108話 再会の褐色美女
――――時は少々遡り、ロクサーヌの話を聞き新たな可能性を見出した俺は、彼女の家を飛び出してゴラムの元へと向かった。
向かったとは言っても、座標をゴラムに設定し、言霊の能力で【瞬間移動】するだけだから造作もない。一瞬で彼女の元へと辿り着いた。
「やぁやぁ、ゴラム。復興作業は進んでいるかね…………って、おい!?」
俺が瞬間移動で辿り着いた先は"チミニチ村"。ギガンテスの近くの村で、かつてゴラムが身勝手な暴力の果てに壊滅させた場所。
以前に俺達がこの村を訪れた際は、破壊の限りを尽くしたゴラムによって、家は倒壊し瓦礫の山が至る所にあった。
だが、今目の前にあるチミニチ村は、元の状態を知らない俺でもわかる程に綺麗な家々が建ち並び、村というよりは町と言うに相応しい出来栄えだった。
そしてそんな完璧な復興作業を終えたゴラムは、町に誰もいないのをいい事に、俺が与えた服をそこらに脱ぎ捨て、産まれたままの姿――――いや、構築されたままの姿で寝ていた。しかも屋外でである。
「おい、ゴラム起きろ! 夜遅くに女の子が外で、しかも裸で寝るもんじゃない! 悪い男に食べられたらどうする!?」
――俺みたいな……な!
と言って本当に食べてやりたい所だが、可愛い女の子の寝込みを襲うなど、俺の"童貞魂"が許すはずがない……!
俺が前世と合わせて何年間、童貞を守り抜いていると思っている!?
50年だぞ!? なめんな……!!
だが、そろそろ俺の理性が吹っ飛びそうだから、その豊満な胸を上にして寝るのだけはやめて欲しい……。
そうこうしていると、ゴラムはむくっと起き上がり、目を擦りながら俺を見た。
「んんっ……。おはよぉー。俺様を起こしたのは誰だぁ……?」
褐色美女ゴラムは、俺のいいつけをしっかり守り、荒っぽい口調を意識しているようだ。だが、寝起きだからか一切の覇気が無い。最早、可愛いとさえ思う。
「俺だぞゴラム。エルだ。少し用があって早速会いに来たのだが――――」
「――――エル様ァァーー!!!」
俺が話を始めた途端、ゴラムは大きな目をパチッと開き、しっかり俺である事を確認すると物凄い勢いで抱き着いて来た。だが、彼女は今、全裸である。
「エル様ァァ……! 来るのが遅いぜまったくー! 俺様、頑張ってこの村を綺麗したってのに、待ちくたびれて寝ちまったじゃねーかよォ!」
「おぉ……悪かった、悪かった」
ゴラムはそう言いながら俺の顔に自らの顔を擦り付けて来る。ゴラムの身体は見た目こそまるで人間だが、原材料はただの土や岩である。つまり体温などは存在せず、夜風にさらされた彼女の肌は、ほんのり冷たい常温だった。
――そんなに俺に会いたかったのか……可愛いヤツめ。
でもゴラムと分かれてからまだ数日しか経ってないだろ?
どんだけ寂しがり屋なんだよ、まったく……可愛いヤツめ。(二回目)
ていうか……身体に柔らかい物が当たっているのだが、気のせいか……?
否。断じて否だ……!
これはゴラムのおっぱ……!!
うん……もう、俺はここで死んでもいい。
人間と魔族の争いなんてどうでもいい……。
だってここに"天国"があるのだから……!
「で? 今日はどうしたんだよ? わざわざ俺様に会いに来たって事は、何かして欲しい事でもあるんじゃねーのか?」
俺が天にも昇る様な快感に酔いしれていると、それを醒ますかの如く、ゴラムが口を開いた。
「あぁそうだ。ゴラム、貴様にしてもらいたい事がある」
――全裸のゴラムにしてもらいたい事……。
そんなのは一つしか無い……が、今はやめておこう。
「何だァ……? 早く言いやがれ……!」
俺が来て相当嬉しいのか何なのか、言葉の意味とは裏腹に、超至近距離で目を輝かせていた。
「貴様にやってもらいたい事。それは――――"フィギュア作り"……だ! しかも1/1スケールで頼む!」
「ふぃ、ぎゅあ……? いちぶんのいち、すけーる……?」
俺の言葉を聞き、ゴラムは魂が抜けてしまったかと思える程にポカンとしていた。
――しまった……。
さっきまで現代の事が通じるロクサーヌと話してたから、つい現代の言葉で話してしまった……。
駄目だな……最近、スカーレットに、リリィに、セリーヌ。そしてアイリスに、ゴラムに、ロクサーヌと美人や美女に囲まれて気が緩んでいるのかもしれない。
もう少し引き締めないとな……!
「すまない、取り乱した。要は、人間そっくりの人形を作って欲しいのだ!」
「ほぉ……? んで? そらぁ、何の為にだ? まさか観賞用ってわけでもねーんだろ?」
――観賞用……。その発想はなかったな。今度作ってもらうか……。
「違うぞ。俺は今しがたロクサーヌに会ってきたのだが――――」
「――――何ぃっ!? あのクソ生意気なやかましい女にか!?」
――うん、口が悪いよゴラムちゃん。
そして人の話は最後まで聞け……?
ていうかロクサーヌのやつ、俺の前ではかなりいい子だったんだけどな。ギャルだけど……。
魔族の前では結構やんちゃしてるのか……?
「あぁ、そのロクサーヌにだ。そしてちゃんと俺の真意も伝えて来た。恐らくわかってくれたはずだ」
「ほぉ、あの人の乳を揉む事しか考えてねーアホがねぇ……」
俺の言葉を聞き、ゴラムは怪訝な表情でそう言った。
――人の乳を揉む事しか考えてねーアホ……?
ロクサーヌが……? 人の乳を……?
けしからんな……。
今度その場面に出くわしたらビシッと言ってやらねばいかんな。"いいぞ、もっとやれ"と。
「そしてロクサーヌとゴラム。二人は協力して、俺が与える仕事をしてもらうつもりだ」
「はぁ!? 何で俺様があんな奴と――――」
「――――ん? 何か言ったか?」
「うっ……! 何もねーよ……。で? 俺様とあのアホに何をさせるつもりなんだ?」
俺が鋭い目付きで一瞬睨むと、ゴラムはすぐさま大人しくなり、意見を飲み込んだ。そして俺は、いよいよ計画をゴラムに話し始める。
「ふはははっ! 俺の計画はな……。名付けて――――"死んだ人間を丸ごと生き返らせて、そいつらに恩を売って、魔族が悪い奴じゃないとわかってもらおう作戦"だ!」
「…………語呂がわりぃな」
「黙れ」
「はい……」
――語呂が悪いのはわかってるんだよ……。
だけどいい作戦名が思い付かなかったんだから仕方ないだろ?
まぁ、作戦名はともかくとして、俺のこの計画が実現すれば人間と魔族の関係がかなり良好になる可能性が極めて高いと思っている。
というのも、ゴラムだけでなく、魔族による人間への被害は俺のパッパの頃から考えると途方もない数になるだろう。
まだ生きられたはずの人達が、二人の馬鹿な王のくだらない喧嘩のせいで何人も命を落としている。
そんな人達がもし今世に生き返る事が出来たら、それだけでとても幸福だと思うんじゃないだろうか?
少なくとも前世で一度死んだ俺は、この世界に転生出来て心から良かったと感じている。
押し付けなのかもしれないが、志半ばで死んでしまった人達が少しでも幸福に生きられるのなら、俺は喜んでその手助けをしたい。
そしてゴラムにはこう言ったが、生き返った人達が恩義を感じて魔族への認識が少しでも変わってくれたら大成功だ。必ず争いを止める足掛かりになるはずだ。
「まぁ生き返らせると言っても完全にとはいかないがな」
「蘇生魔法なんて都合のいいもんはねぇーからな。んで? エル様はどうするつもりなんだ?」
ゴラムは怪訝な表情で俺に問うた。
そう。この世界に回復魔法はあれど、蘇生魔法は存在しない。つまり一度死んだ人間は二度と蘇らない。
だが俺は思い付いてしまったのだ。
"限りなく人間に近い形で、しっかりと意識を持った人間"を甦らせる方法を――――!
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