35話 "血鬼女帝"アイリス
俺が魔王だと告げた途端、顔を引き攣らせ黙りこくってしまったシギサ。
「あ……、え……?」
「「人間のちびっこが魔王様だってー!? そんな事あるわけないっ!!」」
言葉にならない音を発しているだけの新人魔族のシギサに対し、先輩魔族のケシカとランナは未だ信じられないといった様子で俺をちびっこ呼ばわりして来る。
「あぁ、そうか。このままの姿だとわからないのも無理はないな。おい、そこのロリショタも良く見ておけよ?」
そう言い俺は角と目の【隠蔽】を解いた。
そして二本の立派な角と赤い目が露になる。
「ブホッ……!!」
すると後ろでヌルヌルになっているスカーレットの方から何やら音が聞こえたが、嫌な予感がしたので俺はソレをスルーした。
「どうだ? これで少しは信じられたか?」
「「え、えーー!? 本当に魔王様なんだけどー!?」」
「ま、まさかあなた本当に……?」
「だから最初にもそう言ったであろう? 俺は魔王だと」
するとシギサとケシカとランナの顔はみるみる青ざめていった。
「「ま、魔王様……? どうしてこんな所にいるんですか……?」」
ケシカとランナは俺が本当に魔王だと理解したのか、真っ青な顔でガタガタと震えながらそう聞いて来た。
「それは貴様らがよからぬ薬を作って、そこの詐欺師に売り捌かせていたからだろう?」
「「ひ、ひぃぃ……! も、申し訳ありませんでしたぁ……!!」」
「うむ。すぐに謝れて良い子だな。これからはこの様な事をしてはならんぞ?」
「「は、はいぃ!!」」
ケシカとランナは見た目通りの子供なのか、俺が少し注意をするとすぐに謝り背筋を伸ばして返事をした。
すると怯えながらもシギサがようやく口を開く。
「わ、私はこの薬を売れば魔人にしてくれると言うので……」
「いや、貴様の事はもはやどうでも良いわ」
「そ、そんなぁ……!」
俺はそんなシギサを一蹴した。
極悪詐欺商人から魔人にジョブチェンジしたアホにかける言葉はもうなかったのだ。
「それより、貴様ら。何故こんな事をしていた? 俺は人間に危害を加えるなと伝えたはずだが?」
俺がそう言うとケシカとランナは恐る恐る口を開いた。
「「そ、それはそう……なのですが、アイリス様が……!」」
「貴様らは魔王であるこの俺より、アイリスの方が上だと言うのか?」
「「い、いえ! そんな事は!!」」
俺が少しばかりの圧を出すと、ケシカとランナは酷く怯えてしまい何だか可哀想な気がして来た。
――うーん。やっぱり子供にこれ以上問い詰めるのは俺の心が痛むな……。
少し叱ってやれば、しおらしく反省しているようだし……。
やっぱりコイツらの親玉である、アイリスと直接話をしないか駄目か……?
「貴様ら。今すぐここへアイリスを呼べるか?」
「「はい! 我々アイリス様の眷属は血が繋がっているので、いつでも通信する事が出来ますですっ!」」
「そうか。なら貴様らの拘束を解いてやるから、今すぐ呼んでくれ」
「「はい!!」」
そして俺は二人の【金縛り】を解いてやった。
正直この二人が何を言っているのかよくわからなかったが、ここにアイリスを呼べると言うのでそうしてもらう事にした。
◇
すると二人の右腕から赤く細い糸のような物が伸びて来た。
「な、なんだそれは!?」
「「これですか? これは【血の糸】です! これを魔王城にいるアイリス様に繋げる事で通信が可能になるんです! 凄いでしょ!?」」
――うん。めっちゃアナログだな……。
電話線を直接相手に繋いでいるようなものか?
って、それ糸電話じゃん……!!
とまぁ、そんなことはおいといて。
ケシカとランナ。さっきまであれ程怯えていたのに、アイリスの話になった途端に元気になったな。
余程彼女の事が好きなんだろうな。
それだけ部下に慕われているという事は、それだけ何かの資質があるんだろう。
俺がそんな事を考えていると、【血の糸】はアイリスへと繋がったようで、ケシカとランナは会話を始めた。
「「アイリス様ー! アイリス様ー! 聞こえますかー?」」
すると暫くの沈黙の後に返答が来たようで、二人はコチラに合図を送ってきた。
――あ、因みにアイリスの声は【血の糸】が繋がっている二人にしか聞こえていない。
スピーカー機能はないようだ。
そう考えるとスマホとはとても便利だったんだなとしみじみ思う。
「「それで、あの、アイリス様? 今私達の前に魔王様がいらしているのですが……」」
するとケシカとランナはアイリスに俺の存在を告げた。
「「え!? 本当ですよ! 今目の前にいるんですってば! ……嘘じゃないもん! 魔王様、本当にいるんだもん!」」
どうやらアイリスに嘘をつくなとでも言われたのか、二人は必死に弁明していた。
某アニメ映画の五月の姉妹の妹の様な事を言いながら。
その後も暫くの間、二人は必死に嘘じゃないと言い続けた。
するとようやくアイリスも信じたのか、【血の糸】はプツンと切れ二人の腕に戻って行った。
「「ふぅ……。何とか信じてもらえました……。今すぐコチラに来るそうです!」」
「そうか。ご苦労だった」
「「ありがとうございます……!!」」
通信が切れるとケシカとランナはとても疲れた様子で額の汗を拭った。
俺が労いの言葉をかけると二人はとても嬉しそうに礼を言った。
するとすぐに部屋の中にワープゲートが開かれる。
そしてその中から絶世の美女が姿を現した。
◇
「ふぅ。まったく。ティータイム中に私を呼び付けるとはいい度胸ね二人とも。これが嘘だったらただじゃおかないんだから!」
「「う、嘘じゃないです! 本当なんです!! 後ろにいます! 信じてください、アイリス様ぁ!」」
するとアイリスは俺に背を向け、ケシカとランナの方を向きツンデレお嬢様のような口調で話し始めた。
そして彼女は二人の言葉を聞き、俺の方へ振り返ると瞬時に膝をつき頭を下げた。
「こ、これは魔王様……! …………ちょっと! 本当に魔王様がいらしているならそう言いなさいよ!」
「「い、言いましたよ、何回もーー……」」
アイリスは頭を下げつつ、ケシカとランナに悪態をついた。
「うむ。おもてをあげよ、アイリス。貴様、何故ここへ呼ばれたかわかっておるか?」
「はっ。ケシカとランナが何か失礼な事をしましたでしょうか? この二人はまだ幼い故……。頭はすこぶる良いのですが――――」
「――――違う! その二人の事ではない!」
「……っ! で、では何用でしょうか」
俺が少し大きな声を出すと、アイリスは肩をビクッと震わせた。
――俺ってそんなに恐いのか?
声も見た目もショタだし、何の威圧感も無いはずなんだけどな。
「貴様、この二人に何やら怪しげな薬を作らせておったな?」
俺がそう問いかけると、アイリスは目を輝かせて明るい雰囲気に変わった。
「はい!! 只今、人間との戦いを見越して魔族用の回復薬を開発中でして――――」
「魔族用の回復薬だと……?」
――確かに魔族には回復魔法は使えない。
使えばたちまちダメージを受けてしまうからだ。
そしてそれは魔王である俺も例外ではない。
「はい! まだ試作段階ですが、この子達が頑張ってくれたお陰で非常に良い出来だと聞いております!」
「聞いている……? 貴様、その薬を自分で試していないのか?」
俺がそう聞くと、アイリスはポカンとした表情を浮かべた。
「……? 私はあまり傷を負う事もないので回復薬など必要では――――」
「それ、回復薬などではないぞ?」
「はい……?」
「それ、媚薬だぞ?」
「え……? び、媚薬……?」
「しかもそれ、そこのアホが人間に高値で売り捌いておったぞ?」
「は……は?」
俺が真実を告げるとアイリスは凍ってしまったかのように固まって動かなくなった。




