61話 ウィルの体質
ヤッカムにパーティーを追放されてしまった冒険者ウィルだったが、何故かユーリとボンズ、セリーヌ、リリィの三人が何やら揉めている様子をアワアワとしながら眺めていた。
「何を揉めているの? 何があったの!?」
「あ、エルきゅん! エルきゅんからもこの馬鹿に何とか言ってよ!」
俺が声をかけるとセリーヌは怒り心頭な様子で俺にそう言い放った。
「何? どうしたの?」
「ユーリがウィルと一緒にブリジアに行くって聞かないの……」
「それが何か駄目な事なんですか?」
「駄目ですよスカーレットさん。このウィルって人、魔物を呼び寄せる体質らしくて、オイラ達はそんなの危険すぎると反対していたんです」
――なるほど、そういう事か。
まぁ三人の気持ちもわかるけども、ユーリは勇者としてウィルの事を放っておけないんだろうな。
「危険なのはわかるよ! でもウィルを一人置いて行って、また魔物にでも襲われたら誰が守ってあげるのさ!?」
「だから、私達は人助けをする慈善活動をしているわけじゃないの! 誰彼構わず助けてたらいつまで経っても魔王を倒せないわよ!?」
「それはわかってるけど……。でも目の前にいる人を助けないで勇者なんて俺は名乗れない! みんなはそうじゃないのか?」
ユーリは語気を強くしてそう叫ぶ。
すると三人は黙り込んでしまった。
――まぁ今回ばかりはユーリが正論だろうな。
勇者として見過ごせない。みんなはどうなんだと言われれば、何も言い返せないよなぁ。
さて、どうしたものか。
魔物を呼び寄せる体質……。まるでサキュバスの香りみたいだな。
その時俺はメテックの街で起きた魔物襲来の件を思い出していた。
あの時街に魔物が押し寄せて来ていたのはスカーレットが放つサキュバス特有の魔物を呼び寄せる『香り』のせいだった。
「うーん。みんなの言うこともわかるんだけど……。ウィルは何で自分が魔物を呼び寄せてしまうのか心当たりはないの?」
「え、いや? 特にはないかな……?」
「ご両親は人間ですか?」
「……? 当たり前でしょ? 変な事を聞くお姉さんだな」
「じゃあいつぐらいからその体質に目覚めたの? まさか生まれてすぐとかではないんでしょ?」
俺が何度か質問をするとウィルは何かに気付いたようでハッとした表情を浮かべた。
「確かに……! いつからだろう? 確か冒険者になる為に街を出た時くらいからだった気がする」
――なるほど。じゃあその時に何かの拍子で体質が変わったのか。
「そうなんだ! じゃあその時の事を少し思い出してみてよ!」
「えぇ……? えっとね、確か両親には冒険者になる事を凄く反対されて、でも僕は無理矢理家を飛び出したんだ。街を出て暫く歩いていた時に――――あっ……!」
ウィルは話の途中で何かを思い出した様な素振りを見せた。
「どうしたの!? 何を思い出したの!?」
「その時僕、綺麗な女の人に出会ったんだ。そう、確かこの人みたいな綺麗な人だった……!」
「わ、私ですか!?」
そう言うとウィルはスカーレットを指さした。
――犯人はお前だ!!
と言いたい所だけど、見た目から察するにウィルの年齢は二十歳そこらだ。
いくら早くても冒険者になる為に街を飛び出すなら十五歳くらいにはなっていただろう。
つまりウィルがその女の人と出会ったのはどれだけ長く見積もっても五年から十年前。
その頃スカーレットは俺と常に一緒にいたしウィルの元へ来ている暇などなかったはず。
「スカーレット……あなた何をやらかしたの?」
「いや、私じゃありませんよ! その頃はエル様に付きっきりでしたし」
「スカーレットの言う通りだよセリーヌ。スカーレットがその頃ウィルに会うのは不可能だよ」
「そ、そうなの? じゃあ誰なのかしらね、その綺麗な女の人って」
セリーヌは申し訳なさそうにしながら再度ウィルの方を向き直り彼が話し出すのを待った。
「あ、今僕の番ですか……?」
気付けば全員がウィルの方を向き話し出すのを待っていた。
彼はキョトンとした顔で寝ぼけた事をぬかすと全員が早く話せと言わんばかりに「うんうん」と二度頷いた。
「えっとですね。それからその女の人に旅が上手く行くようにと、とあるペンダントを頂いたんです。それがコレですね」
ウィルはそう話すと着ている服の胸元からジャラッとそのペンダントを出した。
そのペンダントは普通の物とは少し違い、トップにある飾りが小さな壺のような形をしていた。
「このペンダント、飾りが壺みたいな形をしているけど何か入っているのかい?」
「いいえ、ユーリさん。この中には何もありません。振っても揺すってもなんの音もしませんもの」
ユーリにそう聞かれウィルはそのペンダントを振ったり揺らしたりしてみせた。
しかし彼の言う通り、中からは何の音もしなかった。
「本当だね。中には何も無いみたい」
「でも綺麗な形……。リリィこれ好き……」
「女の子はみんなこういうの好きだよね。オイラもコレ好きだなぁ」
リリィはウィルのペンダントを目を輝かせながら見ていた。
ボンズの言う通り女の子が好きそうな見た目ではあるが……ボンズ貴様は女の子ではないだろうが。
人の趣味にとやかく言うつもりはないが、最近新しい扉を開いたばかりなのだからもう少し自重しなさいよ。
そんな微笑ましい様子を眺めていた俺にスカーレットが何やら顔を近づけて耳打ちして来た。
「エル様……あのペンダントなのですが――」
「ん? あれがどうかしたのか?」
「はい。実は私、あのペンダントに見覚えがありまして……」
「なにぃ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまった。
慌ててスカーレットの耳元に寄り小声で話し直す。
「どこで見たんだ? あれは一体なんだ?」
「あれはサキュバスの香りを詰めた壺でして、一時期サキュバスの間で流行ったんですよ。しかもそれを作ったのが……」
「なるほど、香水みたいなものか。だからアレを身に付けているウィルに魔物が寄ってくるのか。それで? アレを作ったのは誰なんだ……?」
「はい、アレを作ったのはエル様のお母様です……」
「なにぃぃ!!!???」
俺はまたしても驚きのあまり大きな声を出してしまった。
スカーレットは耳元で俺が大声を出したものだから耳がキーンとなったのか耳を手でバタバタさせていた。
――あービックリした……。
まさかあの変なペンダントを作ったのは俺の母ちゃんだったのか。
てことはあのペンダントをウィルに渡した綺麗な女の人も俺の母ちゃんなのか?
うーん。会ったこともないしわからん。
ていうか俺の母ちゃんは自分の子供を育てもしないで、どこで一体何をしているんだ?
「すまない、大声を出して。それよりウィルにペンダントを渡したのは俺の母なのか?」
「……断定は出来ませんが恐らくは。エル様を出産なさってすぐ先代魔王様が亡くなられて自暴自棄になっていたお母様は魔王城を出て行ってしまわれたので五年程前にこの辺りにいても何ら不思議ではありません」
――なるほど。そういう事情が……って!
母ちゃんも家出してたのかよ!?
母子揃って家出とかとんだお騒がせ親子だな!?
って自分で言うなよってな。
「そうか。俺はてっきり母も死んだものと思っていたが生きていたのだな」
「えぇ。恐らく今もどこかで生きておられると思います。きっと大丈夫です」
(……チッ。まったくあの女、どこにいるんだか。人に子供を預けてそのまま消えやがって……! 今更返してとか言われても絶対返してやらないんだからな!! エル様は私のものだ!!!)
スカーレットは俺の心中を察してくれたのか心配そうに俺の頭を撫でた。
その後とりあえず俺はペンダントを調べるという口実でウィルからそれを取り上げると、スカーレットに壺の中の香りを吸い出してもらった。
「セリーヌ達の心配する気持ちもわかるけど、ユーリの言う通りウィルを一人にしておくのは危険だよ! だからみんなで一緒にいこ! ね?」
俺は精一杯の子供ムーブを披露した。
するとセリーヌ、リリィ、ボンズの三人は見事に手のひらを返し始めた。
「エルきゅんがそこまで言うならいいわよ。その代わり一度抱きしめさせて?」
「リリィも別にいいよ……。エル可愛いし」
「お、オイラも構わないよ。エル君の頼みなら断れないもんね」
「ありがとうみんな! じゃあブリジアに向かってしゅっぱーつ!!」
「「「「おーー!!!」」」」
俺の掛け声に続きセリーヌ、リリィ、ボンズ、ウィルの四人は声を上げ歩き始めた。
その後ろからトボトボと歩く勇者が一人――
「何でみんなは俺の言う事を聞いてくれないのにエルの言う事は素直に聞くんだよ……。俺、勇者だよね? このパーティーのリーダーだよね? ね? スカーレット?」
――――スカーレットに愚痴を吐いていた。
「まぁそうですね……可愛さの勝利ではないでしょうか?」
しかし彼女はたった一言でそれを一蹴した。
ユーリは呆然とその場に立ち止まり、気が付くと皆との距離が開いていた。
「何それ……? 俺、可愛さで負けたってこと? ちょっ、みんな待って! 置いていかないでくれよ〜!」
こうして俺達は無事にウィルの故郷『ブリジア』へ向けて出発したのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m
これからも本作品をよろしくお願いします!
また、【ブックマーク】と【いいね】と【レビュー】も頂けると嬉しいです( *´꒳`* )
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価をお願いします!
下の ☆☆☆☆☆ ▷▶ ★★★★★ で評価できます。
最小★1から最大★5です。
★★★★★なんて頂けた日には、筆者のモチベーションがぐぐーんと上がります\( ´ω` )/
是非ともよろしくお願いします!




