30話 魔族の影
ユーリとボンズがアホなせいで引き起こされた『ムチャツヨクナール事件』は、スカーレットの活躍によって幕を閉じたかに思われたが、この後のユーリの一言で、俺達は予期せぬ方向へ向かう事となる。
「それにしても、あのシギサって人。俺達を騙してた悪い人だったんだな! これはちゃんと、人を騙すのは駄目だよ! って言いに行かないとだね! ふん!」
――何を言っているんだこのアホは……。
自分が詐欺に遭ったとちゃんと認識出来ているのか……?
「ふんって。ユーリはその人に何をされたかわかってるの?」
「わかってるよ、エル! あの人はあの薬を飲んだら普段の十倍の力を得られるって言ってたのに、誰もそうはならなかった。みんな具合が悪くなっただけだった。つまり! あの人は嘘をついて俺達を騙したんだ! これで強くなれると思ったのに……!」
「うーん……。じゃあユーリはその人がどんな嘘をついたと思ってるの?」
「あの薬には力を強くする効果があるって嘘をついた!」
「他には?」
「え? 他? 他は特にないんじゃない?」
――あーやっぱりわかってなかったか……。
違うんだよなー。
根本はそこじゃないんだよ、ユーリくん。
すると俺の隣で先程までうっとりしていたスカーレットが落ち着きを取り戻し、口を開いた。
「ユーリ。今回の件の概要を私にも全てお話して頂けますか? それと一先ず部屋の中に入りましょう。ここだと他の人のご迷惑になりますので」
「そうだね。いつまでも廊下にいる訳にもいかないしね」
スカーレットの提案に俺がそう返すと、皆も頷き俺達は部屋の中へと入った。
◇
そしてユーリはシギサに出会ったところから商品を買うまでの事を全てスカーレットに伝えた。
「――――って感じかな!」
「はぁ……。なるほど。わかりました。ユーリ……。それは詐欺ですよ、詐欺。わかりますか?」
「詐欺だって……!? って……詐欺って何?」
ため息混じりに言ったスカーレットの言葉にユーリが驚いたのもつかの間。どうやら彼は詐欺とは何かすら理解していなかったようだ。
「知らないのに驚いてたの!?」
「いやー、詐欺って何だか凄い事のような気がして……」
「さ、詐欺っていうのは人を騙して物を売り付けたり、金品を奪うことを言うのですよ、ユーリさん……」
「あ、そういう事? じゃあやっぱり悪い事なんだね! 許せないっ!」
俺がツッコミを入れるとユーリは訳のわからない事を言い、ボンズが横から補足をすると彼はようやく理解したのか鼻息を荒くして腕を組んだ。
「はぁ……。まさか勇者がここまでとは……。頭が痛くなってきました……」
その後スカーレットはユーリのアホさに頭を押さえ、呆れていた。
「え!? スカーレット大丈夫? 頭痛が痛いの!? 俺、薬買ってこようか?」
するとユーリはスカーレットの事を心配し、薬を買ってくると言い始めた。
――頭痛が痛いって……。
またアホな言い方を……。
それと貴様は二度と薬なんぞ買うな。
「いや、いいです。大丈夫です。それよりまず、今回ユーリが受けた被害に対してちゃんと理解して下さい。その男をどうするかはそれからです」
「そう? わかった!」
スカーレットはユーリのアホな発言を一切相手にせず、淡々とそう言った。そしてユーリがそれに返事をすると、彼女は今回の件を説明し始める。
「始めに言っておきますが、ユーリ。今回あなたがその男に言われた事……全て嘘ですよ」
「えぇっ……!? そんなはずないよ! だって、子供がお腹を空かせてる話とか涙を流しながら言ってたもん! あの涙は嘘じゃないよ!」
「いいえ! 全て嘘です。考えてもみてください。何故その日食べる物も満足に用意出来ない男が、綺麗な服を着ていたのですか? そんな物を買う前に、まずは家族を飢えさせない事が大事でしょう?」
「ん、あ……確かに……」
「それにユーリがはじめに買う意志を示していた頃は普通に話していたのでしょう? しかし値段を聞いて買う事を躊躇し始めた途端、そんな話をした。これは二人の同情を誘い、商品を買わせる為の罠だったのです」
スカーレットがそう言うとユーリは絶望した表情で膝から崩れ落ちた。
「そんな……。あの話も、あの涙も……。全て嘘だったなんて……」
するとユーリの横にいたボンズも床を強く叩き、怒りを露わにし始めた。
「なんと卑劣な……! 子供をダシに使うなんて……! 許せない……! でも、飢えに苦しむ子供が本当に居なくてよかった……」
しかし怒っているのかと思えば、ボンズはシギサの話が全て嘘だったと知った上で、子供の事を考え安堵しているようだった。
――ボンズは本当に良い奴だな……。
騙されていたと知っても尚、子供の事を考えてそう言えるなんて。
「そうだね。俺達の正義感につけ込むなんて許せないよね……! 今すぐあの人を探し出して捕まえないと!」
するとユーリも同調し、シギサを捕まえようと言い始めた。
――それに比べてこのアホときたら……。
こんな広い街でなんの手掛かりもないのにどうやってその男を探し出すつもりなんだか……。
「では、とりあえず明日からでも街を捜索してみましょうか」
「さすがスカーレット! 俺もそう言おうとしてたんだ! 俺達は勇者パーティーだ! こんな悪い事をしてる人を放っておいたら駄目だ!」
「オイラも子供の話で同情させて人を騙すなんて許せないです……!」
俺がそう考えていると、スカーレットの言葉を受け、二人は更にやる気を出し始めた。
「いや、ちょっと待って。僕は――――」
俺が二人を制止しようと慌てて口を開くと、スカーレットが俺の耳元へ来て小声で話し始めた。
「大丈夫です、エル様。エル様のお考えは全て理解しております」
「ほう……?」
――俺の考え?
俺の考えって何だよ……!?
俺はこの二人が反省して、今後こんな事がないように気をつけてくれればいいなーくらいにしか考えていなかったぞ……!?
するとスカーレットは更に続ける。
「エル様はそのシギサという男の陰に魔族の存在があるのではとお考えなのですよね?」
「うぬ」
――あ、そうなの?
いや、確かに言われてみればそうかもしれない。
アニメとかでも悪いヤツの裏で実は、魔族が糸を引いているなんて、よくあるお約束だもんな。
でも何でスカーレットはそこまでわかるんだ?
「さすがはエル様です……! あの薬の効果の強さを知っただけで人間の所業ではないと即座に判断なさるとは……!」
「……まぁな」
――あ、なるほど。そういう事ね。
俺はそんな事一ミリも考えていなかったけどな。
俺はあの媚薬で発情させられてしまったセリーヌとリリィの声を脳内に録音していただけだけどな。
「仰る通り、あの薬は魔族が作り人間に流しているのでしょう。恐らくは何かの実験……か」
――俺、何も言ってないんだが!?
頼むから勝手に俺を有能扱いしないでくれ……!
ていうか媚薬で何の実験をするつもりだよ?
あんな強い媚薬を街中の人が飲んだら――――
「――――けしからんな……」
俺はその光景を想像して、思わず心の声が口から出てしまった。するとスカーレットは口を手で押さえ、驚いた表情を見せた。
――まずい……!
俺が何も考えていなかったとスカーレットにバレてしまったか……!?
しかしスカーレットは俺の心配とは裏腹に思いもよらない事を口にした。
「はっ……! さすがはエル様……! 確か五芒星のアイリス様の部下で、薬の研究をしているケシカとランナという双子がおりました! よもやそんな事までお考えだったとは……。恐れ入りました!」
――誰それぇ……!?
俺その二人の事なんか、全然知らないんだけど!?
「では明日、シギサという男を捕まえて双子の居所を吐かせるとしましょう」
「あぁ……」
こうして有能なスカーレットの俺への過大評価により、思いもよらない方向へと話が進んでいった。
果たして本当にそんな双子がシギサに薬を手引きしていたのだろうか。
翌日、俺達はシギサを探す為、街へと繰り出した。
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