51話 勇者の修行②
ユーリがようやく剣の振り方を学んだところで、修行は第二段階へと移行する。
「よーし。剣の振り方がわかったのなら次は実戦形式での修行にするぞ」
「実戦? 敵なんていないのにどうやってするの?」
「修行なのだから敵がいなくても、相手さえいれば良いだろう。俺が相手をしてやるからさっさとかかって来い」
「いやいや無理だよ! いくら修行とはいえ、エルに剣を振るうなんて俺には出来ない! それにそんな事したら、うちの女性陣からの反感が…………」
ユーリは俺に剣を振るうとスカーレット達が怒るのではないかと危惧していた。
まぁ実際見ていたら何かしら言うだろうが、幸いにもこの場に彼女達はいないし、俺が口を割らなければバレることはないだろう。
「それは大丈夫だ。ここには俺達以外誰もいない。俺は勿論言わないが、貴様が余計な事を言わなければ誰にもバレる事はない。国王との謁見の時の様にな……」
「う……。それは思い出したくなかったよ……」
――そりゃあそうだろ。
あんなブチ切れたデカいおっさんだぞ、誰だって恐いに決まってる。
俺には野生の虎や獅子の様に見えた。
いつでも襲いかかって来そうな、そんな殺気や迫力を感じた…………って!
「今はそんな事どうだって良いだろ!! いいからさっさとかかって来い!」
「えぇー!? 何をまた急に怒ってんのさ!? みんなといる時と二人の時の印象が違いすぎるよ……!」
「そんな事ないだろ。別に普通だ」
「普通ではないと思うよ!?」
「あぁ、また話が脱線している……! このままでは修行にならんだろうが! それとも何か? 勇者のくせに一人だけ他のメンバーに実力でおいていかれてもいいのか? 勇者のくせにパーティーのお荷物になりたいか?」
「く……くそう……。それは……嫌だな」
俺がそう挑発するとユーリは露骨に嫌そうな顔をした。
というより、俺に嫌な所をつかれて悔しいといった様子だった。
「嫌だろう? ならさっさとかかってこい」
「くっそぉー!! 怪我しても知らないからねっ!!」
ユーリはそんな事を叫びながら剣を振り上げ一直線に俺に向かって来た。
「ふん。心配するな。貴様の様なへっぽこ勇者に俺が怪我をさせられるなど、万に一つも有り得ない」
「な、なにぃー!? 馬鹿にしやがってー!」
俺は自分が怪我をする心配など微塵もしていなかった。
「当たり前だろう? 不意打ちならまだしも、目の前に真っ直ぐ向かって来るものを受け流す事など、造作もないわ。朝飯前だ、いや……前日の昼飯前だ!」
俺はそう言うと振り下ろされた聖剣をサラリと軽く避けてみせた。
「ぐっ。本当に避けられた……。ていうか、もうそれ何言ってるかわからないよ……。それに昼飯前って、それはもう朝飯後じゃん!!」
ユーリはこんなにもアホなくせに的確なツッコミを入れてきた。
そして俺達は再度向かい合い、ユーリは再度聖剣を構えた。
「…………ふ、ふん! 勇者のくせになまいきだぞ……!? いいからもっとかかって来い!! そんなものでは魔王は倒せないぞ!」
「あ、話を逸らした。……くっそぉー! わかったよ! 俺も本気でいくからねっ!!」
――――それからというもの。
数時間に渡りユーリは俺に向かって聖剣を振り続けた。
そして俺はそれを全て避けてみせた。
「おりゃ! えいっ! とりゃあ!!」
「おいおいどうした、勇者とはそんなものか? 全然当たらないじゃないか? まだ俺に怪我をさせてしまうのではなどと思っているのなら、いっその事、俺を魔王だと思え!」
「えー!? 無理だよそんなの! エルは魔王じゃないじゃん!」
「いや、俺は魔王だ!!」
「違うでしょ!!」
「俺は魔王だァァァァ!!!」
「ちがァァァァう!!!」
そんな言い合いも織り交ぜつつ、俺はユーリに剣を振らせ続けた。
結果、最初の頃より少しはマシになったが、それでもユーリの実力は素人に毛が生えた様なものにしかならなかった。
王国騎士クラスなら割り箸でも倒せそうなレベルだ。
「はぁはぁ……。くそっ。全然当たらない……。何で!?」
「貴様は馬鹿正直過ぎるのだ。そんな一直線に斬りかかって来たら、子供だって避けられるぞ?」
「エルだって子供じゃん」
「だから子供だって避けられると言っているだろうが」
「……っ!」
俺がユーリの攻撃の単調さを指摘すると、彼は子供のように屁理屈を言った。
そして俺はそれを一蹴した。
するとユーリは悔しそうな表情を浮かべて、声にならない声をあげた。
「ふんっ。ぐうの音も出ないとは正にこの事だな!」
「ぐぅ……」
「言われたからって出さんでいいわ!」
「むぅ……。でもどうやったらいいのか全然わからないよ」
「そうだな……。例えばフェイントを織り交ぜてみるのはどうだ?」
俺は行き詰まったユーリにヒントを与えた。
これで何か気付いてくれるといいのだが。
「フェイントって?」
「要は斬り掛かるフリをして、それを囮に使う。その攻撃に相手が反応を見せたら、その隙に次の攻撃を入れるのだ」
「なるほど。それなら相手は不意をつかれて反応出来なくなるもんね!」
俺の説明がわかりやすかったのか、ユーリはすぐに理解してくれたようだ。
――おぉ! これは上手くいったのではないか!?
この調子でユーリがフェイントを覚えたら、もう少しマシになるぞ!
……そう思っていた時期が僕にもありました――
「おぉそうだ。今ので理解したのか。簡単に言うと相手を騙すという事だな!」
「相手を騙す……?」
俺がそう言うとユーリは何故か怪訝な表情を浮かべた。
「……? そうだ。上から斬り掛かると見せかけて相手を騙す。上手く騙せたらその隙を狙うのだ」
「それって詐欺じゃん……」
「へ……?」
そしてユーリはまたしても訳の分からない事を言い出した。
「さ、詐欺……? 何がだ?」
「いや、だって上かなー? と思わせて実は下でしたー的な事でしょ?」
「そうだが……?」
「それってシギサさんが俺達にした、回復薬かなーと思わせて媚薬でしたーっていうのと一緒じゃん! 詐欺だよそれ! 詐欺!!」
何を言い出すのかと思えば……。
なんだそういう事か……。
コイツは普段はどうしようもないアホなくせに、何でこういう時だけそんな深い所まで考えて真理に辿り着くんだよ。
「このアホ勇者!! 相手もフェイントは使って来るのだから、貴様も何も考えず使えば良いのだ!」
「詐欺はダメ! 絶対!!」
ユーリはそう言うと不満顔で腕を交差させ、バツ印を作った。
「あのなぁユーリ。貴様はただでさえアホで弱いのだからフェイントくらい使えないと本当に相手に一撃も与えられず死ぬ事になるぞ?」
「詐欺をするくらいなら死んだ方がマシだよ!」
俺は何とかユーリを説得しようと試みるも、全く聞く耳を持ってはくれなかった。
これが勇者に選ばれる人間の正義感というやつなのだろうか。
そして俺はフェイントを教えるのを諦めた。
「はぁ……強情な奴だなぁ……。もう良いわ。それならもうフェイントは諦めて一撃の威力を上げる事にするか?」
「うん! そうしよう! 一撃が強い方がカッコイイしね!」
「まぁカッコイイかどうかは知らんが、剣を直接当てられないのだから斬撃くらいは出せる様にならんと話にならんからな? それと貴様と違って相手はフェイントを使ってくるのだからフェイントのパターンは頭に入れておけ?」
「うん! わかった!!」
――本当にわかっているのかこいつは……。
まぁ何とか斬撃が出せる様になれば、その方向に向かって俺が敵を誘導すればいいだけだし、もうそれでいいか……。
俺は半ば投げやりになりながらもあと半日、ユーリに聖剣を振らせ続けた。
そして修行はあと数日続くのだが、正直素振りくらい俺が見ていなくても出来るだろうと判断し、翌日から俺は他のメンバーの様子を見に行く事にした。
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