65話 名探偵
先まであれだけ平和そのものもだったブリジアが、温泉が汚染されてしまった事により地獄と化していた。
「温泉が汚染された原因って何だったの?」
「それがわからないんだ。俺達も調査に出ようと思ったんだけど、まずはエルが目を覚ますのを待とうって事になって」
「そう……だったんだ。ごめん……」
――俺のせいでユーリ達の調査が遅れていたのか。
申し訳ない事をしたな。
「エルきゅんが謝る必要はないわ! 大丈夫よ。何としてでも汚染の原因を突き止めるわ。――――私の美肌の為に……!」
――セリーヌの動機はともかくとして、汚染の原因は一体何だ?
街中の温泉が被害に遭っているってよっぽどだよな……。
「このままじゃ温泉、入れないもんね……」
「うん、そうだね……。汚染された温泉に入った人達はみんな苦しそうにしているし、かなり危険だよね」
リリィとボンズはそう言うと悲しげな表情を浮かべる。
「被害に遭われた方々の症状から汚染された温泉に含まれていた毒物が何なのかは大体わかりますが、原因がわからないのではどうする事も出来ないですね。ただ一つだけわかる事と言えば、これは人為的なものという事でしょうか」
「人為的……」
――スカーレットの言う事はほぼ間違いないだろう。
街中の温泉が一夜にして汚染されるなんて尋常じゃない。
自然災害というよりかは、誰かが悪意を持って毒物を入れたと考える方が自然だ。
「えぇ、そうね。とは言ってもまだ推測だけどね。被害に遭っている人達は色々な症状を発症してるの。例えば、嘔吐、体の痺れや痒み、頭痛に異常な眠気。――後、あまりエルきゅんには話したくないけれど、亡くなった人も居るみたい……」
「…………っ!」
セリーヌの言葉に俺の表情は強ばった。
――亡くなった……?
誰かの悪事のせいで何の罪もない人が死んだって言うのか?
そんな事が許されるのか?
否。許されるはずがない。
「エル様……」
俺の表情の変化に気付いたスカーレットは心配そうに俺を見つめる。
――大丈夫だ、スカーレット。俺はいたって冷静だ。
それより汚染された温泉に含まれていた毒物はかなり強い物なんだな。
それに出ている症状が色々あるのも気になる。
普通に考えれば、様々な種類の毒を混合させて温泉に入れて回ったというのが濃厚だろう。
でもそんな事をしていれば誰かに気付かれるはず。
だとすれば残るは――――源泉か……。
そして俺は一つの答えに行き着いた。
それは『誰かが悪意を持ってこの街の全ての温泉に繋がる源泉に毒物を入れた』という事。
――そうなるとみんなを何とかして源泉に行く気にさせないといけない。
でもここで俺が探偵や刑事の様に推理を展開しても、みんなは驚くだけで信じてもらえるかどうか。
それどころか俺の正体がバレる危険性もある。
見た目は子供、頭脳は大人なのがここに来て災いしたか……。
ならばもうここはみんなを上手くそこへ誘導するしかないな――
そして俺は覚悟を決め口を開いた。
「ねぇーねぇー、もう僕達は外に出てもいいんだよね?」
「そうだな。エルも目覚めたことだし、そろそろ街の人に聞き込みに行くか!」
「そうね。スカーレットが言う様にこれが人為的なものなのであれば、犯人が毒を入れている所を見た人がいるかもしれないしね」
「問題は犯人がいつ、どうやって街中の温泉に毒を入れたかですよね。うーん……。オイラ考えすぎて、頭が痛くなってきました……」
「ボンズ大丈夫……? もしかして毒のせい?」
セリーヌ達はそれぞれの考えを口にする。
しかし未だ真相には誰も辿り着けていない。
もう少し答えに近付けば『あの言葉』を言えるのにと俺はヤキモキしていた。
するとスカーレットがきっかけとなる言葉を口にする。
「やはり各温泉を回って直接毒物を混入させて行ったのでしょうか――」
――でかした、スカーレット!
その言葉を待っていた……!
そして俺は満を持して『あの言葉』を言い放つ。
「あっれれー? おかしいぞぉー?」
「どうしたんだ、エル?」
「犯人は毒を温泉に入れる事が悪い事だってわかってるはずなのに、わざわざそんな誰かに見付かるかもしれない方法を選ぶかなー?」
俺は迷宮無しの名探偵ばりに上手く子供ムーブを続けながら、みんなの考えを正した。
「確かに……。俺が犯人だったら絶対バレない方法を考えるかも……」
――いいぞ、ユーリ。お前のその言葉はみんなを巻き込むキッカケになる。
だが、ユーリにはそんな完全犯罪は出来ないだろうな。
何せ頭が足りん。
「そうね……。私でもそうするわ。でも、じゃあ犯人は一体どうやって毒物を温泉に入れたのかしら……。もしかして別の人間を身代わりにして……? つまりは調教……!」
――セリーヌもいいね!
沢山考えるんだ。そして何とか答えに辿り着いてくれ……!
だが、最後のだけは絶対に違うと思うぞ。
そんな考えに行き着くのはセリーヌのような余程のドSだけだ。
「うーん……。やっぱり大魔法じゃないかな……? 毒の雨とか……! うん。それいいな……。リリィもやりたい……」
――リリィも頑張って考えていて偉いな。
まぁ全然明後日の方向へ考えているみたいだけど……。
あと、絶対にやるなよ……?
リリィならやりかねないからな……。
「オイラは源泉が怪しいと思うな。源泉を毒で汚染すれば、そこから流れる温泉全てが汚染されるし……」
――ボンズ、素晴らしい!!
よくぞここまで辿り着いた!
ただの臆病者で最近Mに目覚めただけの優しい大男だと思っていたが、誰よりも早く真相に気が付くとは!
よし、あとは源泉を目指して出発するだけだな。
ボンズの発言でみんなはハッとした様子で、「それだ!!」と言い、早速源泉へ向かおうと立ち上がり始めた。
刹那――スカーレットが突然俺の元へ寄り。小声で声を掛けて来た。
「エル様、少しよろしいでしょうか? まだ重要な問題が残っています」
「重要な問題? 何だそれは?」
「その犯人ですが――――本当に人間でしょうか?」
――確かに言われてみればそうかもしれない。
人間がこんな大それた事をしでかす動機がわからない。
もし犯人が魔族だとするならば、人間に危害を加えたいという動機づけが出来る。
スカーレットの言葉を聞き俺は名探偵ぶるのを辞めた。
こんな事にすら気付けなくて何が名探偵か。
「確かにそうかもしれんな。犯人が魔族である可能性も否定出来ん」
「はい。そして人間に恨みを持っており、様々な毒を生成できる者に私は心当たりがあります」
「ほう。ソイツは誰だ? 言ってみろ」
俺は余裕な表情を作りつつ、内心はどんな奴の名前が出るのかヒヤヒヤしていた。
生唾を飲み込みスカーレットの言葉を待つ。
するとスカーレットはゆっくりと口を開いた。
「その者の名は先代魔王様の直属部隊、四天王が一人『ふにゃ丸』。スライム種の長です」
「スライム……だと……?」
俺はスカーレットの言葉に耳を疑った。
――まさか先代の頃の四天王にスライムがいたとは……。
スライムといえばゲームでは雑魚の魔物という位置付け。
だが昨今、転生してスライムになるというラノベが大流行した事をきっかけにスライムの格がかなり上がっている。
そのラノベではスライムが魔王になっていたんだっけ。
もしかしてこの世界のスライムもめちゃくちゃ強かったりするのか……?
「スカーレットよ……。スライムとは、強いのか……?」
「いえ、普通のスライムなど恐れるに足りません」
「そうか……! ならあんし――――」
俺はスカーレットの言葉にホッと胸を撫で下ろした。
しかしスカーレットは珍しく俺の言葉を遮る様に口を開いた。
「――ですが、ふにゃ丸様は別です。スライムの中でも稀有な存在、スライムキングに進化した彼は瞬く間に魔族内序列二位まで上り詰め、その圧倒的な強さから前任の四天王の一角であったオークロードを瞬殺して四天王の座を奪い取った正真正銘の化け物です」
「オークロードを瞬殺……。とんでもないな。それで、魔族内序列とは何だ?」
「はい、魔族内序列とはその名の通り、魔族の中での強さの序列です。当時は魔王様が一位で次点でふにゃ丸様だったと聞いています」
――めちゃくちゃ強いじゃん、スライムのふにゃ丸さんよ……。
俺のパッパの次に強いとかとんでもないな……。
それにしても四天王ってこの間、俺に反旗を翻したばかりだろ?
さすがに行動が早すぎないか?
余程俺を殺したいらしいな……。
「そんなに強いのか。ならソイツらを止めに行ったアイリスなんて歯が立たないのだろうな」
「正直……そう、ですね。アイリス様はお強いですが、あくまで五芒星です。五芒星は四天王の方々が引退される為に作られたものですから、それ即ち――そういう事です……」
――なるほど。つまり今の五芒星は四天王に劣ると。
五芒星の事を聞いた時ですらヤバい奴らだと思ったのに、四天王はそれ以上なのか……。
これは余りにも骨が折れるな……。
「そうか。して、そのふにゃ丸とやらはどんな戦い方をするんだ? 予め聞いておいて考えをまとめておきたいのだが」
「申し訳ありませんが、四天王の方々が現役で活躍されていた頃は私もまだ未熟でして、あまりよく知らないのです」
「そう……か。わかった。まぁなんとかなるだろう。いざとなれば俺が相手をする」
「承知しました」
――そうかー。めちゃ強スライムを前情報無しで相手にしなくちゃいけないのかー。
これは中々に厳しいな。
ユーリ達、大丈夫か?
まぁ犯人がふにゃ丸だと確定したわけではないし、そうなった時はその時だ。
……ってあれ、コレめっちゃフラグっぽくない?
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