55話 絶壁姉妹
アルバムの件で数時間、スカーレットに説教をした俺は【瞬間移動】でリリィとアイリスがいる魔王城の敷地内にある別荘へと向かった。
「ったく……。スカーレットに説教してたらもう昼過ぎじゃないか。本当にあの世話係にも困ったものだな」
そんな愚痴をこぼしつつ、俺は久しぶりに来た別荘周辺を散策した。
「懐かしいなぁ。って言ってもここを離れてまだ一ヶ月くらいしか経ってないんだどな」
見覚えのある懐かしい景色を見ながら感傷に浸っていると、どこからともなく『ボガァーーーン!!』と爆発音が聞こえて来た。
「凄い音だな……。あの二人、派手にやってるみたいだ」
そして俺は爆発音がした場所へ向かった。
◇
別荘付近の平地に近付くと、リリィとアイリスの姿が見えて来た。
アイリスは偉そうに腕を組み何やらリリィを怒鳴りつけていた。
その横でリリィはヘロヘロになりながらも必死で魔法を放ち続けていた。
「まだよ、リリィ! そんなのじゃ立派なレディにはなれないわ!」
「はい、姉様……。【アイスロック】……!」
――うわぁ……アイリスの奴、意外とスパルタなんだな。
リリィはもうヘロヘロじゃないか。
ていうかリリィって氷属性の魔法適性もあったんだな。
それにしてもリリィが火属性以外の魔法を使ってるの初めて見たな。
上級魔法の【ファイアダンク】も去ることながら、中級魔法【アイスロック】も凄い威力だ。
辺り一面が一瞬で氷漬けになったぞ。
「はい、次!! 休んでいる暇なんてないわよ!?」
「はい、姉様……! 【ファイアダンク】……!!」
リリィから放たれた【ファイアダンク】は、直前の氷魔法により冷やされた空気を一瞬にして燃え上がらせた。
そしてその温度差によりとんでもない音と威力を伴い、水蒸気爆発を引き起こした。
――これまたとんでもない威力だな……。
これだけの広範囲に被害が及ぶとなると、もはや敵は回避不可能だな。
確かにリリィの課題だった『狙った所に魔法が当たらない』というのは範囲攻撃のおかげでクリアされているのだが……。
その分、味方への被害の危険性も上がっているように感じるのは気のせいだろうか?
んー。ちょっと声を掛けてみるか。
「おーい! リリィ、アイリスー!」
俺は二人の名前を叫びながら純粋無垢な笑顔を振りまきながら駆け寄った。
「あれ、エル。どうしてここに……?」
「僕は修行しないし暇だったからスカーレットに連れて来てもらったんだ!」
「そうなんだ……! いらっしゃいエル……!」
――まぁ嘘だけど。
言霊の能力【瞬間移動】を使って様子を見に来たなんて言えるわけないしな。
それからいらっしゃいは本来、この別荘の主人である俺のセリフなんだけど?
俺が主人であなたが客なんだよ?
俺がホストであなたがゲストなの。Are you OK?
しかしそんな事をリリィに直接言えるはずもなく、俺は淡々と会話を進める。
「うん! お邪魔しまーす! それにしてもさっきの魔法、凄い威力だったね! あれも修行の成果?」
「うん……! うんうん……!」
俺がそう聞くとリリィはとても嬉しそうに目を輝かせていた。
もっと言って、もっと聞いてと言わんばかりの表情を浮かべている。
俺は不覚にもそんなリリィを少し可愛いと思ってしまった。
まぁ別に悪いことではないんだけどね。
しかし少し興奮気味のリリィには修行の内容を説明するのが困難だと判断したのか、横にいたアイリスが話に割って入って来た。
「エル君よく来たわね! リリィには今、魔力量を増やす為にひたすら魔法を放って貰っていた所なの」
「へぇー! そうなんだ!」
――うんうん。リリィの前ではしっかり演技を続けているな。流石はアイリスだ。
それにしても魔力量を増やす為に魔法を放ち続けるか。
魔力を持たない俺には考えつかない発想だな。
でも何で魔力量を増やす必要があるんだ?
リリィの課題はノーコンの修正のはずだろう?
「それにこの子、火属性魔法ばっかり使うからそれしか適性が無いのかと思ってたらまさかの六属性持ちだったの! まぁその中でも上級魔法を使えるのは火と雷だけで、あとは下級か中級だけどね」
「えぇ!? 六属性!? そうだったのリリィ!?」
「うん、えへへ……」
俺が驚いて声を上げるとリリィは頬を赤らめて照れ笑いを浮かべた。
――おいおい六属性って五芒星のシエスタと同じじゃないか!
まぁシエスタは六属性全てを上級まで扱えるぶっ壊れだけど、それの下位互換だとしてもリリィに凄まじい魔法の素質があるのは否定出来ない。
そして羨ましい……。
「でもそんなに適性があるのに、何で今まで火属性しか使わなかったの?」
「うーん、それは……」
俺はそんな単純な疑問をリリィにぶつけてみた。
すると彼女は何やら恥ずかしそうに、モジモジし始めた。
そして隣にいたアイリスが痺れを切らしたのか呆れながら口を開く。
「はぁ……。私も気になったから聞いたのよ。何で火属性魔法しか使わないの? って。そしたらこの子、なんて言ったと思う?」
「……なんて言ったの?」
「『かっこいいから』だそうよ」
「……それだけ?」
「えぇ。それだけよ」
――何だよ、その馬鹿みたいな理由は!?
ふざけんなよ!
雷属性だってかっこいいだろ!!
まぁ一番はそりゃあ火属性かもしれないけど……。
いや、闇属性も捨て難いな。
氷属性だって使いようによっては――
などと異世界に来たせいで再発しかけている厨二病的思考が俺の頭の中を埋めつくしていたところで、話題は次へと移行する。
「でも魔法を放つ時に目を瞑ってしまう癖がどうしても治らないのよね……」
「うん……。姉様に言われて初めて気が付いたけど、癖って意外と治らないね……。なんでだろうね?」
――リリィは何故、まるで他人事の様に言っているのだろうか。
魔法を放つ際に目を瞑ってしまうなんて致命的だろうに。
天は二物を与えないとは正にこの事だな。
いくら魔法の才があっても敵に当たらなければ意味が無い。
でもなぁ。目を瞑ってしまうなんてほぼ反射的な行動だから治しようがないよなー。
これはユーリの斬撃と同様に魔法が飛ぶ方向に俺が敵を誘導するしかないかな……。
「まぁ癖は一度付いたら治りにくいものだし、仕方ないよ! それよりリリィは使える魔法の数と魔力量を増やす事に重点をおいて頑張って!」
「うん……そうする。エルは優しいね。それに比べて姉様は凄く恐いよ……?」
「なっ……!?」
リリィは俺の励ましを受け少し表情を緩ませた。
――が、すぐさまアイリスの方へ目を向け少しばかりの愚痴を吐いた。
「そうなの? アイリスは恐いの?」
「恐いよー? 魔力欠乏症になるまで魔法を撃たせて来るし、休憩もさせてくれないんだよ……」
「ち、違うわよ! その方が魔力量を増やすには効率がいいし、それにあんたが一発ごとに休憩しようとするから止めただけでしょ!?」
「いや、休憩は必要……。寝る子は育つって言うでしょ……?」
「寝る子は育つって休憩って意味じゃないんじゃ……」
リリィは休憩を沢山取りたいが為に、よく分からない理屈を口にした。
俺はそれに思わずツッコミを入れたが、彼女は止まらなかった。
「休憩をもっとよこせー。休憩をしないと成長が止まるー。こんな修行やってられるかー。姉様は厳しすぎるー」
リリィは無表情に、だが熱意を込めて訴えた。
――まるでニュースでたまに見かける抗議運動みたいな掛け声だな。
でもそんな言い分、アイリスには通らないと思うぞ?
それにずっと気になっていたけど姉様って何だ?
アイリスがそう呼ばせているのか?
だとしたら……いいセンスをしている。
俺がそんな事を考えているとアイリスは下を向き震えながらゆっくりと口を開いた。
「あんたねぇ……。黙って聞いてたら好き放題言ってくれちゃってさぁ……! そもそも私が修行を見てあげてるだけでも有難いと思いなさいよね! 私の部下にだってそんなことした事ないんだから! エル君が言うから仕方なくやってるんだからねっ!」
――おぉ、ツンデレのテンプレートみたいな言い回しだ。
やはり赤髪ロング美少女のツンデレは乙ですな。
感謝感謝――
「だからリリィは初めからスカーレットにお願いするつもりだったんだよ……。スカーレットの方がおっぱいあるし……」
「今は胸の事は関係ないでしょ!?」
「リリィは大っきい方が好き……!」
――リリィ……何という言葉を口走るんだ……。
世界中のおっきいお友達が喜んじゃうだろ?
「リリィ、あんた……。少し痛い目を見ないとわからないようね……」
「姉様、何する気……?」
「これからは実戦形式で修行してあげるわ!! いくわよ……!!」
そう言うとアイリスはリリィに突撃していった。
リリィは初手を上手くかわしたが、アイリスは手を緩めない。
その後リリィはアイリスの攻撃で吹き飛ばされてしまった。
「ふんっ! あんたもまだまだね!」
「姉様……よくも……! 【アイスロック】……【ファイアダンク】……!」
吹き飛ばさたリリィはアイリスを睨み付けながら連続で魔法をぶっぱなした。
俺は咄嗟に【魔法防御障壁】を張りソレを防いだが、アイリスはもろにソレをくらう。
「……ったいわね! いい加減にしなさい!!」
「姉様こそ、小さいくせに……!!」
そして二人はその後も暫くの間、実戦形式――いや、ほぼ喧嘩のような修行を続けた。
俺はその間にそっと別荘の中へと入り、仮眠をとることにした。
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