19話 二人だけの秘密
またしても俺の真意は配下の者に上手く伝わらず、ヤラカスが魔王城へと帰った後も、俺はその場に立ち尽くしていた。
「くそっ……。口で言っても伝わらないから殴ったのに……。それでも伝わらないのかよ! じゃあどうすりゃよかったんだよ……!?」
俺は一人、愚痴をこぼしていた。
すると背後からスカーレットが声をかけてきた。
「さすがは魔王様です。ミスをやらかしたヤラカスにしっかりと罰をお与えになるなんて。しかもあんなご慈悲まで……。その器の広さに感服いたしました」
「は……? 慈悲だと……? 俺がいつそんなものを与えた様に見えたのだ?」
――スカーレットは何を言っているんだ?
俺は慈悲なんて与えてないぞ?
勝手にヤラカスが誤解しただけだ。
俺はただ、ヤラカスがどうすれば人間を傷付けるのを辞めるのか考えて……。
殴るとかそういうのあまり好きじゃなかったんだけどな……。
俺がそう考えていると、スカーレットは更に俺を褒め称える。
「それはもう……! あれ程までに不細工でどうしようもない男を、ああも綺麗な顔に仕上げ、夜遊びに精を出させる事で争いを辞めさせようとした事です! まぁあの大馬鹿者にはせっかくの魔王様のご慈悲が一切伝わっていなかったようですが……」
――あぁ。そういう事になるのか……。
なんと言うか、魔族の奴らって魔王に対して異常に高い忠誠心というか、絶対に自分達に悪い影響を及ぼさない、魔族の繁栄の為の行動だって信じ切っている節があるんだよな。
だから何を言っても、何をしてもああも勘違いされてしまうんだろうな。
――それより、スカーレット。俺の真意に気付いていないか……?
「さすがは俺の世話係であるスカーレットだ。お披露目会での演説と先のやり取りで、俺の真意がわかっているようだな?」
「それは勿論でございます。私は魔王様のお世話係ですよ? 魔王様が人間族に危害を加えたくないという事は存じております」
(魔王様は偉大なお方。人間族に危害を加えず制圧し、捕虜とする事で今後の労働力として使おうとお考えなのです。この真意に気付けないとはヤラカスは本当に愚かだ……)
俺がそう聞くと、スカーレットは間髪入れずにそう答えた。
俺はこの世界に魔王として転生して、配下の者達に幾度となく勘違いされ続けて来た。
そんな俺にとって、今のスカーレットの言葉は俺の心を激しく揺さぶった。簡潔に言うと――――泣いたのだ。
「うわぁーーーーん! やっと……やっと俺の真意をわかってくれる配下が出来たぁぁぁ……!」
「ど、どうされましたか魔王様!? ささっ、私のお胸で存分に涙を出し切って下さいませ!!」
(や、やばい……!! 泣いている魔王様を初めて見た……!!! あぁ……♡ 可愛すぎて……死ぬ……!)
そう言うとスカーレットは腕を広げて、俺をその大きな胸で包み込んだ。
そして俺は中身は四〇歳でありながら、スカーレットの優しさと大きな胸に包まれて暫くの間、泣き続けた。
◇
数分後
泣き疲れた俺は、スカーレットの胸の中で重大な事に気がついた。
俺は魔王で配下の者達に決して弱みを見せてはいけない存在だという事に。
「ス、スカーレットよ……。俺は今、スカーレットの胸に抱かれて大泣きしていた訳だが……」
「はい。それがどうかなさいましたか?」
(私の胸から上目遣いで顔を覗かせる魔王様……♡ なんと愛らしいこと……! あ……鼻血が……!)
「悪いがこの事は誰にも言わないでくれないか……。こんな事が他の配下の者に知れたら、俺の魔王としての威厳が損なわれてしまう……」
「勿論です。 この事は二人だけの秘密にいたします」
(こんな私得な状況、誰が他の者に教えるものですか! それにこんなにも可愛い魔王様を独り占め出来るチャンスなんてそうそうないですもの! 絶対に誰にも言いませんわ!)
――ス、スカーレットと二人だけの秘密だと……!?
なんという甘美な響きだ……!
ってそんな事はさておき。
これからどうするか考えないとな。
俺が今勇者パーティーと行動を共にしている事をスカーレットにどう説明しようか……。
「ところで、スカーレットよ。俺は今、勇者パーティーと行動を共にしているのだがそれに関してはどう思う?」
俺はスカーレットの胸から離れ正面に向き直ると、内心ドキドキしながらスカーレットにそう尋ねた。
するとスカーレットは真面目な表情で口を開いた。
「勇者など魔王様のお力にかかれば本来、敵ではありません。それに私が心からお慕いする魔王様のことですから、何かとても崇高なお考えがあるのでしょう。なので私は何も心配していませんよ」
(まぁ万が一にでも、魔王様に何かあったら勇者パーティーは流石に皆殺しにしますけど……)
――あぁ……スカーレット……。
なんていい奴なんだ……。
スカーレットが俺の世話係で本当に良かった……!
「そこまで俺を信頼してくれているのだな。なら話は早い。俺はこれからもヤラカスと同じ様に、人間に危害を加える馬鹿な配下達には制裁を与えていくつもりだ。スカーレットよ、力を貸してくれるな?」
「勿論でございます! 私は魔王様のお世話係。この身が朽ちるまで、誠心誠意お仕えして参ります」
(人間族を捕虜にするという魔王様の崇高なお考えに反する馬鹿共はしっかりと粛清して参ります。……それにしても、いつもの凛々しいお顔になられた魔王様。やっぱり素敵……♡)
――よし、スカーレットはいつか必ず俺の嫁にする。
そんな事を心に決めた俺は次にスカーレットをどう勇者パーティーに合流させるかを考えた。
――スカーレットを俺の姉として紹介するか?
それとも母親?
いや、スカーレットの見た目はお世辞を抜きにしても二〇代後半にしか見えない。
ならやはりここは、今まで通り俺の世話係として……。
「ところで魔王様。私は魔王様と同じ様に、勇者パーティーと共に行動するという認識でよろしいでしょうか?」
(魔王様の崇高なお考えを現実にする為には、やはり私も同行するのが一番ですよね。……決してよこしまな考えで御一緒したいと思っているわけではないですよ……!)
俺がそう思案していると、スカーレットが察しのいい事を口にした。俺はスカーレットの有能さに少し感動し、それを隠すと、魔王らしく威厳を保ちながら返答した。
「あぁ。そのつもりだ。だが正直、スカーレットをどういう風にアイツらに紹介するかを悩んでいてな……」
「それなら心配いりません。私の事は今まで通り魔王様のお世話係として紹介して下されば」
(あぁ……魔王様とずっと一緒にいられるなんて夢のようだわ……♡ これからは魔王様にしょうもない虫が近付かない様、しっかりと見張らなければいけませんね)
「だがそれだとアイツらに違和感を持たれないか?」
「大丈夫です。全て私にお任せ下さい」
(私と魔王様の関係を怪しむ輩など、木っ端微塵にしてさしあげますから……)
「そ……そうか? なら任せる事にする。頼んだぞ、スカーレットよ」
「はっ! 承知しました、魔王様! 魔王様におまかせされた以上、必ずや魔王様のお考えを現実のものといたします。」
(これでまた魔王様のお世話が出来る……! あぁ……幸せ……♡)
「あぁ、そうだな。あとその魔王様って呼ぶのも禁止な。これからは俺の事を普通にエルと呼んでくれ」
「承知しました、エル様」
(あぁ……魔王様のお名前を呼べる日が来るなんて……! まるで私が魔王様の妻になったみたい……♡)
「では、勇者パーティーの元へ向かうぞ」
「はい。エル様」
(凛々しいお姿……素敵♡)
こうして俺はスカーレットが大きな勘違いをしているとも知らずに、ユーリ達と合流する事となった。
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