23話 全滅の危機
メテックを出発し、俺達は次の目的地であるウォルトスへ向けて歩みを進めていた。
暫く歩き続け、日が落ち月が見え始めた頃。
俺達、勇者パーティーは――――全滅の危機に直面していた。
「ぐっ……。もう……駄目だ……。もう闇魔法の使い方すらわからない……」
――お前は闇魔法なんか使わないだろ、アホ勇者……。
「リリィが死んでも……。リリィの魔法は永遠……。ファイアダン……」
――わざわざトドメをさしてくれようとしなくていいんだぞ、リリィ……。
「オイラの筋肉ではどうすることも出来なかった……。みんなを守れなかった……」
――ビビりのくせに何でそういう所は脳筋なんだよ……。
「私のヒールも効かないなんて……。エルきゅん……。最期に……私の事をお姉ちゃん……と……」
――誰が呼ぶか……。
でもまさか、セリーヌの回復魔法が使えないなんてな……。
そう言い残し、俺の目の前で次々と倒れていく勇者パーティーの面々。
そしてこの中で一番強いと自負している俺も、油断していた事もあり、その邪悪なものによって心の中でのツッコミのキレも無くなり、遂には意識も遠のいていく。
「ス、スカーレット……。貴様……。まさか……」
そして俺も他のメンバーと同様に地面に倒れた。
「エル様……? エル様ぁぁぁぁ!!!!」
全員が倒れたその場に、スカーレットの俺を呼ぶ声だけが響いた。
◇
時は少々遡り夕暮れ時。
「お腹すいたなぁ! そろそろご飯にしよっかー!」
ユーリが放ったこの一言から、あの惨劇は始まった。
「そうね。日も落ちて来たことだし、ここら辺で食事にしましょうか」
ユーリの言葉を受け、セリーヌも足を止めそう言った。
「リリィも疲れた……。ボンズ、早くご飯作って……!」
リリィはその場に足を伸ばして座り込み、ボンズに料理の催促をする。
「お、オイラ料理なんかほとんどした事ないよー……。ユーリさんは料理、出来ますか?」
どうやらボンズは料理が出来ないらしく、ユーリへ話を振った。
「料理くらい出来るよ! あんなの具材を鍋に入れてガーッとやって、グワーッてしたら誰でも出来るじゃん!」
ユーリは自慢げにそう言うと、全員が黙り込みこう思った。
(ユーリに料理をさせてはいけない……!)
その後、暫く全員が沈黙していたが意を決して俺は口を開いた。
「み、みんなは料理出来ないの?」
「ごめんね、エルきゅん。私料理は得意じゃないの」
「リリィは食べる専門……」
「お、オイラは肉や魚を丸焼きにするくらいしか……」
「だから! 俺料理出来るんだってば……!!」
「そうか…………。スカーレット、頼めるか?」
「勿論でございます、エル様」
「エル!? 俺料理出来るって言ってる――――」
全員が料理を出来ないと把握した俺はスカーレットに頼む事にした。未だにユーリは何やらゴチャゴチャと言っているが、聞こえないふりをして。
斯く言う俺も料理など出来ない。
転生前はもっぱらコンビニ弁当か出来合いの物で済ませていたし、転生してからも魔王専属のコックがいたし自分で料理なんてしなくても良かった。
それに王都からメテックへ向かう道中も、ミアの護衛の人が料理をしてくれたり、昨日は領主の屋敷のコックの料理をご馳走になったりと、旅を始めてから今まで食事には困った事がなかった。
――それが災いしたのか、只今絶賛困り中なのだが。
まぁ何でもそつなくこなすスカーレットなら大丈夫だろう。
「うふふ……。スカーレットのご飯楽しみ……!」
「お、オイラも、母ちゃん以外の女性の手料理なんて初めてです……!」
「ふんっ。ちゃんと美味しく作りなさいよ?」
「誰に言っているのです? 私はエル様のお世話係ですよ?」
そう言いながらスカーレットはトントン、グツグツと音を立て、順調に料理を進めていく。
「そんな心配しなくても大丈夫だよ! スカーレットは何でも出来るんだから!」
「エル様……!」
(エル様が褒めて下さった……! う、嬉しい……♡)
「俺だって料理くらい出来るのに……。何で誰も信じてくれないんだよ……」
俺を含めた皆がスカーレットの手料理を心待ちにしていた。わかりやすくいじけているユーリを除いて。
◇
数分後。
スカーレットの料理が完成した。
そして俺達はその完成した料理を見て――――驚愕した。
「スカーレット……。これは一体何だ……?」
「はい! メテックで買い込んでおいた野菜をふんだんに使用したスープでございます! それとメインディッシュに鶏肉の丸焼きをご用意しました!」
「ほう……。これが……?」
俺達の前に置かれていたのはゴロゴロとした皮すら剥かれていない野菜が浮かび、何も味付けされていないただのお湯と、買ってきたままに丸焼きにされた鳥だった。
――嘘だろ? スカーレット……。
その美しい見た目に反して、お約束のアレですか……?
メシマズってやつですか……?
ていうかさっきのトントングツグツって音は何の音だったの……?
「ぶさけないで! これのどこが料理なのよ!」
セリーヌは怒り心頭であった。
「スカーレット……。リリィはガッカリだよ……」
リリィは凄く悲しそうな顔をしていた。
「母ちゃんの料理が食べたいよー……」
ボンズは涙を浮かべ遠くを見ていた。
「大丈夫です! 見た目は残念かもしれませんが、味には自信ありますので!」
スカーレットは皆の反応を見ても尚、自信ありげな表情でそう言った。
「ほら、みんな! 見た目はどうであれ、スカーレットが俺達の為に作ってくれたんだ! 残さずちゃんと食べるんだぞ! はい! 手を合わせて! いただきます!」
「「「「い、いただきます……」」」」
ユーリは珍しくとても真っ当な事を言った。
その言葉を聞き、俺達は思い直し、渋々その邪悪なものを口へ運んだ。
パクっ。
「…………!」
(これは……ゴリゴリ、シャリシャリとした生野菜の食感……)
「…………!」
(オイラの故郷にも無かった、なんの味もしないスープという名のただのお湯……)
「…………!」
(何この鶏肉……。火が通ってないじゃない……!)
「…………!」
(うっ……。このお肉生臭い……)
「…………!」
(どんなに不味くても作って貰った料理を全部食べるのが勇者だ……!)
そして俺達は何も言わず、何も考えず、ただひたすらに目の前にあるソレを無我夢中で食べ尽くした。
「「「「「ご、ごちそうさまでした……」」」」」
「お粗末様です」
◇
数時間後。
あれから暫くして月が見え始めた頃。
一番にユーリが倒れ、その後他のメンバーも次々と倒れ、現在に至る。
「ス、スカーレット……。貴様……。まさか……」
「エル様……? エル様ぁぁぁぁ!!!!」
◇
そしてまた数時間後。
俺達が倒れている間、スカーレットが何をしていたかはわからない。だが、俺達は無事意識を取り戻した。
「……知らない天井だ」
――天井なんかないだろ。夜空だアホ。
「お、オイラ、川の向こうにじいちゃんが見えたよ……」
――よく帰ってきたな。逃げるのが得意で良かったな、ボンズ。
「リリィの胸……。何だか小さくなった気がする……」
――そんな事ないぞ。大丈夫。そのままだ。
「体内の不調は専門外だわ……。体外の傷なら大歓迎なのに……!」
――元気だなぁセリーヌ。そしてドS自重しろ。
でもまぁ、とにかく皆が無事でよかった。
俺はほっと胸を撫で下ろし、立ち上がるとスカーレットを離れた場所に呼んだ。
◇
「スカーレット。何か言い残す事はあるか?」
「も、申し訳ございません、エル様! 私、実は料理が大の苦手でして……」
「何故それを先に言わんのだ!?」
「エル様が私に期待してお任せ下さったので……」
「ほう。俺のせいと申すか……」
「い、いえ! その様な事は決して……!」
「もうよい。目を瞑って歯を食いしばれ」
「は、はい……!」
そしてスカーレットは言われた通りに目を瞑った。
目を瞑ったスカーレットはまるで恋人からのキスを待つ可愛い女の子の様だった。
――いかんいかん!
何を考えているんだ……!?
でも、本当に綺麗な顔をしてるな……。
そして俺はスカーレットの頭にぽんっと手を乗せた。
「はへぇ?」
スカーレットはよくわからない声を出した。
「まぁ……なんと言うか、幸いみんな無事だったんだ。だから許してやる……。次は気をつけるのだぞ」
「え、エル様……!!」
俺がそう言うとスカーレットはポロポロと涙を零し、俺の名を口にした。
「次こそは必ずエル様に喜んで頂ける料理を作ってみせます……!」
「あ、いや、もうそれはいいや……」
「えぇ……! そんなぁー……エル様ぁ……!」
俺がそう断ると、スカーレットは俺の脚にしがみつきらしくない言い方で駄々をこねた。
――まったく、こいつは可愛いな……。
そして俺もスカーレットにはとことん甘いな……。
そう思いながらも、スカーレットへの罰は二度と料理をしない事とし、俺達は皆の元へ戻った。
するとそこではユーリが何食わぬ顔で料理をしていた。
「おー! エル! スカーレット! もうすぐ出来るから座って待ってなよ!」
「まさか……貴様本当に料理を……?」
「だから出来るって言ったじゃん! ――――はい! かんせーい!」
そして俺達の目の前に置かれたのはごく普通の野菜炒めだった。
「まぁ、簡単に炒めただけどね。さ! みんな食べて食べて!」
そして俺達はその野菜炒めを口に頬張った。
「う、美味い……」
「そ? よかったー!」
ユーリは本当に料理が出来たのだった。
(こんな事なら初めから……)
――――と、全員が深い後悔をしながら、一瞬でその料理を食べ尽くした。
皆は満足そうな顔をしていて、俺も凄く満足出来た。
そしてスカーレットはユーリに料理を教えてくれと暫く懇願していた。
ユーリは鼻の下を伸ばしていたし、満更でもなさそうだった。
アホなユーリが実は料理が出来たり、何でも出来て完璧に見えるスカーレットが実は料理が苦手だったりと、俺はこの一件を機に、人を見かけや普段の振る舞いで決めつけてはいけないなと心に刻んだのだった。
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