47話 修行相手①
ウザい男を片付けたアイリスとそれに立ち向かったボンズにギルド中から歓声が巻き起こった。
するとそこへ一人の男冒険者が迫って来た。
「おい、そこの木偶の坊。お前、女に窮地を救われて何をヘラヘラ笑っているのだ?」
突然声を掛けてきたその男の言葉はとても辛辣なものだった。
「は、はい……?」
ボンズはまた萎縮し始めた。
その証拠に目線は斜め下を向き、姿勢は猫背になっていっている。
しかし男はお構い無しに話を続ける。
「女に助けられて浮かれるなと言っているのだ。男だったらどんな敵が相手でも一人で立ち向かうものだろう!」
「ふ、ふぁい……!」
弱々しい返事をするボンズに対し、はっきりと自分の意見を主張するその男はとても堂々としていた。
内から出る迫力や自信の様なものも凄まじいが、何と言ってもその外見。
褐色の肌にスキンヘッドで凛々しい目をしている。
体格も身長こそボンズには劣るが体格は申し分無い。
正しく歴戦の戦士、屈強な冒険者というところだろう。
――ていうかこの男……。
言っている事は辛辣だけど、絶対良い奴じゃーん!
冒険者で屈強な体格のハゲは全員良い奴って恐竜の時代から決まってるんだよなぁー!
というわけでここは暫く様子を見る事にしよう。
「ご、ごめんなさい……。オイラが弱いから……」
「うじうじするな!」
完全に気圧されたボンズは何故か男に謝罪を始める。
そしてまた叱られる。
ボンズは更に縮こまってしまった。
男の迫力のせいなのか、はたまた言っている事が正論だからなのか、ボンズに味方する者は誰一人として現れる事はなかった。
しかしそこへ一人の女性が現れた。
「マッゾさーん、お待たせしましたぁー……ってこれ何の騒ぎです?」
「おぉサディか。遅かったじゃないか」
女性は両手に沢山の書類を持ち、屈強なハゲに声を掛けた。
どうやらクッハゲの名前はマッゾというらしい。
そしてマッゾの返答から察するに彼女はサディというのだろう。
――そしてこのサディという女性。
ふわふわとした雰囲気と長い茶髪に黒縁メガネ。
そして何と言ってもその豊満なおっぱ――胸。
どんな辛いことがあっても優しく包み込んでくれそうな……そんな感じがする。
例えるならそうだな。いくつになっても子供扱いしてくる近所の歳上のお姉さんといった感じか。
「遅かったってマッゾさんがクエスト依頼書を取れるだけ取ってこいって言ったんじゃないですか……。それよりこの人、完全に萎縮しちゃってますけど何があったんです?」
サディは見た目通り優しい人なのかボンズが萎縮してしまっている事に気付き心配そうにしていた。
「いやな、この男があまりにも勿体ない事をしていたのでな。つい声を掛けてしまったのだ」
「勿体ない……? マッゾさんまさかあなたまた……?」
マッゾの言葉を聞きサディは怪訝な表情を浮かべた後に辺りを見回した。
それは今の状況を把握しようとしているものだと容易に理解出来た。
――ん?
サディって人、マッゾの話を聞いて急に様子が変わったぞ?
しかも『あなたまた』って。
どういう事だ?
俺が思案しているとサディは状況を把握したのか、ゆっくりと口を開いた。
「なるほどですね……。ヤッカムがまた新人イビリでもしてたんですね。そしてそれを見ていたマッゾさんは我慢出来なくなって声を掛けたと……」
「違う! 俺は最後まで我慢して見守っていたのだ! でもこのボンズという男……最初はいい感じだったのに、途中でキレてしまってな。それで終わってしまったのだよ……」
サディは鋭い観察眼で状況を把握したが、どうやら結末だけを間違って解釈してしまっているようだった。
そしてマッゾはその部分に反論し、よくわからない事を言い始めた。
――あれれー? おかしいぞー?
なんか雲行きが怪しくなって来てないか?
マッゾが我慢出来なくなってってどういう事だ?
それにさっきの勿体ない発言も気になる……。
あと、あのウザイ男。
ヤッカムって言うんだな。
サディの口ぶり的によく新人冒険者をいびっていたのだろうな。
これまた如何にもな名前してやがる……。
俺がそんな事を考えているとサディはため息をついて頭を押さえ始めた。
「はぁ……。マッゾさん、あなたの外見は恐いのですからもう少しその事を理解して自重して下さい」
「だがサディよ。あれはさすがに勿体ないではないか。もっと粘ればあと数時間は――――」
「――――後、その虐められたい願望も! 自重して下さい?」
「嫌だ! これは俺のアイデンティティなのだ! 自重などせん!」
「はぁ…………」
マッゾの言葉を受けサディは更に頭を抱え、深いため息をついた。
するとこの状況を黙って見ていたギルド内にいた他の冒険者達も次々とその場を離れていった。
「何だ。マッゾが珍しくまともなことを言っていると思ったらいつもの発作かよ」
「サディも大変だなぁ。唯一のパーティーメンバーがあのいじめられたい症候群のドMだからなぁ」
「ほんとだよな。でもまぁ強さだけは本物なんだよな。このギルドで唯一のS級だしな」
――あぁ、マッゾってそういう事……?
だからアイリスに助けられたボンズに怒ったのか。
それ故のさっきの発言なのか……。
ていうかあの強面でいじめられたい願望があるってどうなのよ……。
でも他の冒険者達も認める程の実力はあるみたいだな。
このギルドで唯一のS級冒険者……。
性格にはやや難があるけど、これはボンズの修行相手にはもってこいなんじゃないか?
そして俺は意を決してマッゾとサディに声を掛けた。
「あのすみません。マッゾさんとサディさん」
「ん? どうした坊主? 子供がこんな所に来てはいけないじゃないか。ここは荒くれ者の溜まり場みたいなものだ。子供の教育に良くないぞ?」
「一番教育に悪いのはあなたですよ、マッゾさん……。それで? どうしたの僕? 私達に何か御用?」
「はい。実は僕、修行をつけてくれる師匠を探していて……」
「修行だと!?」
「師匠!? これまたこんなにまだ小さいのにどうして?」
俺の目的に二人は驚いた表情を見せた。
しかし俺はあえて馬鹿っぽく、子供ムーブを続ける。
「あ、修行をつけてもらいたいのは僕じゃないんだ! でもその前に……。二人のジョブを教えて欲しいな!」
「……? 私達のジョブ? 一応私はヒーラーだけど、見ての通りパーティーメンバーは私達だけだから、付与魔術も使うかな?」
「俺は前衛全般だ。盾にもなるし矛にもなるぞ? まぁパーティーメンバーが揃っていれば、俺はタンクだろうなぁ」
――よしよし。
サディはヒーラーで付与魔術も使えるし、マッゾは前衛全般という事はタンクの役割も担っているのだろう。
これはこの二人に決めるしかないな!
てかマッゾの奴……自分がタンクになって敵の攻撃を受ける想像をしながらにやけないで欲しいな。
「マッゾさん。何をにやけているのですか? 子供に悪影響でしょう? 自重して下さい」
「……あぁ、すまん。それで、坊主。俺達に修行をつけてもらいたい奴ってのはどいつなんだ?」
「あそこの二人です! ボンズ! セリーヌ! こっち来て!」
俺はマッゾとサディにそう言うと、ボンズとセリーヌを呼んだ。
すると二人は足速にやって来てぺこりと頭を下げた。
「セリーヌです。よろしくお願いしますわ」
「お、オイラはボンズです……。よろしくお願いします……」
「え、いきなりよろしくって私達まだ了承してないのだけれど?」
サディは二人に突然頭を下げられ戸惑いを見せた。
「まぁいいじゃないかサディよ。若い子らを育成するのも、俺達ベテランの役目だ」
しかしマッゾは意外と乗り気な様で、サディを窘め俺達の後押しをしてくれた。
「いや、私まだ二十代なんですけど!?」
「二十代って言ってもあと一年もすれば三十じゃないか! ハッハッハッ!」
「マッゾさん……?」
「おぉ? 怒るのか? 俺に暴言を吐くのだなぁ? 良いぞ? ドンと来い!」
「はぁ……もういいです」
マッゾとサディが夫婦漫才の様な息の合った問答を繰り広げている内に、俺は【鑑定眼】を使い二人のステータスをチェックした。
――くぁー。二人とも能力値えげつないくらい高ぇー。
コイツら本当に人間か?
……これは二人にとっていい修行になるぞ。
そして俺は次にセリーヌとボンズのそばへ行き声を掛けた。
「セリーヌ、ボンズ! あの二人、この街で唯一のS級冒険者らしいから相当強いと思うよ! あの人達に修行してもらえばきっと強くなれるね!」
「そうね、エルきゅん。お膳立てありがとう。今日も可愛いわ……」
「エル君ありがとう。オイラも頑張って強くなるからね!」
そして俺は二人にニコリと笑いかけ頷いた。
その後セリーヌとボンズは修行として、サディとマッゾが受けたクエストに同行する事になる。
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