52話 新たな存在と課題
ユーリの修行を開始した翌朝――――
俺が目を覚ましボンズがいない事を確認すると、いつもの様に女部屋を覗きに行った。
するとそこには誰も部屋におらず、どうやら二人は既に出掛けた後で、リリィはシーツが整えられているままだった事から、昨日から帰ってきていないようだった。
そして俺が男部屋にユーリはアホ面を晒して眠りこけていた。
「おい、アホ勇者。起きろ!」
「ふぎゃあ……!?」
俺はユーリの上に飛び乗った。
するとユーリは驚いた様子で声を上げた。
「俺は今からセリーヌとボンズの様子を見てくるからな。貴様もちゃんと起きて修行をしているのだぞ? わかったな?」
「ん……ふぁーい……」
俺がそう声を掛けると、ユーリは目を瞑りながら気の抜けた返事をした。
俺はそんなユーリの上から、深くため息をついて降りると身支度を整え宿を後にした。
ひとまず俺はセリーヌ達の行き先を調べる為、ギルドへと向かった。
ギルドでマッゾ達が受けたクエストを確認し、行き先を特定する為だ。
決してあのお姉さん達に会えるかもなどという邪な考えではない。断じてない。
◇
ギルドへ到着すると、俺は受付嬢に声を掛けた。
「あのすみません。少し調べて欲しい事があるんですけどいい?」
「あら、僕どうしたの? 調べて欲しいこと? 何かな?」
受付嬢は優しい口調でにこやかに接してくれた。
童貞ゆえにこれだけでもこの人を好きになってしまいそうだ。
まったく……女性は誰彼構わず優しさと愛想を振り撒くのはやめて欲しいものだ。
俺を勘違いさせないでくれ……。
「僕? どうかした?」
俺がそんな事を考えていると、受付嬢は心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「あ、ごめんなさい! 少しボーッとしてて……!」
「大丈夫? それで? 調べて欲しい事って何かな?」
「えっとね、マッゾさんとサディさんが受けたクエストを教えて欲しいんだ!」
「マッゾさんとサディさんが受けたクエストを? ……わかったわ。少し……待っててね?」
受付嬢は不思議そうな顔をしながらも、彼らが受けたクエストを調べ始めた。
そして暫くその場で待っていると調べ終わったのか受付嬢は俺の方へ向き直り口を開いた。
「わかったわよ。えーっとね。あの二人が受けたクエストは三つで、昨日二つ達成しているから残っているのはこのクエストね」
「ありがとう! お姉さん!」
俺は受付嬢に礼を言い、彼女が差し出してくれたクエスト依頼書の写しを受け取った。
――えっと、なになに……?
街の東側に出た海に出没した……クラーケンの討伐!?
この世界、クラーケンなんかいるのか!?
それって確か海に住むイカの怪物だよな……?
セリーヌとボンズのやつ、大丈夫か……?
「ねぇ僕? あの二人の受けたクエストを調べてどうするの?」
「実は今日その人達に僕の知り合いが二人ついて行ってるんだ。僕はその二人に用があって――」
「そうなのね! それで? 二人の行き先はわかった?」
「うん! わかったよ、ありがとう! それより……」
そして俺は再度その受付嬢に礼を言い、気になっている事を尋ねてみることにした。
「それよりクラーケンって本当にいるの?」
「いるわよー? すーっごい大きなイカみたいな怪物なのよ? 僕の事なんか一口で食べられちゃうかもよー?」
受付嬢は身振り手振りでクラーケンの大きさを表現し、俺を怖がらせようとしていた。
――これは俺も子供らしく乗っかった方がいいのか?
子供にスルーされるのって意外と恥ずかしかったりするよな。
俺も前世でそういう経験があるし、ここはこのお姉さんに恥をかかせない為にも怖がったフリをしてあげよう。
「ひぇぇぇ……。怖いよぉ……! そのクラーケンって魔物なの?」
「……僕、本当に怖いと思ってる? まぁいいや……。クラーケンは魔物じゃないよ。あれは災害っていう分類なの」
「災害?」
俺はこの時初めて『災害』という言葉を耳にした。
勿論前世での災害の意味は知っているが、この世界での災害の意味は知らなかった。
「そうよ。魔族に属さず、分類されない。そして人間に害をもたらす怪物の事をそう呼ぶの」
「へぇー。そうなんだ! 知らなかったや!」
「お姉さんはこう見えて意外と博識なんだよっ!」
俺は実際に驚いたからそういう反応を見せた。
すると受付嬢は自慢げに腰に手を当て胸を張った。
――なるほど、災害ってそういう事なのか。
なら冒険者達は弱い魔物の討伐もするだろうが、それよりもこういう災害の対処の方が多かったりするのかもしれないな。
「へへ、すごいね。それよりマッゾさん達はそのクラーケンを倒せるのかな?」
「んー。どうだろうね? でもあの二人はこの街で唯一のS級冒険者パーティーだし、昨日もワイバーンの群れの討伐とオーガ及び、群れのリーダーの討伐のクエストを達成しているから実力は申し分ないはずだけど。倒せるかどうかはその時次第ってとこかなっ!」
「え、一日でそんなクエストを二つも!?」
「そうよ? まぁそんなことが出来るのも、この街ではあの二人だけでしょうね」
――そんなに強いのか、マッゾとサディは……!
にしても、ワイバーンにオーガってそこら辺に普通にいるもんなんだな。
ここまで旅をしてきて道中で魔物に遭遇していなかったのは、恐らく辺りの魔物をヤラカスやカマセーヌが集めてワープさせていたからだろうな。
ていうか、意思なき魔物達は統率がとれない分、そこら中にいて人間達を気まぐれに襲っていて、そいつらが魔族に属している以上、それらを纏めて管理していかないといけないんじゃないか?
それも魔王である俺の仕事なのでは?
…………またやることが増えた。
魔人だけでも手一杯だというのに、意思なき魔物までなんて……。
冒険者達がそれなりに仕事してくれてるとは思うがそれだけではキリがないし、それよりも根本の問題を解決してその魔物達を統率出来た方が絶対にいいし、効率的だよな。
はぁ……それもまた考えるか。
「ありがとう、お姉さん! じゃあ僕そろそろ行くね!」
「あ、僕待って……!」
俺は意思なき魔物について考えるのをとりあえず後回しにし、セリーヌ達の元へ行こうと受付嬢に三度目の礼を言った。
すると彼女は立ち去ろうとする俺を呼び止めた。
「どうしたの、お姉さん?」
「あのね、その……マッゾさんとサディさんは確かに強いわ。このギルドでは随一、世界的に見てもトップランカーだと思う。でも――」
「でも?」
俺が振り返り向き直ると、受付嬢は何やらバツの悪そうな顔で俺の事をじっと見つめた。
そして俺はその表情から不穏な空気を感じ取った。
――何? やめてよ、そういうの。
怖い怖い、何?
あの二人実は魔族なの。とかいうオチ?
それなら別にいいんだけど……。
すると受付嬢はそのままゆっくりと口を開いた。
「でもあの二人の戦闘はその……色々と特殊で。強いのは間違いないのだけれど、ちょっと……。あまり僕のような子供が見る様なものではないかなって……」
――何だ、子供が見る様なものではない戦闘って?
………………あ、マッゾの特殊な癖の事か?
でもマッゾが喜んで敵に突っ込んで行く分には前衛として上手く機能しているし、別に大して――。
……え、ちょっと待てよ。
このお姉さんは子供に見せられないと言った。
つまりマッゾの特殊な癖だけではないということか?
ということはつまり……まさか! サディってその……アレの事か!?
俺……セリーヌの修行相手、サディにしちゃったよ……!?
もしそうだとしたら、こうしちゃいられない……!
早く奴らの元へ行かないと。
俺は大変な間違いを犯してしまったのかもしれない。
俺は受付嬢は不安そうな顔をしっかりと見つめ笑顔で話を始めた。
「大丈夫! そんなのは全然気にしないから! じゃあ僕行ってくる! 色々教えてくれてありがとう!」
「そ、そう……? 君が気にしなくても周りが良くないと思うのだけれど。まぁいいわ……。行ってらっしゃい! 気をつけてねぇー!」
そして俺は手を振って見送ってくれている受付嬢に手を振り返しギルドを後にした。
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