7話 王都までの珍道中
魔王城から家出した俺はアホ勇者であるユーリに拾われてしまい、半ば強引に王都へと出発した。
「エルー! 楽しいねー! 俺サイハテ村を出るのは初めてなんだよ!」
「へぇー。そうか。それはよかったじゃないか」
「なんだよエルー! そんな冷たい言い方してさー! 何が気に入らないんだよー?」
「何が気に入らないだと……? 貴様、本気で言っているのか……?」
「本気だよ……? ほら、俺の目を見てごらん?」
「鬱陶しい……。辞めろアホ勇者」
そう言うとユーリは綺麗で大きな目を見開いて俺の方へ顔を向けた。
――まったく。こんな国宝級イケメンヅラを俺に近付けやがって……。
俺にBL属性があったらどうするつもりだ?
まぁ無いんだけど。
何せ俺はボインのお姉さんが好きだからな! キリッ!
「もう……! どうしたんだ? 嫌な事があるならユーリお兄さんに言ってごらん?」
「何がユーリお兄さんだ、アホめ。 じゃあこの際だから言わせてもらう。あそこに見えるのは何だ?」
そう言うと俺は気持ちの悪い言い方で詰め寄るイケメンを軽くいなすと、少し遠くに見えるサイハテ村を指差した。
「何ってサイハテ村だよ?」
ユーリは「もう忘れたの?」みたいな顔をしながら俺にそう答えた。
「サイハテ村だよ? じゃねぇよ!! ここまで来るのにどれだけかかった!?」
「んーーーと。歩いて三〇分くらいかな?」
そう。俺達は村を出発して三〇分休まず歩いた。
そして進んだのはたったこれっぽっちの距離だった。
因みにサイハテ村から王都までは日本で言うところの東京から大阪くらいの位置関係だ。
距離で言うと約五〇〇キロメートル。普通に考えて歩いて向かうなんて不可能である。例え休まず歩いたとしても五日はかかる。
「時間がかかりすぎだ!! そもそも王都までどれだけ距離があると思っている!?」
「あ! それは知ってるよ俺! えっとね、確かねー。地図の上では人差し指くらいの長さだったから……。歩いて二時間くらい?」
「貴様……本当にアホだな……。俺は距離の話をしているんだ。それで何故、人差し指が出てくるんだ!? そして人差し指の長さだからって何故二時間なるんだ!?」
「何故って距離は指で測るものでしょう? 親指が一時間でー。人差し指が二時間でー。中指が――――」
「もういい。もういい! 貴様はもう……喋るな……」
「えぇー? エルが聞いてきたんじゃんー!」
ユーリはそう言うと頬を膨らませ、むくれていた。
距離を指で数える強者に出会ったのは前世と今世を合わせても初めての経験だった。
「あのなぁ……。王都まで歩くとなると相当な時間がかかるんだぞ? 何か移動手段はないのか?」
「ないよ?」
ユーリは「何言ってるの?」と言わんばかりの表情を浮かべそう言った。
「いやいや、列車とか馬車とかさ。あるだろ? そういうの?」
「ないよ?」
俺は絶望した。それと同時にここは異世界なのだと再認識した。現代日本の暮らしに慣れすぎていた俺には五日も歩き続けるなんて無理だ。
しかし、辺り一面には荒野が広がっており徒歩以外の交通手段を期待するのは意味の無い事だと早々に悟った。そして俺は渋々歩く事にした。そこで俺は一つ、素朴な疑問をユーリにぶつけてみた。
「そもそも貴様は何故王都へ向かうのだ?」
その問いには一つの期待も込めていた。それは勇者パーティの存在だ。
どんなアニメやゲームでも勇者の仲間達は頼れる奴が多い印象だ。きっとこんなアホよりいい人材が揃っているに違いない。
「あぁ! そう言えばまだエルには話してなかったね! 俺が王都に呼ばれた理由は王様が集めた仲間達と合流する為だよ!」
――よっしゃああああ!!!!
俺はそう心の中で叫び、ガッツポーズをした。
これでこんなアホに悩まされなくてよくなると俺は本気でそう思っていた。
あの時までは――――――
◇
そして俺は七日という長い時間をかけて五〇〇キロメートルにも及ぶ長い道のりを踏破した。
そして王都へと到着した俺達は、衛兵に案内され王城の中へと入った。
王城の中の長い廊下には、まるで博物館とでも言わんばかりに高そうな壺や絵画が飾られていた。
「すごいねエル! 見て! 高そうな物がいっぱいだ!」
「頼むから触って壊す様な事はしてくれるなよ……?」
「大丈夫! まったく、心配性だなー! エルは!」
そう言うと俺の前を歩くユーリはくるっと振り返り、後ろ向きに歩き始めた。
――い、嫌な予感がする……。
俺の危機感知センサーがビンビンに反応し、警報を鳴らしていた。
そしてそのセンサーはすぐに鳴り止む事になる。
パリンッ!!
なぜなら、後ろ向きに歩くユーリの体がよろけ、廊下に飾られていた花瓶にぶつかり、それを落としてしまったからだ。
「どどどどどど、どーーしよ!? エル、助けて!!」
花瓶を割ってしまった事に酷く動揺し、焦っているユーリは十歳の少年に向かって助けを求めた。
「はぁ。まったくこのアホは……」
そしてその少年(俺)はため息をつきそう言うと、頭を抱えた。
「だ、大丈夫です。勇者様。この花瓶は確かに大切な国宝級の物ですが、勇者様が壊してしまったと知ればきっと国王様もお許しになられるはずです。私供ならば即刻死刑でしょうが……」
「し、死刑……? 本当に……?」
衛兵の言葉にユーリは涙を浮かべそう言った。
先代魔王と馬鹿みたいな理由で喧嘩をして、挙句の果てには戦争まで始めた国王がこんな事を許すとは到底思えないが、大丈夫だろうか?
そして魔王である俺が勇者の弟として易々と王城へ入れているこの状況。人間族のセキュリティの甘さも大丈夫だろうか?
そうこうしている内にいよいよ王の間の扉の前に到着した。目の前にある扉は、まるで巨人でもいるのかと思う程に大きなものだった。
「エル! すごい大きいね! もしかして国王様ってこのくらい大きいのかな?」
「んなわけないだろ。アホめ。とにかく貴様は王の前で余計な事を喋るな」
「え!? 何で!? 俺勇者なのに!!」
「アホがバレるだろ!? もし貴様がアホな事がバレてみろ? こんな勇者に人間族の未来は任せられんってなるかもしれないぞ?」
「それは困る! 俺は人間族を苦しめる魔王を倒したい!」
ユーリは「ふんっ!」と鼻息を荒くして俺にそう言った。
何度も言うがこんなアホに俺が負けるはずがない。
まぁこれだけ釘を刺していればユーリが軽口を叩いてやらかすという未来は防げるだろう。
――さて、あとは仲間だな。
どんな奴らがいるのか楽しみだ!
魔法使いに聖女様もいいなぁ。後はタンクも大事だな。いやー、早く会いたいなぁ。
俺は胸を踊らせつつ、アホと共に王の間の扉を開け中へと入った。すると低く野太い声が聞こえた。
「よくぞ参った。勇者ユーリとその弟エルよ」
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