106話 スカーレットの過去④
無事に新たな性癖に目覚めたスカーレットは、魔王城の廊下を以前とは違う面持ちで歩いていた。
するとそこへ体格のいいゴーレム魔人が立ち塞がった。
「お、おい、テメェ……! 俺様の事……覚えてるかァ……?」
「はい? 誰ですか、あなたは? 私はあなたのような魔人は知りません」
何故か初手から語気を強めて詰め寄ってくる魔人に、表情一つ変えずに対応するスカーレット。すると魔人はゴーレム化のスキルを解き、本来の姿を現した。
その姿は以前、スカーレットに罵倒された細ゴラムであった。
「この姿を見てもわからねーか?」
「いえ……。以前、どこかでお会いしましたか?」
キョトンとした様子で聞き返すスカーレットに対し、細ゴラムは下を向きプルプルと震え始めた。
「ひどい……! こんなに憧れてたのに……!」
「ん……? あぁ、思い出しました。あなたはあの時の魔人ですね? 以前と容姿や口調が変わっていたので気付きませんでした。――――え、今、私に憧れていたと言いました?」
全てを思い出したスカーレットは間の抜けた返事をした。すると細ゴラムは目に涙を浮かべ、スカーレットを睨み付ける。
「あぁそうだよ。俺様は強くてかっけーアンタに憧れて、口調も変えてゴーレム魔人になったっていうのに……。なのに何だ!? 最近のテメェは子供ばっかと戯れやがって!?」
「いやぁ、子供は最高ですよ? あなたもどうです?」
様々な想いを抱え、詰め寄る細ゴラムだったが、子供の可愛さを知ってしまったスカーレットにとっては、効果が無かった。
「いらねーよ! このロリショタコンデカパイサキュバスが!! 二度と俺様の前に顔を出すな!」
すると不抜けてしまったスカーレットに我慢の限界が来たのか、細ゴラムはとんでもない言葉を言い放つ。
ここまで言われてしまってはスカーレットも黙ってはいられなかったのか、怒りを滲ませながら口を開いた。
「何ですって……!? 黙って聞いていればあなた……ふざけないで下さい!」
そう言うとスカーレットは細ゴラムの後頭部を掴み床に叩き付けた。
「うげぇっ……!?」
「二度と私になめた口を聞かないように。わかりましたね、この"ヒョロガリ貧弱チビ棒人間"が……!」
そして見事に言葉のカウンターまで食らわせたスカーレットは、顔面を床にめり込ませた細ゴラムを置いて癒しを求めに託児所へ向かった。
◇
託児所へ辿り着くと、誰かが部屋の前に立ちスカーレットを待っていた。
「はぁ……。あなたもですか。今日は何故、皆して私の邪魔をするのです? そこをどいてくれませんか、マゼンタ? 私は早く子供達と遊びたいのですが……!?」
スカーレットが語気を強めて詰め寄ると、マゼンタはいつもの調子でのんびりとした口調で話し始める。
「あらぁ? ずいぶんな言われようねぇ。今日はせっかく子供好きに目覚めたあなたの為に、素敵な報告をしに来てあげたというのに〜」
「…………何だ。話だけ聞いてやる」
「ふふっ……。私にはその口調は辞めるの〜? お淑やかで可愛いのに〜」
「黙れ。さっさと要件を話せ」
殺気立つスカーレットに対し、笑みを浮かべながらからかうマゼンタ。
「はぁ〜い。実はねぇ、私ぃ……魔王様の子を孕んだの〜」
「何……!?」
スカーレットは驚愕した。彼女が数ヶ月に渡って子供達と戯れている間に、マゼンタは魔王との子を成していたのだ。
「あと半年もすれば産まれて来るの〜。ね〜? 嬉しい報告でしょ〜?」
「嬉しくなどない。さっさと消えろ」
スカーレットはマゼンタの報告を一蹴し、早く立ち去るよう促した。しかし、マゼンタは一向にその場から動こうとはしない。
「待って〜。実は折り入ってあなたにお願いがあるの〜」
「願い? 誰がお前の願いなど聞くものか」
不敵な笑みを浮かべて話すマゼンタに対し、苛立ちを抑えられないスカーレット。
元を正せば、スカーレットが託児所で働くようになったのは、マゼンタへの対抗意識を燃やしたからだ。
だが、マゼンタはその間に更に先へと進んでしまっていた。
スカーレット自身は特別、魔王の妻になりたいなどと考えてはいなかったが、今まで強さを追い求め、必死に研鑽を続けて来たが故に、同族であり、ましてや何も努力をしていないマゼンタに負けるという事がどうしても許せなかった。
「ひど〜い。で〜、お願いなんだけど〜。私の子供の世話をして欲しいな〜って」
「聞かないと言って――――お前……今何と言った……?」
スカーレットはマゼンタの願いなど聞く気は無く、門前払いの姿勢だったが、聞き捨てならない言葉に耳を疑った。
「だ〜か〜ら〜。私の子供を代わりに育ててって言ってるの〜」
「は……? 何故だ? 自分の子だろう? 自分で育てるのが普通だろうが!?」
「嫌よ〜。私、子供嫌いだし〜。それに〜、子供がいたんじゃ、魔王様は私を可愛がってくれなくなるでしょ〜?」
マゼンタから次々と発せられる無責任且つ、非人道的な言葉の数々に、スカーレットはいよいよ怒りの限界を突破した。
「ふざけんな!? じゃあ産まなきゃいいじゃねぇか!? 自分の子を愛せない者が、子など作るな! 産まれてくるその子が可哀想だろうが……!」
スカーレットは瞳孔を開き、マゼンタに怒鳴り散らした。彼女の怒りは鬼気迫るものだった。
なぜなら彼女が勤める託児所には、親がいる子もいれば、人間との争いで親を亡くした子も沢山在籍していたからである。
そんな子供達と接していく中で、スカーレットの中には並々ならぬ想いが芽生えていた。
「それはだめよ〜。この子は〜、私が魔王様の妻になる為には必要な物なの〜。だから、私は死んでもこの子を産む……そして、必ずあなたに私の子を立派な魔王に育ててもらうわ……」
そう言ったマゼンタの表情は、いつもの柔らかいものとは打って代わり、冷たいものだった。
「そうか……。なら、腹の子諸共、今ここで――――!」
スカーレットはそんなマゼンタを見て、全てを亡きものにしようと手に魔法を発現させ振り上げた。
「ふふっ……。やめておいた方がいいわよ〜? 私とこの子を殺せば、魔王様があなたを死の淵まで追ってくる事になるから〜」
ニヤリと笑うマゼンタの言葉を聞き、スカーレットは静かに手を下ろした。
スカーレットはサキュバス、ひいては魔族内においてもかなりの強者であることは間違いない。
だが、魔王に勝てるなどという思い上がった事を考える程、馬鹿ではなかった。
「チッ……。今の話は聞かなかった事にしてやる。だからさっさと消えろ。じゃあな」
スカーレットはそう言い残し、マゼンタを押し退けて託児所の中へと入って行った。
その場に残されたマゼンタは一つため息をついてその場を後にした。
◇
それから半年程経ったある日。
魔族領内にとある知らせが流された。
その内容は"魔王とその妻マゼンタとの間に子が生まれた事"。同時に"魔王が謎の急死を遂げた事"であった。
スカーレットも勿論その知らせは受けていたが、魔族領内が慌ただしくなっていく中、何も気にせず仕事に没頭していた。
◇
それから数日。
スカーレットの元へ大きな箱が届いた。
「む……。何でしょう、この箱は……? 随分と重いですね。――――ん? この紙は……?」
スカーレットは運び屋から箱を受け取ると、添付されていた一枚の紙を見付ける。
それはマゼンタからの手紙だった。
『親愛なる同胞スカーレットへ。
あなたがこれを読んでいる頃には既に、私は魔族領内から姿を消しているわ。そして魔王様とその妻を欠いた魔族は更なる混乱に陥るかもしれないわね。
でもそんな事はどうでもいいの。
私は魔王様がいない世界に生きている理由なんて無い。私は魔王様を愛している。何よりも、誰よりも愛しているの。
だから前にも伝えた通り、私はそれをあなたに預けるわ。時期が来たら取りに戻るから。
それじゃあね〜。
あなたが大好きなマゼンタより』
「ふざけているのか……?」
スカーレットは手紙をぐちゃぐちゃに握り潰し、慌てて届いた箱を開けた。するとそこには何も状況がわかっていない赤子が一人、入っていた。
「こんな……。こんなふざけた紙切れ一つで、私に子を預けると言うのか、あのゴミクズは……!」
産まれて間もない赤子を見つめ、怒りに震えるスカーレット。そんな彼女の震える手の指を、赤子はぎゅっと握る。
「だぁ……! だぁあ……!」
「ふっ……。何もわからないといった様子ですね……。わかりましたよ……。あなたに罪はないですからね。私があなたを育てます。誰よりも気高く、素敵な魔王様に……」
こうして、スカーレットと運命的な出会いを果たした赤子は一ヶ月後、転生した意識が憑依し、魔王エルとして覚醒する。
因みに、エルのふざけた名前は魔王とマゼンタが付け、エルが入っていた箱に汚い字で書かれていたそうな。
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