83話 sideスカーレット
時は少し遡り、スカーレットがエルの分身体を抱き締め、ユーリ達と合流した頃。
◇sideスカーレット――――
「ハァハァ……! ハァハァ……!」
――私は走っていた。
可愛いエル様人形を抱き締め、アホな人間達の元へ走っていた。
私達がいた所から少し離れた場所にユーリ達はいた。
「おぉ、スカーレット! ありゃ、エルはどうしたんだ?」
「エル様は、あの大きなゴーレムを見て怖がって泣いてしまって……。今は疲れて眠っています」
――嘘だ。エル様にそう言えと言われたから、そのまま言っただけ。
到着するや否や、その事について触れてくるとは本当に勇者とは面倒な存在。
でも、このアホ勇者はそれでも信じるのだろう。
「そっかぁ……。まぁエルもまだ子供だしなぁ……!」
――やはり信じた。
エル様、さすがのプランニング。
エル様の作戦に一つのミスも無い。
「エルきゅん……寝ているの? 可愛すぎるんだけど!? ねぇスカーレット! エルきゅんの寝顔を少しだけ見せて頂けないかしら?」
「駄目です。エル様は寝顔を見られる事を、他の何よりも嫌っています。何人たりとも見せる事は出来ません」
――セリーヌ、申し訳ない。
本来エル様にそういったきらいはないけれど、今私が抱いているのはただの人形。
顔を見せれば目が開いている事がバレてしまう。
そうなればエル様は、目を開いて眠ると言う要らぬ汚名を着せられてしまう事になる。
私はエル様のお世話係として、それだけは防がねばならない。
「えー! 何でよ! ケチっ!!」
「いくらセリーヌのお願いでもそれだけは聞けませんね」
「私のお願いなんて聞いてくれた事あったかしら? でもあのゴーレムを恐れて泣いてしまうエルきゅん……可愛すぎ……!」
――かくいう私もそうなのだが、セリーヌも本当に残念な僻を持っている。
でも、私にとってエル様は特別。至高の御方。
誰にも渡す気は無い。
「それより……スカーレット。あのゴーレムどうするの……? ふにゅ……柔らかい……」
「そ、そうですよ! オイラ達は逃げた方がいいって話してたんですけど、ユーリさんが……」
――ボンズの話に皆さんが頷いているあたり、やはりユーリだけが戦う意思を示しているのね。
ならばここはエル様の言い付け通り、逃げる方向へ説得しますか。
あと、リリィは何故私の胸を揉んでいるのか。
「ユーリ。ここは逃げましょう」
「え……? スカーレットまで何言ってるのさ? あんな巨大ゴーレムを野放しにしたら……どれだけの人達が被害に遭うと思っているのさ……!?」
――やはりこれだけでは、この正義感に取り込まれたアホな勇者は止まらないか。
まぁあの岩如きが、エル様に勝つ未来など到底訪れるはずもないのだが、ユーリにそれを言っても伝わらないわけで……。
ならばもう早速エル様の作戦フェーズ2へと移行しますか。
「その点はご安心を。あそこを見て下さい」
「ん? 誰、あの人?」
――まずい……。
エル様に、何か言われたら大人になったエル様の姿をユーリ達に見せろと言われたけど、その男の設定を聞くのをすっかり忘れていた……!
エル様……どうしましょう……?
「見た事ないわね……。どこかの冒険者かしら?」
「何か……すごく強そうだよ……? それに何だかかっこいい……」
――でかした、セリーヌ、リリィ……!
その設定、借りるわ……!
「え、えぇ。その通りです。あの方は世界でたった三名しかいないSS級冒険者だそうです。強さには自信があるとの事」
「SS級だと!? それはS級冒険者の中でも更に突出した才能をギルドに認められた人しかなれないと言われている伝説級の冒険者だぞ!? それがどうしてこんな所に……?」
――えぇ……。
適当な事を口走ってしまったけど、まさか本当にSS級冒険者とかいるなんて……。
現役冒険者のコロクックが言うのなら間違いないのでしょう……。
あー……私、もしかしたら余計な設定を付け加えちゃったかもしれないわ……。
「ということはS級冒険者のマッゾさんやサディさんよりも格上という事になるね!」
「えぇ。私達の師匠よりも強いのならもしかしたら……!」
――ちょ、ちょっと……!
マッゾとサディって誰よ?
私、そんな人間、知らないわよ!?
どうやらボンズとセリーヌの師匠らしいけれど、ここは話を合わせるべき……?
「じゃあその人が……あのゴーレムを一人で倒すって事……?」
「そ、そうですリリィさん。あの方があの岩……ではなくて、ゴーレムの相手をしている内に、私達は巨人族を連れて山の麓まで逃げるようにと言われました」
「で、でも……! あんな巨大ゴーレムを一人で相手にするなんて無茶だよ……!」
――このアホ勇者……本当に、少しは黙ったらどうなんだ。
エル様はよく、いつもいつもこんなアホの面倒を見ておられるのか。流石だわ……。
私はこのエル様人形が無かったら今頃、ユーリを血祭りにあげていたかもしれない……。
「無茶はどっちよ!? 私達は勇者パーティーとはいえ、ろくな実績もないの。そんな私達が相手をするより、SS級冒険者一人が相手をした方が遥かに安全で可能性があるって事が何故わからないの!? 正義感だけで人を……世界を守れるなんて思い上がりもたい――――」
「――――セリーヌ……言い過ぎ……。ユーリの気持ちもわかるでしょ……? ユーリも……今のセリーヌの言葉で頭は冷えた? 今のリリィ達にあのゴーレムを倒す力は無い……。今はあの人に任せて、逃げるしかないんだよ……」
「リリィ……わかったよ……。セリーヌもごめん……」
「わかってくれたならいいわよ……」
――何だか凄い修羅場になりそうだったけど、大丈夫か……?
まぁ何はともあれ、リリィのおかげで丸く収まってよかったわ。
あとは巨人族を説得して逃げるだけね。
エル様……後は頼みます……。ご武運を……!
私は遠くに見えるエル様の方を見つめた。
エル様からの返答は特になかったけれど、とりあえずは言いつけを守る事が出来てほっと胸を撫で下ろした。
そしてエル様人形を力強く抱き締めた。
◇
その後私は巨人族達を説得し、エル様の言い付け通り皆で山の麓まで駆け下りていた。
「このまま麓まで下りて行けばいいのか?」
「そうです。エ……あの冒険者の邪魔にならない所へ行ければそれで問題ないかと」
「なるほど。SS級冒険者にとって、俺達は邪魔者って事か……」
私の言葉を聞き、ユーリはうつむき加減でなんとも言えない複雑な表情をしていた。
「ユーリさん、そんな気を落とさずに。オイラ達も頑張って強くなりましょう?」
「ボンズの言う通り……。リリィ達はもっと強くなれるよ……!」
そんなユーリに対し、すかさずボンズとリリィがフォローに入る。
なんだかんだ言いつつも、このパーティーはバランスのとれた良いパーティーなのだなと、私は感じた。
「ふにゃあ……。伸び代クリン……」
「ふにゃちゃん……!」
――げっ……。
リリィの帽子の中に元魔族軍四天王のふにゃ丸様が……。
こればっかりは何度見ても腰を抜かしそうになるわ……。
「スカーレット、もうすぐ山の麓に着きそうよ! その後はどうするのかしら?」
「一応ここで待機でしょうか? 万が一何かあればここで凌ぎます」
「流石は勇者パーティーだな。逃げながらも最悪の想定を常にして、どう対応するかを考えているのだな。私の様な冒険者とは、考え方がまるで違う……」
――何を言っているんだコロクックは?
私は勇者パーティーではないぞ?
それにこのアホ達、先程良いパーティーだとは言ったが、そこまで優れているとは思っていないぞ?
そんな折。順調に山を駆け下りていた私達を突然、大きな地鳴りを伴った地割れが襲う。
皆は慌ててその場に立ち止まり何かに捕まるが、その揺れは凄まじく立っていられない者も大勢いた。
私は魔法で少しだけ身体を浮かしてそれを対処したのだが。
刹那――――
喋らないはずのエル様人形から可愛らしいお声が聞こえて来る。
『スカーレット……! 聞こえるか!? 聞こえるなら返事をしてくれ……!』
「エル様……!? ご無事ですか……!? 私にはちゃんと、エル様の可愛いお声が聞こえております……!!」
私はエル様の声を聞いて安心したと同時に、今の状況が良くないものだと瞬時に理解した。
「エル様、なんなりとご指示を……」
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