74話 新たな被害
「くっ……殺せ……っ!!」
両腕を上げ、頭の後ろで組み、悔しそうな表情から放たれた女騎士の言葉が夜の街に木霊した。
――くっころ……だと……!?
初めて生で見たぞ、くっころ女騎士……!!
ん……? でも何で突然……?
俺は女騎士の突然の行動に感動と疑問を抱いた。
「ふっ……いやいや、殺さねーわ。何言ってんだ姉ちゃん?」
ダンナは半笑いで女騎士に的確なツッコミを入れる。
しかし女騎士は彼らを睨み付けたまま口を開く。
――うん、まぁ当然だよな。
普通はそういう反応になるよなぁ。
女騎士さんは多分引っ込みつかなくなっちゃっただけだと思うんだ。
「私を辱める前に殺せと言っているのだ……!!」
「わからん奴だなぁ……。俺達は別にお前ェに――」
「――――殺せぇっーー!!!!」
「だから……殺さねぇっての!! はぁ……もう付き合ってらんねぇ、行くぞおめェら……!」
執拗い"くっころ"に嫌気がさしたのか、気味悪くなったのか、ダンナは下っ端達を連れてその場を後にしようとする。
「貴様ァ! お勘定はどうした……ァ!!??」
しかし、女騎士は立ち去ろうとする男達の背中に向かって物凄い剣幕で叫んだ。
「払ったわ!! お前ェがゴチャゴチャ訳分かんねーこと言ってる間になぁ!!」
するとダンナは振り返り、女騎士に怒鳴り声を上げる。
それを受けて女騎士は苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。
「くっ……殺せ……っ!」
――もしかしてこの女騎士……。ただ"くっころ"を言いたいだけなんじゃないか?
「マジで何なんだよお前ェは……? 気持ち悪ぃな……」
「ぐっ……! 詰るな……! 詰るくらいなら私を殺せ……!!」
――やっぱり……。
この女騎士、死にたいのか……?
「……チッ。もう行くぞ……!」
そう言いダンナは下っ端を引き連れ走り去ろうとする。
しかし――――
「待て……!!! まだ私は貴様らを許してはいないぞ! ――――そ、そんな目で見るな……! くっ……殺せっ……!!」
その場を立ち去ろうとするダンナ達の前に両手を広げて立ち塞がり、再度くっころを披露する女騎士。
――この女騎士、一体何がしたいんだ?
ダンナ達も完全に引いてるし、その行動の意図がわからん。
最早この構図、絡まれているのは女性店員ではなくて、ダンナ達だよな。
そうこうしていると、この状況に痺れを切らしたのかユーリ達が助太刀に入る。
「もういいだろ。許してあげなよ」
「なっ……! 貴様ら一体……!?」
「許すも何も俺達ァ何も……!」
「あなた達ではなくて、その女性に言っているの。あなた達はこの隙に早くお逃げなさい!」
「お、おぅ……助かるぜ……。オラ、お前ェら! 行くぞ……!!」
「コ、コラ! 待て! 逃げるなぁ……!!」
ユーリが女騎士を抑えている間にセリーヌがダンナ達をこの場から逃がす。
そんな彼らに向かって「逃げるなぁ! 卑怯者ぉぉ!!!」などと叫ぶ女騎士であったが、ダンナ達を含め全員がそれを相手にしなかった。
遂には大勢集まっていた野次馬達も呆れ顔で散って行く。
女騎士はその場で膝をつき項垂れ、俺達の顔をまじまじと見た。
「貴様らの余計な邪魔のせいで、奴らに逃げられてしまったではないか……!」
「もう十分……。お姉さんは十分戦ったよ……」
悔しそうな表情を浮かべる女騎士にリリィは慰めの言葉を掛ける。
「ふん。情けなど無用だ……」
しかし女騎士は、そんなリリィの優しさをふいにし、目を伏せる。
皆が彼女に何と声を掛けたらいいのかと悩んでいると、スカーレットが抱いていた俺を下ろし口を開いた。
「そこの騎士の方。あなた、死にたがりですか?」
「なっ……!?」
「スカーレット!? なんて事を言うんだ!?」
「いや、だってそうでしょう。女一人で数名の男に立ち向かい、戦う意思の無い者に殺せなど訳が分かりません。死にたがりとしか――」
――スカーレットの言う事はもっともだ。
とは言っても俺は死にたがりとは少し違う気もする。
どちらかと言えば、彼女は自ら"くっころ"を言えるシチュエーションに持って行っている様な気がしてならない。
まぁどちらにせよ意図はわからないが。
ここは少し、確認してみるか……。
「お姉さん、残念だったね。店員さんを守るどころか迷惑がられて、挙句の果てに男の人達に何もされず、気持ち悪いとまで言われてさ。恥ずかしいね。可哀想だよ。見てらんないよ……」
俺は確認の意味も込めて、常人なら赤面してこの場から逃げ出したくなる言葉ランキングの上位三つをお見舞いしてやった。
すると女騎士は再度悔しそうな表情を浮かべてあの言葉を吐く。
「こ、こんな子供にまで……! くっ……殺せ……!」
――確定だな。
コイツは《《コレ》》が言いたいだけだな。
すると遠目で彼女を見つめ、口を閉ざしていたボンズが徐に口を開いた。
「コロちゃん……」
ボンズは誰かの名前らしきものを口にしたがそれが誰の事なのかわからず、みんなはポカンとしていた。
すると女騎士がボンズの顔を見るやいなや、目を逸らし気まずそうな表情を浮かべる。
「ボンちゃん……」
――コロちゃんに、ボンちゃん。
どうやら二人は知り合いみたいだな。
しかし見た目は綺麗なくっころ女騎士とガチムチビビりなボンズに一体どんな接点があるんだ?
「ボンズ、この女の人の事を知ってるの?」
俺がそう問うと、ボンズはこくりと頷き口を開く。
「うん、知ってるよ。彼女の名前はコロクック。コロちゃんはオイラと同郷で幼なじみなんだ」
「幼なじみ? あ、確かボンズの故郷はこの近くなんだっけ」
「そうです、ユーリさん。オイラの故郷はここから北へ行った所にある巨人族の里〈ギガンテス〉。オイラとコロちゃんも実は巨人族なんです」
「えぇ!?」
ボンズから発せられた驚きの新事実に俺は思わず声を出してしまう。
「え、でもボンズもコロクック? も、巨人族にしてはあまり大きくないようだけど?」
セリーヌの言葉を受け、少し俯き暗い表情を浮かべるボンズ。
「オイラとコロちゃんは、巨人族の中で稀に生まれる希少種なんです。希少種と言っても単に珍しいというだけで、身体も小さいし、力も弱く何もいい事は無いんですけどね。だから同族から虐められたりする事は日常茶飯事でしたし……」
「そう……なのか……」
「酷い話ね……」
「ボンズ可哀想……」
ユーリ達はボンズの話を聞き、彼に同情し悲しそうな表情を浮かべていた。
確かに俺もかなり胸が痛んだ。
スカーレットは自分の爪を見つめ、興味が無い様だった。
「でも、そんな時にオイラを何度もいじめっ子から助けてくれたのが、そこにいるコロちゃんだったんです」
「コロちゃん……」
幼い頃、虐められていたボンズを何度も救ったのがコロクックだとわかるとユーリは彼女の名を口にし、優しい目で見つめた。
「な、何だ……! そんな目でこっちを見るな……!」
「コロちゃん、いい人……」
「や、やめろォ……! そんなに私を褒めるなぁ……!!」
皆に褒められ恥ずかしいのか、コロクックは手で顔を覆い下を向いた。
「でも本当にコロちゃんは優しかったんです。弱きを助け強きをくじく。オイラ達より数倍、身体が大きい相手に臆せず立ち向かっていく姿は本当にカッコよかった。今日みたいに勘違いして突っ走ってしまう事も多々ありましたけど……」
「それを言うなよボンちゃん……。それにカッコよくなんかないさ。私はいつもボコボコにされていたのだからな」
「そんな事ないよ! オイラにとってコロちゃんはずっと憧れの人なんだ! 王国騎士になるって言って里を飛び出した時は驚いたけど、きっとコロちゃんなら立派な騎士になれるってオイラ信じてた……!」
「だが、実際はこのザマだ。採用試験に落ち、見た目だけは騎士に近付けてはいるが、私はただの冒険者の端くれだ。だから私はボンちゃんが言う様な立派な騎士ではないし、とても皆から羨望の眼差しを向けられ、黄色い歓声を浴び、国王様から爵位を与えられる様な人間ではないのだ」
――いや、そこまでは誰も言っていないのだが……。
それよりボンズが巨人族だったというのは驚きだな。
確かに少し身体は大きいけど、巨人族って程でもなかったから想像すらしていなかった。
セリーヌがボンズの故郷に立ち寄ろうと言った時、暗い表情をしていたのは、昔虐められていたからか。
「それよりボンちゃん! ここに居るって事は、君もあの話を聞いてここまで帰って来たんだね!?」
「あ、あの話……?」
「何!? 知らないのか!?」
コロクックの問いにボンズがピンと来ていない様子だった事を受け、彼女は驚いた表情を浮かべた。
そして途端に彼女は、真剣な顔に変わり口を開いた。
「先日、里近くのチミニチ村が魔族の襲撃を受けた。そして今、その魔族は私達の里へ向かっているらしい」
「…………っ!?」
コロクックからの突然の話を受け、ボンズの顔は一瞬で青ざめた。
そして俺達も魔族の襲撃という言葉を聞き、一気に緊張感を走らせる。
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