【閑話】 曲解
魔王エルにこっぴどくやられたカマセーヌはワープゲートを使い魔王城へと帰還していた。
「シエスタ様! ロクサーヌ様! アイリス様! ダグラス様! ゴラム様! 不肖ながらこのカマセーヌ、魔王様の有難いお言葉を伝える命を賜り、人間族の王都より帰還いたしました!!」
「おい、こら、犬。主人である妾の指示も仰がず、勝手に何処へ行っておったかと思えば……。王都へ行っておったじゃと……?」
「も、申し訳ありません! シエスタ様っ! 魔王様に認めて頂きたくてつい先走ってしまい――――」
「ほう? 犬風情が妾に褒められるだけでは飽き足らず、魔王様にまで認めて頂こうとは……。これは躾が必要じゃのう?」
そう言うとシエスタは自慢の大きな黒い翼をバサッと開いた。すると黒い翼で覆っていた美しくグラマラスな身体があらわになる。
普段は翼をローブの様に覆っているせいか、その中はかなりの軽装であった。
「やめんかシエスタ。ワシはお主のその破廉恥な身体など見とうない。さっさと仕舞わんか」
そう話すのは竜人のダグラス。
見た目は人間で言うところの七〇代くらいの老人で、男にしては長い薄緑色の髪を後ろで束ねている。そして頭には竜の角を二本生やし、黄色い目をしていた。
「やかましいぞジジィ……! 妾の身体を貴様にとやかく言われる筋合いはないわ!!」
「ジジィじゃと……!? お主を赤子の時から面倒を見てやった恩を忘れたか!?」
「チッ。ったくうるさいわねー。ダグラスの言う通りよ、シエスタ! そろそろ黙らないと、アンタのその無駄な胸の脂肪……削ぎ落とすわよ!?」
この物騒な事を言っているのは吸血鬼のアイリス。
吸血鬼らしい牙と尖った耳を持ち、短く切りそろえられた白髪と異様に白い肌に、赤く染まった瞳がとても綺麗に輝いている。
黒と赤を基調としたドレスが彼女を更に魅力的に見せている。
シエスタに比べて貧相な体つきではあるが、全体的に細身でスラッと伸びた長い脚は世の男性を虜にするだろう。
「はっ! 貴様の様な貧相な胸では妾の魅力はわかるまい。五芒星の中で一番長く生きているというのに胸だけが成長しなかったとは……。妾は貴様が可哀想で涙が出そうじゃ、アイリスよ」
「何ですって!? 私の胸は別に関係ないでしょうが! まったく、生意気言ってんじゃないわよ小娘が! 血を吸い尽くすわよ!!」
「やれるものならみろ! 何なら今からでもよいぞ? この貧乳ババ――――ひゃんっ……!」
威勢よくアイリスを罵っていたシエスタだったが、突然可愛らしい声を上げた。
「キャハハ! ほーんとシエスタはいいおっぱいしてるよねー! こんなのいくらでも揉めちゃうわ! それに今日も柔らかーい!」
そう言いシエスタの背後から胸を鷲掴み、揉みしだいているのはリッチーのロクサーヌ。
外見は人の姿をしているが、死人ではある為、肌は青白く体温もかなり低い。
外見はパーマをかけているかのようなクルクルとした長い金髪を頭の上で団子のようにし、長い爪には派手な色を塗り、腕や耳にはガチャガチャと装飾品を付け、極めつけには白のワイシャツに短いスカートといった、まるで現代のギャル高校生を彷彿とさせるものであった。
「や、やめるのじゃ! ロクサーヌ! 貴様の手は……ひゃんっ! 冷たいから……嫌なのじゃ!」
「そんな事言わないでよー! ウチも死にたくて死んだ訳じゃないんだしさー! ね? もう一回! いいっしょ!?」
バンッ!!
すると突然、机を叩く大きな物音が部屋中に響き渡る。
「うっせぇよ、テメェらはさっきからよォ! その犬の話、ちゃんと聞けよ! 魔王様がどうのとか言ってただろうが!!」
大きな物音を立て机を破壊したのはゴーレム魔人のゴラム。
外見は二〇代後半くらいで、青い短髪に褐色の肌、身体は二メートルにも及ぶ巨体で、角張った筋肉はガチガチで、顔にはいくつもの釘のような物が埋め込まれている。
「なんじゃ貴様? よもや、この五芒星の中で一番新入りの分際で妾に意見する気ではあるまいな?」
「あぁ!? 新入りだったら意見しちゃあいけねぇって理由でもあんのかよ!?」
「そんなものはない。じゃがお主が五芒星で最弱というだけのこと。わかれ。ゴラムよ」
「ダグラスじいちゃんの言う通りー。ウチ、ゴラムきらーい! だって身体ゴツゴツだしー、おっぱいないしー」
「ふんっ。私はアンタらなんか全員嫌いよ! それにロクサーヌ! その服装は何よ!? 上品さの欠片も感じないわね!」
「これは人間族の領地で買ってきたものだよー! 可愛いっしょ!」
「なにぃ!? 人間族の領地で買っただとぉ!?」
五芒星の面々がこの様に言い争いを始める中、カマセーヌは五人の圧力に圧倒され固まっていた。
「おい、犬。何をボサっとしておる? さっさと要件を話さんか? 魔王様のお言葉を聞いてきたのであろう?」
「し、承知しました! シエスタ様!」
(アンタらがべらべら話してたからだろうが!)
そんな心の叫びを本人達に言える訳もなく、カマセーヌは報告を始める。
「えー……。まず王都にて勇者の存在を確認しました。他のパーティーメンバーは聖女、魔法使い、タンクの三人です」
「ほう。とうとう勇者が誕生しよったか。まぁ勇者なぞ、妾の敵ではないがの」
「男の事なんてどーでもいいよー。ねぇ、わんちゃん。その中に女の子はいなかったのー?」
「へぇ。勇者ね。血は美味しいのかしら?」
「ふんっ。勇者など先代魔王様に比べれば造作もないわ! 即刻叩き潰してくれようぞ!」
「あぁ!? 勇者をぶっ壊すのは俺様だ! テメェら横取りすんじゃねぇぞ!?」
新たな勇者が誕生した事に各々が反応を見せる中、カマセーヌは続けて魔王エルについて話を始める。
「つ、次に魔王様についてですが。俺が大量の魔物を引き連れて王都へ進軍して行った所、突然目の前に現れ、とんでもない火力で一瞬で魔物を焼き払われました」
「何……? 魔王様が?」
「ふんっ。先代から魔王様の力はデタラメじゃのう」
「でもなんでー? わんちゃんは魔王様に褒められる為に王都まで攻めて行ってたんだよねー?」
「理由はわかりません。ですが最後に魔王様はこう仰いました。『魔王城へ帰り五芒星に伝えろ。俺の意思に従い、人間族を滅ぼせ。出来ぬのなら俺が直々に滅ぼしてもよいのだぞ』と。」
「その言葉を聞いて全てわかった。魔王様は魔王城を飛び出して、わざわざ王都まで出向いたのは、妾達に人間族はこうして滅ぼすのだと示す為だったのじゃ……! さすがは魔王様じゃ。何という王の器……!」
「さすが魔王様ねっ! カマセーヌの連れて来た魔物共があまりに弱くて見ていられなかったのよきっと!」
「あぁ、そうだぜ! 今度は俺様が、魔王様も文句ねぇくらいに完膚なきまでにぶっ壊してやるぜ!」
「魔王様、まだ子供なのにやっぱりかっこいーねー! でもそうなれば勇者ってのが邪魔だねー?」
「ふんっ。勇者か……。いざとなれば我が竜軍も動かすかのう」
「ならばこういうのはどうじゃ? 魔王様のご意志に従い、我々五芒星は各々の部下で部隊を編成し、勇者の元へ向かわせる。そして誰が一番早く魔王様に褒められるか競うのじゃ!」
「ほぉ。それはいい考えだな、シエスタよ。我が竜族の力を思い知らせてくれるわ!」
「何言ってるのじいさん? 魔王様に一番最初に褒められるのはこのアイリス様に決まっているでしょう?」
「バカいってんじゃねぇよ! そらぁ最強のゴーレム魔人であるこの俺様だぜ!」
「私はー、勇者と一緒にいる女の子に興味があるなー! 可愛かったらいーなー!」
「ふっ。何を言っておるのだ貴様ら。一番初めに魔王様に褒められるのは妾に決まっておるだろう! そうと決まれば早速人間族の領地へ向かうのじゃ!!」
シエスタがそう言い、意気揚々と部屋を飛び出すと、他の四人も慌てて後を追うように部屋を出て行った。
こうしてまたしてもエルの言動は盛大な勘違いを生み、間違った形で配下へと伝わったのだった。
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