37話 人間を襲う理由
――さてと。あとはコイツらに今後何をさせるかだな。
しっかり反省しているとは思うけど、ヤラカスの時みたいな事もある。
放っておいたらまた人間に危害を加えかねない。
ましてや、アイリスは五芒星だ。
今回戦闘にならなかったから良かったけど、恐らく普通に強いだろうし、うちのアホ勇者なんか瞬殺だろう。
そんな事を考えていると何かに謝り続けていたアイリスは正気を取り戻し口を開いた。
「あの……魔王様? 私達はこれから一体何をすればよろしいのでしょうか? このまま魔族用の回復薬の作成という事で良いのでしょうか? ……も、勿論、これからは私も働きますし、この子達にお金も休みもあげますよ!?」
「うぬ。それよりも先に少し聞きたい。アイリスよ。貴様は何故人間と争いを続けるのだ?」
俺はアイリスに率直な疑問を投げかけた。
魔族は執拗に人間を滅ぼそうと躍起になっている。
それは先代魔王がそう命じたからなのか、それともそれぞれに何か理由があるのか。
どちらにしろ、それがずっと気になっていた。
「それが魔王様のご意志だからです」
アイリスはとても真面目な顔で俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「そうか。なら貴様はどうなのだ? これからも貴様は俺の意思に従い人間を襲うのか? そこに自分の意思は無いのか? 反対に、もし俺が人間を襲うなと言えば貴様は人間を襲うのを辞めるのか?」
するとアイリスは一度目を伏せ、もう一度俺を真っ直ぐに見つめなおすと、話を始めた。
「辞めない……。辞められない……です。――――他の魔族が何を思い、何を考え行動しているのかはわかりません。ですが私は、私個人としては……生きる為に人間を襲います。勿論そこに魔王様のご意志に従うというところもありますが……」
「「…………ゴクッ」」
((こんなアイリス様、初めて見た……。いつもは傲慢で高飛車なお嬢様なのに、今日は何だかしおらしいよ……))
「生きる為に人間を襲うとはどういう事だ?」
アイリスは自分の意見をしっかりと言葉にして伝えてくれた。
そして俺が彼女に更なる問いをなげかけると、そのままの表情で話を続ける。
「私は吸血鬼ですから、人間の血を毎日摂取しなければ死んでしまうのです。なので私は時折、人間の街を訪れ人間を襲っています。そしてそれは私だけではなく、眷属達を生かす事でもあるのです。眷属達には私が血を分け与える事が出来るので、私さえ血を摂取していれば、私も眷属達も生きていけるのです」
――なるほど、そういう事か。
吸血鬼の頂点と聞いてどんな高飛車で傲慢なツンツンお嬢様かと思えば、案外しおらしくて部下想いの良い奴じゃないか。
でもこれってアイリスは人間の血さえあれば人間を襲わなくなるって事だよな?
言霊の能力を使えば人間の血なんていくらでも発現させられるけど……。
もし俺が人間の血を与えれば、アイリスはこれから俺の言う事聞いてくれたりするのか……!?
「そうか。貴様が人間を襲う理由はよくわかった。ならば俺が人間の血を与えてやろう」
「そ、そんな……! 魔王様の手を煩わせる訳には……!!」
「なに、心配するな。別に一言唱えるだけで事足りる。さほど体力も使わん」
「……? そ、そうなのですか……? では有難く頂きます」
俺の言霊の能力を理解していないアイリスは何を言っているのかわからないといった様子でポカンとしていた。
「俺が血を与え、人間を襲うなと言えば、貴様は今後、人間を襲わないと誓えるか?」
「はい……誓います……」
「良かろう。…………はっ! ――――では目を閉じよ」
「はい……」
俺はアイリスに人間を今後襲わない事を約束させ、とある事に気付き、そう命じた。
するとアイリスは色白で目鼻立ちがくっきり整った綺麗な顔をこちらに向け、目を閉じた。
まるで愛する人からの口づけを待つ女性の様に。
――うわぁー! まるで結婚式みたーい!
こんな可愛い子の、『誓います……』からのキス顔とか堪らん……!!!
これがやりたくて目を閉じさせたんだよ。
いやぁ、可愛い……。
って言ってる場合か……!!
俺にはスカーレットという理想のお姉さんがいるだろうが!!
今はヌルヌルであられもない姿だが……。
とにかく今は、早く血を発現させてやらないと。
でも実際どれくらいの量を出せばいいんだ?
その時、俺の頭の中にとある懐かしのコマーシャルが流れ始めた。
"食は王○にあり。
豚肉一日七千キロ、卵一日五万個、 鶏肉三千キロ、餃子一日百万個。食は万里を越える!
バーーン! 餃子の王○"
「餃子一日百万個……。――――【医療用輸血パック百万個 発現】!!」
俺はそう唱え、医療ドラマなどでよく見かける輸血パックを百万個発現させた。
「もう目を開けても良いぞ。どれ程の量が必要かわからなかった故、とりあえず百万個だが……これで足りるか?」
俺がそう問いかけるとアイリスは目を輝かせ、目の前に散らばった輸血パックを眺めていた。
「凄い……! こんなに沢山……!?」
「足りなくなればまたいつでも言うのだぞ?」
「足ります足ります……! ていうかこんなに出されても置き場所に困るんだけど……」
アイリスは俺には聞こえない程の声量で何やら言葉を発した。
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ! ありがとうございます……! 私はこれからもより一層、誠心誠意、魔王様にお仕え致します……!」
アイリスはそう言うと膝をつき、深く頭を下げた。
「そうか。ならば一つ頼みたい事がある」
「はっ。何なりと」
「これからは人間用の回復薬を作れ。そして人間達にそれを売るのだ。魔族用を作ろうとしていたのなら出来るだろう?」
「はい、それは可能ですが……でも何故です?」
俺が人間の為の回復薬を作れと命じると、アイリスは疑問を抱いた様子で怪訝な顔をした。
――何故だって……!?
そんなの考えてなかった……!
ただ、危険な媚薬とか、争いの為の魔族用の回復薬とかよりは、人間と仲良くなる為のきっかけになるかなーって思っただけなのに……!
「ふんっ……。五芒星のアイリスともあろう者が、俺が全てを説明してやらんとわからんのか……?」
俺は具体的な事を何も考えていなかったとバレないように何とか誤魔化すと、アイリスは少し思案した後に淡々と考察を展開した。
「…………あっ! なるほど! 我々が良質な回復薬を製造し販売する事で市場を独占し、ゆくゆくは人間達にとって我々魔族がなくてはならない存在となり、我々の優位性を保ちつつ世界を裏から支配する。そういう事ですね!」
「あ、あぁ、そうだ!」
――凄いな、魔族の想像力は……。
回復薬を作って売れと言っただけで、ここまで飛躍した話になるのか……。
ていうか、そこまで考えられる頭があるなら少しは俺の言う事を聞けよ……!?
俺が心の中でそう叫んでいるとアイリスは続けて口を開いた。
「流石は魔王様です。愚かな私共は、武力で支配する事ばかり考えておりました。まさかこんな形で人間族を手中におさめようとお考えだとは……。これならば同族の民が傷付く事もなくなりますわね」
「そ、そうだろう? 俺は偉大なる魔王であるぞ?」
「はっ……! さすが魔王様。感服致しましたわ……!! 」
俺は何も考えていなかった事がバレない為にも必死で魔王ムーブを続けた。
――でもまぁ、これでアイリスが人間を襲う事は無くなるだろうし、とりあえず武力による殲滅って考えを持つ者が減るだろう。
…………だよな?
俺が自問自答をしていると、アイリスは立ち上がり口を開いた。
「それでは早速、回復薬の製造に取り掛かって参ります……! ほら、アンタ達! 仕事よ! 私は魔王城から他の眷属達を呼んでくるからそれまでに必要な物を準備しておくのよ!」
「「はぁーい! アイリス様ぁー!」」
アイリスの呼び掛けにケシカとランナは元気良く返事をし準備に取り掛かった。
そしてアイリスはワープゲートを開き、魔王城へ眷属達を呼びに戻って行った。
◇
「ふぅ。とりあえずはこれで一件落着かな……」
俺がそう呟くと、放置していたシギサが俺の目の前に来て膝まづいた。
「魔王様のお考え、素晴らしいと思います……! このシギサ、魔王様のお力になれるよう全身全霊で頑張らせて頂きます……! それでは私も早速販売ルートの確認をしに――――」
「あれ、シギサまだいたのか? ていうかそんな魔人丸出しの顔で外を出歩くなよ? 変身魔法も使えないのなら大人しくケシカとランナを手伝え」
「そ、そんなぁ……。魔王様ぁ……」
シギサはその場に項垂れた。
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