104話 スカーレットの過去②
そしてアイリスは戸惑いつつも、泣きじゃくるスカーレットの頭を優しく撫でて話を聞く事にした。
「泣いているだけでは何もわからないわっ……? スカーレット、一度落ち着いて深呼吸をなさい?」
「うっ……うぅ……。――――スーーハーー……」
先までやんちゃ娘モード全開だったスカーレットは、素直に深呼吸をし始める。
すると、徐々に落ち着いてきたのか、涙を拭うとアイリスに話を始めた。
「聞いてくれよアイリス! さっき嫌な奴に会ってさ……!」
そこからスカーレットが話し始めたのは所謂マゼンタの愚痴であった。
内容は――――『やれ、私の方が綺麗だ』だの、『やれ、魔王様にハレンチな行いをした』だのと聞くに絶えない負け惜しみのようなものだった。
だが、アイリスは女神の如く、黙って聞いていた。
「――――な!? 酷いだろ!? 最後には私の純潔を笑いやがったんだ。許せないだろ?」
「うーん……そうね。まず確認なんだけど、スカーレット。アンタはその……マゼンタとかいう子に魔王様を盗られた事に腹を立てているの?」
「いんや?」
アイリスはスカーレットが何故泣きながら自室へ駆け込んで来たのか、そして怒りを露にしながら愚痴を吐き続けていたのか。その理由を尋ねた。だが、返ってきた答えは、予想していたものではなかった。
「え、え……? じゃ、じゃあ、アンタはマゼンタに純潔を馬鹿にされた事に腹を立てているの?」
「うーん……その時は、恥ずかしいとかはそういうのはあったけど……。今はそうでも無いかも?」
「…………。じゃあアンタは何がそんなに気に入らないわけ? 私に永遠と愚痴を吐き続けていた理由は何なのよ?」
「えっと、そりゃあ……!! あれ、なんだっけ……?」
「はぁ……?」
アイリスはスカーレットの奔放っぷりに頭を抱えてしまった。スカーレットは無駄な思案顔を浮かべているが、自分が何に腹を立てていたのかさっぱりわからない。
何故なら、ただ一方的にマゼンタに対し、負けた気がして、勢いで彼女を罵倒し、部屋を飛び出して来ただけだからである。つまり理由など無く、ただの負け惜しみだった。
「本当に何だったっけ……? 泣いたら割とスッキリしちゃった節があるんだよな。とにかくアイツがムカついた。それだけ……?」
「はぁ……。アンタねぇ……。私だって暇じゃないのよ? 高潔な吸血鬼の長として仕事があるの!」
「何だよー。つれないなぁー」
「そもそも、アンタだって魔王様の配下なわけでしょ? 仕事はないの、仕事は?」
アイリスは呆れ返りつつも、スカーレットに仕事の有無を問う――――が、やはり返って来たのはやんちゃ娘らしい答えだった。
「あんなもん、私のやる事じゃないからね! 私はサキュバスで一番強いからな。魔王様のお側で、人間族を滅ぼすお手伝いをするのが似合ってるんだ!」
「何言ってんのよもう……。そんな事言って、さっき同種族のマゼンタに負けたんでしょ? 魔王様のお側も盗られて、何も残っていないじゃない」
「…………っ!! そうだった……どうしよう……?」
アイリスに呆れながら現実を突きつけられたスカーレットは、ハッと我に返り彼女に泣き付いた。
しかしここからアイリスによる、無自覚な怒涛の精神攻撃が始まるのだった。
「どうするったって……。まぁアンタの強さは認めるけれど、アンタ、それだけなのよね……」
「なっ……!?」
「口調も荒っぽくて、立派なレディとは言い難いし……」
「ぐっ……!!」
「顔やスタイルは確かに素晴らしいけれど、それに頼りすぎて肝心のメイクや髪型を疎かにし過ぎ」
「ガハッ……!!」
アイリスの連続口撃によってスカーレットのライフはもう残り僅かの所まで来ていた。
そしてここでアイリスからトドメの一撃が放たれる。
「まぁアンタって、外見だけはいいけど中身は最悪。所謂、一晩だけの相手って感じで、本命には一生敵わない"負けヒロイン"なのよ」
「グボゥエ……ッ!」
スカーレットは口から魂を吐き出して、天に召されようとしていた。しかしそんな事はお構い無しにアイリスは更なる追い討ちをかける。
「ていうかマゼンタって誰よ? 私、長い間魔王城に住んでるけど、全然知らないわよ? だいたい、アンタがそんなだから何処の馬の骨かもわからないマゼンタとかいう子に負けるのよ。もう少し、女を磨いたらどうかしら?」
「も、もうやめて……」
アイリスの部屋に、あるはずの無いゴング音が鳴り響いた。スカーレットはノックアウトされた。
◇
暫く呆然としていたスカーレットだったが、漸く意識を取り戻しアイリスの前に膝まづいた。
「アイリス! …………様。どうやったら私はマゼンタに勝てる!? …………と、思いますか?」
「知らないわよ! あと、その"様"とか敬語は何なのよ!? アンタ、私の眷属じゃないでしょ?」
突然かしこまった口調で詰め寄り始めるスカーレットに戸惑いつつも、アイリスは的確なツッコミを入れ応戦。だが、"元"やんちゃ娘であるスカーレットは我儘を言い出すと聞かないたちである。
「いえ! 私、スカーレットは今日この日を持って、アイリス様の眷属になります……! だから私を……立派なレディにして下さい……!!」
「はぁ!? 何言ってんのよ!?」
その後も互いにひかず、一進一退の押し問答を続け、最後にはアイリスが根負けする形で、スカーレットの望みを聞く事になった。
「はぁ……。もうわかったわよ……。なら、私の血を受け取りなさい。それが私の眷属になる条件よ」
「あ、それは嫌です。私はサキュバスである事に誇りを持っていますので」
「………………。もう怒る気も失せたわ。で? 結局アンタはマゼンタに勝ちたい。それだけ?」
「そうです。これからは口調も態度も改めます。後は何をすればいいでしょうか?」
「そうね……。まず、マゼンタって子はどんな子なのかしら? それを知らない以上は何も言いようがないわ」
アイリスにそう言われ、スカーレットはすかさず知り得るマゼンタの情報を全て伝えた。
「――――とまぁ、こんな感じの人物です。どうです? 腹が立つでしょう?」
「いや……正直、おっとりした口調以外は、気に触る所が何も無かったわ。基本アンタの妬み嫉み逆ギレだし……」
「うっ……。今思い返せばそれは否定出来ません……」
図星を突かれ、胸を押えるスカーレットを他所にアイリスは腕を組んで再度口を開く。
「まぁでもだいたいわかったわ。マゼンタにも無い、アンタの強みになり得るものがね」
「えっ!? 本当ですか……! それは一体何でしょう?」
「それは――――子供よ……!!」
「こ、子供……ですか……?」
アイリスの突飛な言動に驚きを隠せないスカーレット。
「魔族領内にも沢山の子供がいるわ。その子供達に好かれると一体どうなると思う?」
「どう……なるのでしょう?」
「子供達がアンタの味方についてくれる。それはつまり、多数決とかで絶対に負けなくなるのよ! そして更に突き詰めて言えば、その子達全ての支持を集められれば、その親も、遂には魔族領内の過半数の票だって集められるようになるのよ!」
「なるほど……!! それは凄いです……!!」
残念ながら、ツッコミ不在であった。この時のスカーレットはとにかく強さしか追い求めて来なかったが故に、今程知識や経験も無く、人に言われた事をすぐに信じてしまう子だった。
「だーかーらー。アンタにはこれから毎日、私の眷属の子供達のお世話をしてもらうわ!」
「はい! それをすれば子供達に好かれるようになるのですね?」
「勿論よ。頑張りなさい? 応援してるわ」
「はい! 一生懸命努めさせて頂きます!」
スカーレットはそう言い残し、アイリスに聞いた託児所の場所を覚え、部屋を後にして行った。
そして部屋に残ったアイリスは一人、したり顔で口を開いた。
「ふっ。馬鹿な子ね。強さだけは私に劣らないけれど、頭は非常に残念ね。まぁこれで、託児所配置の眷属に面倒な私の仕事を押し付けられるわー」
そう。アイリスは今にも増して、自分の事ばかりを考えるお嬢様思考であり、スカーレットの悩みを聞く気などさらさらなかった。
だが、スカーレットはそんな事を知る由もない。懸命に託児所を目指して廊下を駆けていた。
そしてここから、現在のスカーレットの人格を形成するに至る託児所での生活が始まる。
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