75話 故郷の危機
コロクックの話によると、山の麓にあるチミニチという村を魔族が壊滅させ、次はボンズ達の故郷〈ギガンテス〉にも迫っているという事らしい。
ボンズは顔を青くしガタガタと震えていたが、ユーリが肩を摩ってやる事で少しは落ち着きを取り戻した。
「ところでそのチミニチという村を壊滅させた魔族はどんな奴なんだい?」
ユーリはボンズに気を配りながらも、コロクックにそう問うた。
「それがわからないのだ。大柄な魔人が一人、突然やって来て一瞬で村を壊滅させたという事しか……」
「一人で……!? そんな強い魔人にやられて村の人達は大丈夫だったの!?」
「生き残りは……いない……」
ユーリの問いに俯きながら答えるコロクック。
「なら誰がその状況を外部へ知らせたの? 生き残りがいないのなら村の人が助けを求めに来たというのは考えられないわよね?」
「……通りすがりの冒険者がそれを目撃したそうだ。そいつは足がすくんで、ただ物陰に隠れている事しか出来なかったらしいが」
「そうか。まぁ無理もないよね。そんな強い魔人が相手じゃ……」
ユーリの言葉にこくりと頷くコロクック。
――大柄な魔人……か。
しかも単騎で村一つ壊滅させるなんて、恐らく低位の魔人ではないだろう。
それに俺はそんな魔人に俺は少し心当たりがある。
そして俺はふとスカーレットに目をやった。
「チッ……。あの岩風情が、勝手な事を……!」
するとスカーレットは今までに見た事もない様な、冷たい目をして愚痴をこぼしていた。
「どうしたスカーレット。貴様がそこまで感情を表に出すとは珍しいな」
俺はスカーレットの傍で彼女にだけ聞こえる程の声量で声を掛けた。
「えぇ、まぁ。そうですね……。すみません。少し奴とは因縁がありまして……。それよりエル様。その魔人、恐らく――――」
「――――あぁ、わかっている。こんな事が一人で出来るのは恐らく、"壊し屋"ゴラムだろう」
スカーレットが話すよりも先に俺がその魔人の正体を言い当てた。
するとスカーレットは小さく手を叩き俺を褒めた。
「わかっておられましたか。流石です」
「あぁ。それにしてもゴラムの奴は俺の言った事をろくに聞かず、盛大に暴れているようだな」
「その様ですね。エル様の真意に気付けないなど、愚かな岩です」
スカーレットはここにはいないゴラムを、あたかも目の前にいるかのように虚空を睨み付けていた。
――ゴラムがゴーレムだからって岩呼ばわりとは、スカーレットは余程ゴラムの事が嫌いなんだろうな。
それにしてもスカーレットとゴラムの間にある因縁って一体何なんだ……?
それに五芒星のゴラムに対して、スカーレットが様を付けていないのも気になるな。
まぁそこら辺はゴラムに会えば自ずとわかる事だからいいとして……。
「ゴラムが単騎で巨人族の里へ向かった理由は何だ? 巨人族は確か、魔族にも人間族にもつかない中立の種族ではなかったか?」
「えぇ。仰る通りです。ですがあの岩は恐らくその事を知りません。どころか、強敵と闘いたいという欲と、有り余る力で全ての物を破壊したいという身勝手な理由で暴れているに違いありません」
――なんだ。ただの馬鹿でゴミな奴か。
そんな奴に故郷を潰されたらボンズ達もたまらないだろうな……。
そんな事を考えていると、ユーリが俺とスカーレットに向かって声を掛けて来る。
「エル? スカーレット? 何を二人で話しているの?」
「え? いや、今日の晩御飯は何かなー? って話してただけだよ……! ね? スカーレット?」
「え、えぇ! そうです! ユーリの作る食事はどれも美味しいですからね……!」
「ふーん……? そっか。それより早く行くよ! みんな出発の準備を始めてるから!」
「え!? どこに行くの!?」
「決まってるじゃん! ボンズの故郷、ギガンテスにだよ!」
――やっぱり行くのか。
まぁ仲間の故郷が襲われるかもしれないとなれば、それを防ぎに行くのは当然の流れだよな。
ゴラムがいくら強くても、こっちには俺とスカーレットがいるし新たに加わったペット、魔族内序列二位のふにゃ丸もいるし、万が一にも負ける事はないだろうけど。
そして俺達とくっころ女騎士ことコロクックは、素晴らしい温泉街に後ろ髪を引かれながら、二人の故郷〈ギガンテス〉へと向かう。
◇
一方その頃。
当のギガンテスはというと――――
ドゴーーーン!! という落雷の様な音が数度鳴り、巨大な門が木っ端微塵に破壊された。
「ガーハッハッハッ! 魔族最強の俺様が来てやったぞ!! オラァ巨人族ゥ!! 出てこぉぉぉい!!!」
そして門の外から巨大な岩のような大男ゴラムが高笑いをしながらそう叫んだ。
すると里の内部からぞろぞろと巨人族の男達が姿を見せ始める。
「なんだぁー? すんげぇ音がしたけんども、何が起こっただぁ?」
「おいおい、ウチの門をこんなにしちまってよォ」
「あーあー。こりゃあ作り直しだべぇ」
突然の魔人の登場に驚くどころか、意外と呑気な事を言いながら破壊された門の破片を集める巨人族の男達。
「おぉ! テメェらが噂に聞く巨人族か!? 聞いてた通りデケェじゃねーか! ガーハッハッハッ! よっしゃあ! 俺様が相手をしてやる! どっからでもかかって来い!!」
ぞろぞろと現れた巨人族の男達に鼻息を荒くして、強めに自らの身体を叩くと、手招きをして彼らを戦闘に誘う。
しかし――――
「これ、接着剤で貼り着くだべか?」
「いんやぁ、ここまでバラバラになっちまったら無理だべぇ」
「人間達に頼んだらいくらかかるんだぁ?」
「知らねーけんど、多分大金貨十枚はくだらないんじゃねーべか?」
「そんな大金、この里にはねーっぺよー……!」
「んだけど、そんな事言ってたってしょーがねーべや! ウダウダ言ってねーで、さっさと破片集めしろ?」
男達は、ゴラムの誘いに一切乗らず、呑気に門の破片集めを始めた。
「ガ……ガハハ……ガハ……。テメェら……俺様をナメてんな……?」
ゴラムは自分が全く相手にされていない事に腹を立て、眉をピクつかせながら男達に近付く。
「んん? なんだァおめー? 見ねー顔だな? おい、おめーら! こんな岩みてーなやつ、ウチの里にいたっけかぁ?」
「いんや? オラこんな奴見た事ねーべ?」
「オラもだぁ!」
そして漸くゴラムの存在に気が付いた男達は揃って彼の姿をじっと見つめた。
「お? 漸くやる気になったか? よっしゃあ来い!!」
するとゴラムは再度身体を強く叩き、戦闘態勢をとる。
しかし――――
「おい、そこの岩みたいな若ぇーの! おめーもこっちゃ来て破片集め手伝えぃ!」
「んだんだ! ンなとこ立ってられっと作業の邪魔だべ!」
「あぁ!?」
「ったくよぉ。邪魔だって言われたら、そこをどくのが普通だべぇ? ――――あぁーあ。ここにもこんなに破片が落ちてるべ」
やる気満々な表情で戦闘態勢をとるゴラムに対し、破片集めの手伝いを頼む男達。
そして怒鳴るゴラムに臆する事無く、一人の男が彼の足元に落ちている破片を拾おうと近付いた。
「テメェら……。俺を本気で怒らせてーみてぇだな……。よーくわかった……」
「んあ……?」
ゴラムの足元に屈んでいた男が顔を上げたその瞬間。
物凄い速度と爆音を伴い、ゴラムの拳が男の脳天に直撃した。
男はそのまま顔が地面に埋まる程の威力で叩き付けられた。
「ガーハッハッハッ! 俺様をナメるからだ! オラァ! かかって来いやぁ!!」
「……っ! おめぇ……!!」
ゴラムは顔が埋まった男から手を離し、他の男達に目をやり、両手を広げ煽った。
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