3話 転生特典
スカーレットの言葉で一瞬にして冷静さを取り戻した俺はその場に座り込んだ。そして話がしやすいようにとスカーレットも目の前に座らせた。
「スカーレット。何故魔族は人間を滅ぼそうとする? 何故争う?」
俺がそう問うとスカーレットは淡々と話を始めた。
「それは先々代魔王様が人間の王と談笑している際に、些細な事から仲違いしてしまい、遂には種族間での争いにまで発展してしまったと聞いております」
「そうなのか。で? その些細な事とは一体なんだ?」
「はい。それがですね……『どちらの方が女にモテるか』という話らしいのです」
「……はぁ?」
――くだらねぇーーーーー。
魔族と人間族の争いの発端めちゃくちゃくだらねぇー……。
さては先代魔王と人間族の国王って超ド級のアホだろ な……?
「そんなくだらない事の為に未だに争い続けてるのか?」
「そうでございます。もうかれこれ五〇〇年になります」
「あーそう。バカすぎだろ……。もうなんかどうでもいいわ……。わかった。もう下がっていいよ」
「承知致しました。では失礼致します」
(呆れ顔の魔王様……なんと儚げな……。抱きめしたい……!)
そう言うとスカーレットは、初めこそ俺の態度に疑問を抱いていた様子だったが何も言わず、深々と頭を下げ部屋を出て行った。
◇
その後俺は部屋で一人今後について考えていた。
――うーん……どうしようか。
とりあえずこの無意味な争いを辞めさせないといけないんだけど、そもそもこの二つの種族って今何で争ってるのかわかってるのか?
スカーレットは誰かに聞いて知ってたみたいだったけど。
ていうか勇者とかもいるんだっけか。
てことは後々勇者は、パーティーとか組んで色んな冒険をしながら魔王城まで攻めて来るんだろうなー。
俺そっちがよかったわー……。
まぁそんな事は『もう遅い』と言わんばかりに置いといて……。
とにかく今後の為にも、俺自身が一人で戦えるくらいには強くならないとな。
争いを止めようとしたら魔族からの反発もあるかもしれないし、人間達を力ずくで止めたりすることもあるだろうしな。
そう考えた俺は生後一ヶ月という利点を活かして修行する事にした。
――まぁ修行と言っても魔法の本を読み漁って試してみたりしか出来ないんだけど。
師匠とかいないし、スカーレットの言いつけでこの部屋から出してもらえないし……。
でも修行する事は認めてくれたようで俺が読みたいと言った魔法の本を全て部屋に持って来てくれた。
部屋で一人でいてもやる事もないし、本は山のようにあったから俺の修行は捗る捗る! ――――と思っていた時期が俺にもありました。
◇
「えーっと? 魔法を使う際は身体の中の魔力の流れをイメージして、手の平に流して放出すると……。それから使いたい魔法の効果をイメージしながら魔法名を発すると……。こうか? ――――【ウォーターボール】!」
シーーーーーン……
「ありゃ? イメージが足りなかったか? なら、もう一度……。――――【ウォーターボール】!!」
シーーーーーン……
「これは……まさか……!?」
その後、俺は何度も何度も魔法を試してみたが一向に魔法は発動しなかった。
そう。俺には全八種の魔法適性が無かったのだ。
「これは……詰んだのでは……?」
因みにこの世界の魔法は八つの属性で分けられていて、それを更に四段階の強さにランク付けされている。
要約するとこうだ。
属性は火、水、氷、雷、風、土、聖、闇
段階は初級、中級、上級、特級
「魔法が使えないとなると俺はもしかして魔族の中で最弱……? いや、もしかしたら普通の人間よりも弱いんじゃ……?」
――これは想定外だ。
魔王に転生して魔法が使えないだと!?
魔王だぞ!? 魔の王だぞ!!??
こんなんじゃ魔族と人間の争いを止めることなんて不可能……。
――――『大丈夫ですよ、ちゃんとチートです』
そんな時、女神様の言葉が脳裏をよぎった。
「転生特典。チート能力……。『言霊』……」
――ていうか『言霊』ってなんだ?
確か現代では『発した言葉通りの結果が表れる力』とかだったか?
とりあえず……試してみるか!
そして俺は魔法を使う時の様にイメージはせず、ただ単純に言葉を発した。
「【ウォーターボール】!!」
シーーーーン……
「だめじゃん!!!!」
ウォーターボールはやはり出なかった。
――何故だ……!?
ウォーターボールはそもそも魔法だから、魔法が使えない俺には再現出来ないのか?
でもなぁ……。ウォーターボールって言うとやっぱり無意識に魔法を使うイメージをしてしまうからなぁ……。
…………っ!!!
じゃあそれに似た物を、違う言葉で発したらいいんじゃ!?
「ウォーターボールは水の玉だから……。えーーっと、【水球】? ……ってこんな事で使えたら誰も苦労しな……!?」
俺がそう言葉を発すると、突然空中に水の玉が発現した。
「で、出来た……! 出来たァァァ!!! もしかして言霊は魔法以外の物なら生み出せるのか!? なら、とりあえず……俺の能力を知りたい!! こんな時は異世界モノのお約束のアレだな!」
俺はそう言うと手の平を前に出しあの言葉を唱えた。
「ふっふっふっ……。――――【ステータス オープン】!!」
………………ウィン
すると目の前に突然ゲームのウィンドウ画面のような物が現れた。
「マジで出来たよ……。女神様の言う通りちゃんとチートじゃん……!」
そして俺はそのウィンドウに記されたステータスを確認する。
名前 バン・メヌエセント・グリトグラ・テンスラ・オバロ・コノスバ・ダンマチ・リゼロ・コノヨノダレヨリモゼンニン・メッチャイイヤツ・ダケドドウテイ・エルグレイド三世〈略称〉エル
年齢 0歳
性別 男
種族 魔族
職業 魔王
魔法適性
火 0
水 0
氷 0
雷 0
風 0
土 0
聖 0
闇 0
固有スキル 【言霊】発した言葉通りの結果を表す力
その他特記事項 転生者 お人好し 童貞
「こ……これは……!」
俺は自分のステータスを確認し、愕然とすると、その場に倒れ込み突っ伏した。
「名前と特記事項についてはとりあえずおいといて……。あと童貞を【特】別に【記】すな、馬鹿者……! ていうか、ガチで魔法適性0じゃん……。でもまぁ、転生特典の『言霊』があれば何とかなるか。固有スキルとか書いてあるし普通は使えないのだろうからこれは黙っておいた方が良さそうだな。とりあえずこの『言霊』で何が出来るのか、何が出来ないのかをしっかり把握して使いこなせるようにしよう」
そして俺は『言霊』を使い、色々なことを試した。それにより幾つかわかったことがある。
まとめるとこんな感じだ。
一、魔力を使う魔法は言葉にしても再現出来ない。
しかしそれとよく似た効果のものなら発現可能(ウォーターボールを水球として発現したように)
二、人の心や頭を操る様なことも出来ない。
試しにスカーレットに「服を脱げ」と命じてみたが、頬を赤くして恥ずかしがるだけで脱ぐ事はなかった。
三、頭に思い描いたものは何でも言葉で発する事で発現させられる。
例えばステータスウィンドウの様なおおよそこの世界には存在しない物でもOKだ。ただし魔法はNG。
因みにどこに需要があるのかは知らんけどエッ! な本とかも出せる。……まぁ使うけどさ。
コホン。最後に発動条件だが、さすがはチートと言うべきか。
魔法と同じように頭の中で効果をイメージし言葉を発する事で発動する。
魔法と違うのは魔力を使うか否か。
しかしこの違いは大きく、魔法は体内の魔力を身体に流し練り上げる必要があるが、俺の『言霊』は頭にイメージしたものを瞬時に発動させられるという、超絶使い勝手のいいモノだった。
「――――とまぁ『言霊』についてはこんな感じか。さて、それじゃあ次は魔族の内情について調べるか」
争いを止める為には相手の事もそうだが、まずは味方の事をよく知らないといけない。
そんなわけで俺は次なる目標を『魔族側陣営を良く知る事』と掲げ、行動を開始するのだった。
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