなものなのか?
「それよりみんな……。ちゃんとトイレは済ましておきなね……。船が出たら二日は行けないんだから……!」
「え、何で?」
ユーリはキョトンとした顔で、リリィの忠告に疑問をぶつける。
「だって船には、トイレがないでしょ……?」
リリィは盛大な勘違いをしていた。
ここまで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
これからも本作品をよろしくお願いします!
また、【ブックマーク】と【いいね】と【レビュー】も頂けると嬉しいです( *´꒳`* )
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価をお願いします!
下の ☆☆☆☆☆ ▷▶ ★★★★★ で評価できます。
最小★1から最大★5です。
★★★★★なんて頂けた日には、筆者のモチベーションがぐぐーんと上がります\( ´ω` )/
是非ともよろしくお願いします!




