105話 スカーレットの過去③
アイリスの部屋を飛び出して、魔王城にある託児所へ辿り着いたスカーレットは、勢いよく扉を開けた。
「たのもー!! 私はスカーレット! 誰にも負けない立派なレディになる為にここへ来た!!」
そして扉を開けるやいなや、大声で自らの名と意気込みを口にした。
すると一瞬の沈黙の後、一人の子供が泣き始め、連鎖的に他の子供達まで大泣きを始め、託児所内は騒然となった。
「びぇぇぇぇえええん!!!」
「うわぁぁぁぁああん!!!」
「恐いお姉さんが来たァァァ……!!」
「恐いよぉー!!」
子供達の泣き声は、スカーレットの叫びを優に超える程の音量で彼女の耳を刺激した。
「な、何だ!? 精神攻撃か!?」
思わず耳を塞ぐスカーレットの元へ、一人の女性が近寄り声を掛けた。
「あんた誰? 新入り?」
「え!? 何だって!? 何も聞こえないのだが!?」
耳を塞ぎ、女性に反応を示すスカーレットの声量は、更に大きくなっていた。
「まず耳から手を離しなよ、馬鹿なの?」
「あ? あぁ……」
女性はそう言うと、スカーレットの手を軽く叩き耳から離すよう促す。そして未だ泣き声が収まらない部屋の中で、女性はスカーレットに再度同じ質問をした。
「で、あんた誰。新入りか?」
「私はスカーレット! アイリス様の命を受け、ここへやって来た! だから私を立派なレディにしてくれ!」
「はぁ……? 何言ってんの……あぁ、そういう事……」
女性の問いに威勢よく答えるスカーレットに、最初こそ理解し難いといった表情を見せたが、すぐに状況を察し彼女の姿をまじまじと見つめる。
「な、何だ? 私、どこか変なところがあるか?」
「いや、何もないよ。うーん、まぁいいんじゃない? 乳もデカいし、子供に好かれるだろ」
「ん? どういう意味だ……?」
「そのままだよ。子供は乳が好きだからなー。ここの仕事は楽だぜー? 適当に子供の面倒見てりゃあいいだけだからよー」
どこか気だるそうに話すその女性はそのまま、泣きじゃくる子供達を一箇所に集めポケットから吸血鬼のぬいぐるみを取り出すとそれを見せ口を開いた。
「ねーねー、みんなー? どーして泣いているのかなー?」
「なっ……!?」
先程までの気だるそうな雰囲気とは打って代わり、子供が好みそうな可愛らしい声で話しかける女性。スカーレットはそのギャップに絶句した。
しかし子供達はソレが大好きなのか、途端に泣くのを止め、そのぬいぐるみに話し始めた。
「あのお姉さんが恐くって……」
「おっきな声で僕達をいじめるんだー」
「そーなのー? じゃあ、あのお姉さんは私がやっつけてあげるよー! みんなー、応援してくれるかなー?」
完全に悪者扱いをされているスカーレットを他所に、女性による人形劇は順調に進み、子供達と一体となり始めた。
「アイちゃん、頑張れー!」
「恐いお姉さんをやっつけてー!」
「よーし、力が湧いてきたよー! いくぞー!」
子供達の応援を一身に受け、アイちゃんと呼ばれるぬいぐるみをもった女性はスカーレットの元へと近付く。
そして――――
「アイちゃーんパーンチ!」
「アイちゃんパンチー!」
「いけー! アイちゃーん!」
渾身の"アイちゃんパンチ"がスカーレットの右頬に炸裂した――――が、スカーレットは何の反応も示さない。子供達はそんな彼女を見て不安そうな表情を浮かべ始める。
「え……アイちゃんパンチが効いてないの?」
「アイちゃん負けちゃうのヤダ〜」
不安感を募らせる子供達の表情を見た女性は、すぐさまスカーレットの耳元に寄り、口を開いた。
「ちょっとあんた。こういう時は普通『やーらーれーたー』だろ? わかれよ……!」
「いや、だが私は一切のダメージを受けていないのだが……」
小声ながら必死に訴える女性に対し、頬をポリポリと掻き困り顔のスカーレット。
「は? 何言ってんの、馬鹿なの、死ぬの? これは遊びだから……!」
「いや、遊びとはいえ自ら負けを認めるのはちょっとなぁ……。それに私は最強のサキュバスだから……」
そんなスカーレットの言動に苛立ちを覚え始める女性と、未だ抵抗を続けるスカーレット。
「知らねーよ……。いいからさっさとやられてくれよ……!」
「わ、わかった……。やられるフリをすればいいんだな? だが、断じて負けを認めたわけではないからな!?」
「もうあんた黙れよ……」
そして遂にやられ役を引き受けたスカーレットだったが、最強の自負を捨てきれない。そんな彼女に呆れた様子の女性は、深呼吸をしてから気持ちを作り直し、再度アイちゃん役を演じ始める。
「――――よーし! じゃあもう一回いくよー! アイちゃんパーンチ!」
再び繰り出されたアイちゃんパンチ。一度スルーされたソレが今度は通用するのか、子供達は固唾を呑んで見守った。
「ぐはぁーやーらーれーたー。ばたっ……」
そしてスカーレットは見るに堪えない棒読み演技に、自ら倒れる効果音を付け加え、やられ役を完遂した。
「わ、わーい! みんなを恐がらせる悪いお姉さんをやっつけたぞー!」
「やったー!」
「アイちゃんつよーい!」
「さすがアイちゃんだー!」
スカーレットのあまりにも下手な演技に若干引き気味だったアイちゃん役の女性だったが、何とか軌道修正し、勝利を子供達にアピールした。
すると子供達はアイちゃんの勝利に歓喜し、手放しで喜んだ。その表情は一切の曇りも無く、皆はただ純粋に、そして嬉しそうに笑っていた。
「な、何て……何て尊いんだ……!」
そしてそんな子供達の表情を見たスカーレットの中で、何かが芽生えた。
「私のやられる姿を見て、あれ程までに喜び、笑うのか……。それにあの屈託の無い笑顔……。可愛い……可愛すぎる……うへへ……」
「ねー、あのお姉さんきもちわるーい」
「そうだねー。ちょーっと待っててねー?」
子供達を下卑た目で見つめ、感情を口に出してしまっているスカーレットに対し、子供達は気持ち悪いと言い、女性は彼女の元へと駆け寄った。
「あんた、顔キモすぎ……。何、目覚めちゃった?」
「えぇ、最高です……。子供って素晴らしいですね、尊いです……」
スカーレットはこれまで他の者に目もくれず、己の強さばかりを追い求めて来た。それにより子供と接する事など一切無かった。
そんな彼女にとって、子供達の無垢な笑顔はとてつもない破壊力だった。
「否定はしないけどさ、とりあえず子供達の前でその顔と感情を出すのは禁止な。あと、私の名前は"センパイーン"な。これから私があんたの教育をしていくからちゃんと覚えるんだよ?」
「はーい、うへへ……」
それからというもの。スカーレットはセンパイーンの指導を受け、立派な保母さん――――もとい、レディになる為に一生懸命に働いた。
とは言いつつも、目覚めてしまったスカーレットにとって、この場所は天国であり、それから数年間、休むこと無く毎日託児所へ通った。
スカーレットは子供達が大好きであったが、滲み出る気持ち悪さに子供達は終始引き気味で、最後まであまり懐くことはなかった。それでも彼女が満足気な表情をしていたのは言うまでもないだろう。
そして運良く目覚めた"ロリショタコン"の才能は、彼女の今後の運命を左右する大きなものとなった。
◇
その後スカーレットは、子供に恐がられないよう口調を優しいものに変え、強さを追い求める時間も子供達にあてて行き、やんちゃ娘として名を馳せていた頃の面影は無くなっていた。
そんな時、廊下を歩くスカーレットの前に、体格のいいゴーレム魔人が立ち塞がった。
「お、おい、テメェ……! 俺様の事……覚えてるかァ……?」
「はい……?」
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